序章:冷めた男が目覚める瞬間 5
無駄にテンションの高いチョコバナナの露店を後にした俺達は、チョコバナナをむさぼりながら軽音部のライブが行われる第ニカルチャーホールを目指していた。
「ところでお前軽音部に知り合いでもいるのか?見たいバンドがあるとかか?」
ふと俺は舞にそんなことを聞いてみた。
「う〜ん。知り合いとかはいないけど、なんか軽音部って華やかでカッコイイ感じがしない?私達のサークルはちょっと地味だけどね〜。それに初めてだしライブとか。なんかワクワクするっていうか、なんていうか…」
舞が言わんとしていることは何となく分かった。要はコイツは、たま〜には地味でゆる〜いサークル活動の息抜きに、テンション高い時間を取り込みたいってハラなんだろう。まあ分からないでもない。
舞はプレミアムチョコバナナを嬉しそうに振りながら続ける。
「私もテンションあげて頑張らなきゃね〜。真行くんばりに!」
「いや、あいつは無駄が多すぎる。悪いこと言わんから真似するのは止めとけ。」
「あ〜っ当たりだ〜!えいちゃん見て見て、当たりだよ。プレミアムだよ。いいでしょ〜♥」
聞いちゃいねぇ〜…。
「ライブ終わったらプレミアムチョコバナナと交換に行こうね!」
てことはまたあの無駄にテンションの高い露店にカムバックですか。もう行きたくないと思ってたのに…。
「あ、あぁ〜そりゃぁ良かったなハハ…。」
ちなみに俺のプレミアムの棒には“惜しいっ!!”と書かれていた。惜しいっも何も要は外れじゃん!くっそ〜真行め!くだらない不毛なもん作りやがって!無駄にテンションが上がっちまったじゃんか。
そんなこんなで俺達は第ニカルチャーホールに入っていく。ここは普段は学科ごとに集まって実習講義をしたり、体育系のサークルが決められた時間に使ったり、求人の為に企業がブースを設けて説明会をしたりするのに使われている。無論第一の方も同様だが、第ニの方が新設のため、広さ、空調、音響などの設備は第一のそれを凌駕している。つまり軽音部がライブを演るには絶好のステージなのだ。
「えいちゃん!こっち空いてるよ〜!」
舞が手際良く席を確保して俺を手招きしている。時間的にギリギリだったのでホール内はかなりの混雑だった。ちょうど良く席が空いていたのは新設ホールの広さの恩恵か。
「はい、お茶。」
「ああワリ、サンキュー。」
舞が手提げに持っていたお茶のペットボトルを手渡してくれた。用意がいいな。
それからまもなくして、照明が落ち、ステージだけがスポットライトで照らされた状態の中、沸き上がる歓声。正直言ってその段階で俺は少々ビビってしまった。なんせこういうライブなんてイベントは初めてなもんでね。だが、それとは裏腹に無意識にテンションが上がっていくのを意識的に感じ取れる不思議な感覚に襲われていた。 そんな状態のまま演奏が始まっては終わり、次のバンドが出てきてはまた次のバンドという感じに時間が過ぎていく。俺はその間ふと思い出していた。そう実は過去にバンドを演ったことがあったんだよね俺。まあ、ライブを演る前に解散しちゃったんだからこういう経験はなかったが。
「やっぱいいよなこういうの。」
誰に言ったつもりでもなかったが、俺は無意識にそうつぶやいた。隣に目を向けると、腕を高く突き上げてノリノリな舞。いや、舞だけじゃない。どこを見ても歓声と共にみんな一つになって盛り上がっていた。中には跳びあがってる人もチラホラ見受けられた。
ステージ上ではたたみかけるドラムに合わせてベースがグルーヴを作り、攻撃的なギターサウンドに合わせてヴォーカルが激しくシャウトしていた。なんて楽しそうなんだ。いや、なんて楽しいんだ。これはヤバい。なんなんだこの感じは?!
ああ、そうか…そうだったんだ。鋭士、お前はこれをやりたいんだろ。やれよ、バンドやっちゃえよ!
俺の中のもう一人の鋭士が、俺にそう言った気がした。
「…俺もバンドやりてぇーっっ!!」
心の中で俺は叫んだ。
「…ん、…ちゃん、えいちゃんっ?!」
ふと我にかえると、演奏は終わっていて、舞が心配そうに俺を揺さぶっていた。はっ、俺は一体?
「えいちゃん?大丈夫?ライブ終わったよ?どうしちゃったのボーッとしちゃって?」
「舞っ!!」
「えっ?!な、何?」
「俺、決めたよ。」
「何を?」
「俺はバンドやる!」
「へ?」
「俺はバンドがやりたいんだ!だからやってやるぜ!」
「ええ〜っ?!」
俺は慌てふためく舞の前でこう宣言したのであった。そうだ、舞じゃないけど俺もユルくて刺激のない繰り返す毎日にウンザリしていたんだと思う。そこから抜け出すためのバンドをやりたいんだ!




