8章:俺だって訳わかんねえよ!!
ちっきしょう!なんでこんなことになってんだ?俺は帆乃風に呼び出されて飲みに行くはずじゃなかったのかよ!?
俺はついさっき帆乃風のマンション前でバイクに乗った連中に襲われて、それで、ナオと二人で乱闘してそれから……ああ!訳分からねえっ!とりあえず奪ったバイクで咲姫ん家向かってんだ。連中の一人が持っていた写真…俺達SHINEのメンバーが写っていて、このバイクの燃料タンクには巨大な鎌を持った死神にラ・モールのロゴ…只事じゃない予感がする。
頼む、無事でいてくれ咲姫!!
俺はバイクのスロットルをフルに開けて疾走した。
ひとまず咲姫の自宅に到着した俺はバイクを降りて呼び鈴を押す。部屋は暗い。いないのか?
ドンドンドンドン!
「開けろ!咲姫っ!!俺だ、鋭士だ!」
しばしの沈黙。本当にいないかも?仕方ないな。
俺は大きく息を吸い込んだ。
「あ〜あ、いないのか!せっかくメキシコから取寄せたエル・チャロのテキーラで一杯やろうと思ったのにな!しょうがねぇ、真行ん家でやろうっと!」
パッ!ガチャリッ!
部屋の照明とドアが開いたのはほぼ同時だった。
「ようこそ!よく来てくれました!咲姫ちゃんはちゃあんと部屋でイイ子で待ってたよ!お兄ちゃん❤」
……チッ、いるじゃねえか。てか、その呼び方はよせ。
そこにはパジャマ姿の咲姫が眼を輝かせて立っていた。どうやら寝ていたらしいな。
「とりあえず上がるぞ、お邪魔しま〜す。」
「えっ!?ちょっ!?鋭士!?」
俺はなりふり構わず咲姫の部屋に上がった。すぐさま那秧にメールで咲姫の無事を連絡しようとしたが、バッテリーが切れていた。
「鋭士?あの~エル・チャロのテキーラは?」
「…そんなものはない。」
「は?」
「それより、今大変な事が起きているんだ。どうやら帆乃風が関係しているらしい。」
「ちょっと、訳わかんないんだけど?何なのアンタ、いきなり押しかけ…」
「俺だって訳わかんねえよ!!」
咲姫の言葉を遮るように俺は怒鳴った。
「なによ!帆乃風がどうしたっての?ちゃんと説明しなさいよ。」
「わかった、ちゃんと説明するから、ちゃんと聞いてくれよ。」
俺はそこにあったソファーにへなへなと座った。咲姫は床にあったクッションに座った。
「手短に話すぞ、どうやら帆乃風が事件に巻き込まれたらしい。俺も那秧もさっき襲われた。」
俺はナイフでかすめて裂かれた左袖と血の滲んだ腕を見せた。
「うそっ!?ちょっと、大丈夫なの!?でもなんで鋭士達が?帆乃風も?」
咲姫は包帯を取り出して俺の左腕に巻き始めた。
「ラ・モールだ。」
「え?」
「帆乃風が昔やってたバンドだ。」
「まさか…?」
思い返せば帆乃風をバンドに誘おうとした時、渋ってなかなか加入しようとしなかった事や、加入後の居酒屋“天地海”でラ・モールについて一切話をしようとしなかった事に何か関係してるんじゃないのか?
「とにかく全ては帆乃風が知っていると思うんだ。今、那秧に連絡してくれないか?俺の電話はバッテリー切れなんだ。」
「う、うん、分かった。ええと電話電話と。」
咲姫は包帯を巻き終えると、電話を探し始める。
「あった、…アタシもバッテリー切れだったんだ。ええと、充電器……。」
その時だった。
ヴォオオン……オオオン
外から数台のバイクのエンジン音が聞こえてきた。
「くっそ!奴等だ!逃げるぞ咲姫!」
カーテンをチラリとめくると3台、いや、4台のバイクが入口を囲むように停まっていた。
「逃げるって、アタシパジャマだし、那秧に連絡してないしっ!?」
「それは後だっ!!いいから逃げんぞ!」
ドゴッ!!バキッ!!
「きゃあああ!?」
玄関の扉が鈍器らしいもので破壊されようとしている音に咲姫が悲鳴を上げた。
「くそっ!来いっ!!」
俺は咲姫の腕を強引に掴んで裏手の窓から脱出した。
それから小一時間は2人で逃げ続けただろうか?俺たちは街のはずれを流れている河川敷まで来た。昼間に降った雨で河川は増水していて濁流と化していた。
「はぁ、はぁ、はぁ、ん…、はぁ、え、…鋭士、アタシ、もう疲れた…」
咲姫は息を切らしてその場でしゃがみこんでしまう。
「奴等はバイクだからな、グズってると見つかっちまうぜ。」
…ォォォォン……
まずい、まだ近くにいる。ちくしょう。
「咲姫、あの橋の下に隠れるぞ。あそこまで走れるか?」
「う、うん、わかった。」
咲姫は力を振り絞って立ち上がり、橋の下を目指して走り出した。
☆☆☆
ヴォン!ヴォン!ヴォオオオオンン………ォォォォン………
バイクの遠ざかる音を聞いて俺は大きく安堵した。
「もう大丈夫だ。…どうした?」
咲姫がパジャマの裾を気にしていた。
「さっき窓から出たときに引っ掛けちゃって……。」
怪我はしていないようだったが、裾は見事に破れていた。
「そっか、悪いことしたな。後で弁償するから許してくれよ?」
「ううん、いいよ。それより着替えるからあっち向いてて。」
「おまえ、あの状況でよく着替えなんて持ってこれたな?」
「まあね。いいから早くあっち向きなさいよ!」
そうか、さっきから手に持っていたカバンは着替えだったのか。
「なあ、これからどうする?」
「どうするって…アタシに言われても…」
「那秧に連絡できなかったんだろ?」
「うん、電話も置いてきちゃったし。」
「ここで少し休んでから、コンビニ行ってチャージキットでも買うか。俺のは電池切れだから。」
「そうだねっと。こっち向いていいよ!」
「全く、今日はなんて日…だ……!?」
振り向いた俺は絶句した。着替えた咲姫のその格好は…。
「な、何よ!あんまり見ないでよ!は、恥ずかしいじゃない!!」
「なんで着替えたのがメイド服なんだ!?おまえはまともな服を持っていないのか!?」
「だってしょうがないじゃない、あの状況で着替えを選んでいる余裕なかったもん!!」
「わかった、わかった、ただ…そのネコ耳だけは止めてくれ。頭痛が痛い。」
「これだけは外せないにゃん!!」
「外せよっ!!」
俺がパシッと叩くように咲姫の頭からネコ耳を外した。途端に咲姫が急におとなしくなったかと思うと…。
「うっ、ぐすっ!うう、ふっうぅぅ…」
泣き出してしまった。
「オイオイ…、すまんつい…悪かったよ…。」
「ち…、ちがうの…。アタシ…怖かったの。さっき家の扉が壊された時…うっ、ぐ、怖くて…動け…なくて…ずっ。」
「咲姫……。」
「鋭士がいな…かったらアタ…シ、今頃…。」
俺は泣きじゃくる咲姫をそっと後ろから抱きしめた。彼女は小刻みに震えていた。
「もう大丈夫だ。俺がついてるから。それに郁斗も帆乃風も那秧だって、みんな大丈夫だ。心配することないぜ。」
俺は抱きしめた腕を解こうと立ち上がろうとしたが、俺の意志とは反対方向に力が働いた。
「もう少し…。ううん、もっと強く抱いて…鋭士……。」
「な!?何だって?」
蚊の鳴くような声だった。一瞬、何を言ったのか分からなかったが、不思議とはっきり聴きとれた。
「お願い…、二度言わせないで……。」
俺はもう一度そっと、しかし力強く彼女の身体を抱きしめた。もう言葉はなにも要らなかった。




