序章:冷めた男が目覚める瞬間 6
あの衝撃的なライブから3日が経った。学祭はすでに終了して、賑わっていたキャンパス内も今となってはいつもの平穏さを取り戻していた。
「俺はバンドやる!」
午後の講義の中、ぼんやりカルチャーホールの出来事を思い浮かべていた。
理性より感情が先に走っていた。全身の血が騒いだ。とにかくシビれた。もはややらずにはいられない。
気が付けば講義が終わり、終了のチャイムが鳴り響いている。
「鋭士っ!なんだ〜お前、元気ないな〜?!まさかっ、彼女に振られたのか?!」
真行だ。俯いていても近付いてきたらすぐわかる。
「彼女じゃないよ、舞は。」
ぼんやりとそう応える。
「ま、いいや!今日どっか寄ってかね?俺はカラオケが…」
「真行っ!!」
俺は無意識にデカい声を出していた。
「お、おう…悪かったよ、ホントスマン!!」
たじろぐ真行。よほどビックリしていたようだった。
「今日は俺に付き合ってくれないか?行きたい所があるんだ。」
真行はちょっと困惑してたが、すぐに同意してくれた。
「ああ、そういう事なら今日はお前に任せるよ!さっ行こうぜ!」
真行は親指を立てて俺を招く。それにならって俺は立上がり講堂を後にした。
俺の行きたい所、それは察しのとおり楽器店だ。目的は2つ。ひとつは楽器の購入。もう一つはバンドメンバーの募集だ。ただ今日は金もないし、見に行くと言った方が正しいけどね。
大学を出て電車を乗り継ぎ楽器店にやってきた俺と真行。最後に来たのが高校生の時だったから久し振りの楽器店だった。
「なんでまた楽器店?バンドでもやるのか?」
「まーな。」
俺が探しているのはギター。実は前にやっていたんだよね。ただあの時は借り物のテレキャスタイプのギターだったが。
だけど今回はちょいとハードな音が出せるようなギターを狙っている。そう、ロックなやつだ。
「お前、ギター弾けるの?」
「ああ、前にやったことがある。そんなにうまくはないけど。以外だったか?」
「いやあ、正直驚いたぜ?」
そこで俺は一本のギターに目が止まった。24フレットでピックアップはシングル・シングル・ハムバッカーでアーミング可能なロック式・、色は深いブルー。その外観を一言で言えば…カッコイイ…。値段はオープンプライスで39800円。これくらいなら俺にも買える。店員が言うには値段の割りには音も良くて、ネックも握りやすく軽い。初心者にはうってつけの一本だそうだ。
「これに決めたよ、真行。」
「おっ、結構カッコイイじゃん!お前にピッタリだよ、コレ。」
真行にそう言ってもらえて有り難く思いながら、俺は店員にこのギターを買う予約をした。今日は金がないからね。そしてもう一つの目的、メンバー募集をかける為に、募集要項を書く事にした。記入用紙をもらうと俺はその辺のイスに座って書き始める。
ええと…、“当方はギター20歳です。最近始めたばかりの初心者ですが、新しくバンドを組みたくて今回Vo.Ba.Dr.を募集します。プロ思考ではなく、楽しく出来るバンドがやりたいです。気になった方は気軽に連絡して下さい。メールアドレス→----@----”…と。よし、我ながらよく書けている。一人でもメンバーが来てくれると嬉しいんだがな。俺はこれを店の掲示板に貼ってもらい、店を後にした。
「バンドやるって言うけど、お前軽音部に入るつもりなのか?」
「ん?ああ、いや、軽音部には入らないよ。俺はチャリ部だし、掛け持ちは大変そうだからな。」
「やはり、外バンか?」
「そうだな、その為のバンド募集だからな。」
「ま、精々頑張れよ!応援してやるぜ、鋭士!」
「ああ、サンキューな!」
そして俺はギターを手に入れた。翌日のことだ。落ち着くようなダークブルーのボディのそれは、店で見た時よりもカッコよかった。フフフ、今日から俺もミュージシャンか、超カッコイイぜ俺!ストラップを長めに肩から下げて俺はご機嫌だった。弦を弾くと曇りのない透き通る音が部屋に響いた。適当にコードを弾いてみると、その姿はまさにギタリスト。もう一回言っていい?超カッコイイぜ俺!
その日俺は数年分のカッコイイと言うセリフを口にしていた。




