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8章:アタシを侮辱した代償は大きいんだからね!覚悟しなさい!

 営業時間外の滝川モータースにアタシと鋭士はバイクでド派手に突入した。その勢いで挨拶代わりに悪党ヅラした巨漢にバイクごと体当たり、奴は飛ばされた勢いでリフトの支柱に激突し昏倒している。鋭士のヤツ、バイクの免許持っていないから運転の保証は出来ないとか言っていたけどなかなかやるじゃない!さすがチャリ部ね。


「那秧、大丈夫か?」


「僕より、帆乃風さんを」


 ナオは整備中の車にもたれかかったまま帆乃風の倒れている方を指差した。


「咲姫、帆乃風をたのむ」


「うん」


 アタシは脱いだヘルメットを放って倒れている帆乃風のもとに駆け寄った。

 帆乃風はナイフを片手に放心状態でへたり込んでいた。ぱっと見大きな怪我はしていなかったが首筋に切り傷を負っていた。


「なーにしてんの帆乃風。アンタまさかっ、お漏らし?」


 ちょっと意地悪してみる。


「ち、違うわっ!でも咲姫……無事でよかった」


「えへへ、アンタもね!」


 へたり込んでいる帆乃風に手を出して起こし抱き合った。そこへ鋭士とナオが駆け寄る。


「さて、第2ラウンドといくか」


 鋭士がそう言った方を見ると、さっきの体当たりで昏倒していた巨漢の男がゆらりと立ち上がっていた。相手は3人でそのデカイ奴にバイクに乗ったままのライダースーツの小柄な奴、そして黒のロングコートとレザーパンツにブーツの全身黒ずくめの奴。恐らくコイツがボスね。


「はじめまして、おまえがSHINEのギタリストの鋭士君だな?前回のライブ、見させてもらったぜ。初めてにしちゃいいライブだったな」


「なんだそれ?褒めてんのか?」


「いや、とんでもねえ。あんな下手糞なギターテク、この先長くねえぜ?」


「なんだとテメー、ケンカ売って――」


「そうだねっ!」


 苛立たしげにいきり立つ鋭士の会話を遮ってアタシが前に出る。黒ずくめの男は訝しげな視線をアタシに送る。


「あぁん?」


「確かにアンタの言うとおり。鋭士のギター、バッキングはおぼつかないしソロはバラバラで歌いにくいったらありゃしない。正直うんざりしてるのよねアタシ」


 アタシのおしゃべりで鋭士がさらにイラついたのは言うまでもない。アタシは下に落ちていたモンキーレンチを拾って右手でマイクのように握りしめる。


「じゃあアタシの歌はどうだった?ええと、アタシ咲姫。アンタ名前は?」


「コウだ。そうだな……聞くに堪えなかったぜ。耳が腐るかと思った。オマエ、ウチのバンドに来ねえか?イイ歌、歌わせてやるぜ?」


 アタシは一瞬鋭士の方を振り向いてニッと笑みを見せてコウに向き直る。左拳の親指をサムズアップ、そしてそのままくるりと下に向け右手に持っていたモンキースパナを奴に思いっきり投げつけた。見事命中!第2ラウンド開始っ!


「アタシを侮辱した代償は大きいんだからね!覚悟しなさい!」


「くっ、ブチのめせ!!」


 コウは腹部を抑えながらバイクの男に指示を出す。そいつは急加速でアタシめがけて体当たりしてきた。


「危ねぇっ!」


 間一髪鋭士がアタシを身体ごと絡めるようにして躱した。ちょっと、どさくさにまぎれて変なとこ触らなかったでしょうね?


「ありがと……ちょっ、大丈夫!?」


「ああ、なんとかな」


 鋭士はなんとかアタシをかかえてバイクの攻撃を躱していた、いや――実はかすっていた。脇腹が切れて血が滲んでいたからだ。ふとバイクの男を見るとブーツに仕込み刃が付いている。こうなったらアレで……


「待て咲姫。俺が奴の気を引くからその時がきたら……決めろ」


「え?で、でも」


「頼んだぜ!」


 鋭士はそう言うと立ち上がってバイクの男に向かっていった。

 気が付けばナオと帆乃風は二人がかりで巨漢の男と格闘している。

 

 鋭士は劣勢だった。バイクの男はバイクを手足のように巧みに操って鋭士を翻弄している。なんとか掴みかかってバイクから引きずり下ろしたいのだろうが、仕込み刃がそれを許さない。鋭士は周辺を逃げ回るのが精いっぱいのようだ。


「はぁはぁ、来いよバイク野郎。まだ終わっちゃいねぇぜ?」


 あろうことか圧倒されている癖に鋭士はバイクの男に挑発をした。なにやってんのよ鋭士、アンタバカ!?

 それに乗ったのか、フルスロットルで奴は鋭士に向かって突進し始める。唸りを上げるエンジン音とともに強烈な体当たりが鋭士を襲う――――はずだった。ところがバイクは鋭士の手前でバランスを崩して激しく転倒してしまった。奴はバイクから投げ出されて床に転がる。実は鋭士のヤツ、逃げ回るフリして辺りにオイルを撒き散らしていた。手には隠し持っていた注油器があった。


「咲姫ィー!今だぁ!!」


 来た!アタシの出番!

 アタシは背中に隠していたある武器を取り出した。えっ?何って?それはハンドボウガン。ここに来る途中コウの手下が持っていたブツで、腕に装備することもできて威力もハンパない代物よ。でもね――


「だあああっ!!」


 アタシはボウガンで起き上がろうとしているヤツのヘルメットに殴りかかった。フルフェイスのシールドにボウガンの突起部が刺さってそれを打ち砕いた。


「お前、それ使い方間違ってる」


「だって矢なくしちゃったんだもん、仕方ないっしょ」


 鋭士がボソッと呟いたのに笑顔で応える。結果オーライ文句はないよね?

 その時バイクの男が立ち上がって壊れたヘルメットを脱いで投げ捨てた。--ヤツは男じゃなかった。整った顔立ちに肩口まで切りそろえられた髪。年はアタシと同じくらいで、女故に身体が小柄なのも納得できた。しかし納得している場合じゃなかった。なぜならヤツは拳銃を片手にしていたからだ。


「やめろツキナ」


 その時コウが言った。


「何故だ?何故止める?」


 ツキナと呼ばれた女は拳銃をアタシに向けたままコウに言い放った。


「オレはブチ殺せとは言ってねぇ。ブチのめせっつたんだ」


「……」

 

 鋭士がアタシの前に出て庇ってくれたけど、ツキナは拳銃を下ろそうとしなかった。


「フン、それは次回にとっとけ。おいシンバ、引き上げるぞ」


 コウはシンバにそう言い放つとバイクに乗りこんだ。ナオと帆乃風を相手に格闘していたシンバは、言われてその場を離脱しバイクに乗りこんだ。


「待てよ、逃げんのか?」


 鋭士がコウに問いかけた。


「違げぇよ。オイ帆乃風!お前の応えはよくわかったぜ!ラ・モールに戻らねえならお前にもう一人の死神を送り込んでやるぜ。これで終わったと思うなよ」


 帆乃風はその言葉に一瞬反応したが、すぐに切り返した。


「言いたいことはそれだけ?」


「いや、もう一つあるぜ。お前らのメンバーの郁斗がどうなったか知りたくねえのか?」


 なっ!?コイツ郁斗を、まさか?


「オイ、郁斗がどうしたってんだ?何処にいるんだ?応えろッ!」


 鋭士がまくし立てたが、ツキナに拳銃でけん制される。


「ククク、本当に知らねえようだな。ツキナ、教えてやれよ」


 それだけ言うとコウはシンバと共にバイクで走り去ってしまった。この場にはツキナだけが残された。


「ちょっとアンタっ!郁斗は何処っ?」


 今度はアタシがツキナに問いただす。

 右目を細めてツキナは言い放つ。


「あの男は死んだわ。わたしが殺したのよ」


「なっ!?」


 ツキナの冷たく言い放ったその言葉にアタシと他の三人は驚愕した。


「嘘ですっ!郁斗さんが死ぬ訳ありませんっ!」


「そうだよっ!拳銃持ってるからって調子に乗んな!」


 ナオの後に続くようにアタシは声を上げた。


「本当にそう思うなら自分の目で確かめてみなさい。あの男は車ごと郊外の橋の上から落ちて濁流に流されたわ」

  

 ツキナはそこまで言うとバイクにまたがって走り去った。


 信じられない。郁斗が死んだ?嘘よ、そんなの絶対嘘に決まってる。アイツが死ぬ訳ない……

 無意識に涙があふれてきそうになるのを何とかこらえるのが精いっぱいだった。

 


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