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5つの雑音(ノイズ)が交わる瞬間(とき)  作者: 4弦ぶっちん
番外編 日常の過ごし方とは?
35/47

7章:真剣勝負で白い歯見せんなッ!!

「バッカヤロー。写真撮っとけって言っただろ!また戻って撮らせてもらえ!」


ガチャ!


「ふう、全くあいつは…なっつ!お茶煎れ直して頂戴や、ヌルいのね。」


「はぁい。」


今日の工場長は朝からご立腹な様子だった。内訳は保険担当の外村さんが事故写真を撮り忘れたらしいのと、事務の奈律美の煎れたお茶が熱かったらしい。そろそろ私にもとばっちりが来そうで何か嫌ね。とりあえず逃げとこう。


「おーい、帆乃風!」


遅かった。


「はい?」


「お前今日バスの運転手な。」


「はい!?」


な、何言ってるのこの人!?


「本当は今日は俺がやる予定だったんだが、急用が出来てな。来週の展示会の打ち合わせに出席しなきゃならなくなってよ。」


「そんな!私今日中にハチロクのチューニング仕上げないといけないのに。明日納車ですよ!?」


「残業確定でやっとけ。」


はぁ〜。ツイてないわ。バスの運転結構苦手なのよね。大型2種なんか取るんじゃなかった。

私にバスの運転手を命じたこの人は滝川さん。この整備工場“滝川モータース”の工場長。長年の実績があって、整備、板金、営業、統括のスペシャリストだ。ちょっとエロ親父入っているけど。

ウチの工場では小中学校や、老人ホームのバスの運転手も承っていて、本当はココで50年働いていたベテランの上司の人が運転していたんだけど、その人が先月退職しちゃって今は工場長か私が運転してるの。


「災難だね帆乃風ちゃん。ハイお茶。」


「うん…。お陰様で。」


私は事務の彼女からお茶を受け取り溜息混じりで飲む。この人は事務の

奈律美(なつみ)。私と同い年でこの工場でお茶を煎れさせたら右に出るものはいない。もちろん事務の仕事も完璧にこなすまさに出来た人。


「それで、私どこのバスに乗ればいいんですか?」


「西小学校な。遠足だとよ。急げ、時間がないぞ?」


はぁ〜、最悪だ。よりにもよって小学校だなんて…。遠足なんていうならバスなんか使わないで歩けばいいのに…。


「はい、コレ。」


「何コレ?」


奈律美から大量のお菓子を渡された私。


「遠足には付き物でしょ?」


「奈律美、何か楽しんでない?」


「まあね。」


はぁ〜。もう溜息しかでてこないわ。私は大量のお菓子を持ったまま事務所を後にし、バスセンターへ向かった。


ふう、とりあえず自己紹介しておくね?

私の名前は帆乃風。バンドSHINEのベーシストでリーダーもやっているわ。そして整備工場“滝川モータース”に勤務する整備士でもある。今日はメカニックの腕の見せ所ね!とか思っていたけど、ひょんな事から小学校の遠足でバスの運転をするハメになってしまった私。


今までは鋭士さんがお話していたけど、今日は私が話すからツマらなくても我慢して聞いてね?…というのは建前で今本音を言うと、鋭士さんに代わって欲しいくらいだわ。むしろ代われッ!その間私はナオ君のところに行ってこのお菓子を一緒に食べたいな。



こんなに天気がいいのに何の因果で大型バスで小学生と遠足なんかに…。大体今日の私の服装、絶対間違ってると思う。いつもはツナギ着て仕事してるから服装なんて色気のないものを着ているんだけど、今日に限ってなんでまた3段フリルのティアードなブラウスにキュロットスカート、それも短いやつ。最近咲姫が「女の子なんだから普段から可愛い服着てた方がいいよ!」なんて言うから、私なりに頑張ってみたけど完全に裏目に出ちゃったわ。かと言ってツナギでバス運転するのも変だし…。失敗したなぁ、Yシャツぐらい借りてくればよかったわ。大丈夫かなこのカッコ?


私はバスセンターに着くと事務所に問い合わせしに向かう。


「す、すみません!滝川モータースの運転手代理です。」


「ああ、話は聞いているよ。滝川さんの代理で……!?……キミはバスを運転するだけだからね?カラオケに行くわけじゃないからね?」


知ってるわそんなこと!(怒)


案の定詰め所にいたおじさんは私の格好を見て当然のリアクションをした。もう恥ずかしいわ!おじさんのYシャツとスラックス、私の服と交換して下さい。お菓子も付けますから!


「はい、コレ鍵ね。気をつけて行くんだよ!」


「…はい。」


頼りなさげな返事をしてバスに向かう。

私の運転するバスはいすゞのガーラ。エンジンは24000ccのV形10気筒ターボで460馬力、トルクは195kg。車長が12mを超えている。とにかく何から何まで大きい。


ギャヒヒヒヒ…ガァオオオンッ!ガァオオオンッ!!


いつもの癖でエンジンを煽ってしまった私。レッドゾーンを遥かに超えて4500回転まで回ってしまった。明らかにオーバーレブ。


プシィ!ゴオオオン!


私はとりあえず西小に向けてアクセルを踏み込んだ。



「おはようございます!西小学校4年A組担任の公平(こうだいら)です。」

「B組担任の原井(はらい)です。今日は宜しくお願いします。」


先生だ。二人とも男性教諭で、それぞれ30代、40代くらいの年齢か。どこから見ても先生って感じだった。それに比べて私は…。このカッコ、もはや整備士でも運転手でもなんでもないわ…。


「藤崎 帆乃風です。では私、バスで待ってますね。」


ああ、そういえば私の名字、藤崎って言うの。でも、みんな間違えるんだけど“ふじさき”じゃなくて“とうさき”だから間違わないでね?まあふじさきでもいいけど。


「ちょっと待って下さい!」


「はい?」


私は原井先生に呼び止められた。


「運転手はどこにいるんですか?あなたガイドさんですよね?」


ああ、なんて事なの…。私バスガイドじゃないし。てか、このカッコ、バスガイドすらあり得ないから。


「…私、運転手です。では。」


「はい!?」


驚愕の表情の先生達を尻目に私はそそくさと運転席に乗り込んだ。




「はぁ〜。」


私は今日何度目か分からないが馴れたような溜息をついた。

あーあ、早く帰りたいな。そしてタバコが吸いたいわ。


「よろしくおねがいしまぁす!」


「おねがいしまぁす!」


うわわっ!?小学生?小学生だ!カワイイ〜♥小学生ってこんなにちっちゃいんだ!?なんだか癒されちゃったわ、うふふ。無垢で健気な顔が凄く可愛い。ちょっとヤル気が出てきたかも!


「よろしくな!おばさん!」


「運転気をつけろよな 、おばさん!」


「ビニール袋ちょうだいおばさん!」


おばっ!?………前言撤回だわ!ふざけんな(怒)、ビニール袋の中真っ赤に染めてみる?このクソガキがッ!!


「ハイ、ビニール袋ね。それからキミ達、私のことはお姉さんって呼んでネ♥」


ぐにゃり。


私は今日一番の笑顔でハンドルをひねり曲げながら彼らに応えた。


「は、はいっ!!お姉さん!!…ガクガク」


ったく、最近のガキんちょは!どんなしつけ受けてんだか!


「それじゃ、みんな揃いましたので出発しちゃって下さい。」


人数確認を終えた公平先生が私に出発を促した。


「それじゃ行きます。」


ファアン!!


私はクラクションを一発鳴らしてアクセルを踏み込んだ。行き先は大展望台公園。峠の頂上であり、その峠は私の走り屋としてのホームコースでもある。


☆☆☆


♪〜♪〜♪


バスの中はカラオケ大会になっていて、それはそれはもう賑やかだった。


「原井先生歌ってー!」


「歌ってー!」


子供達は原井先生にリクエストする。先生も大変なのね色々と。


「ようし、歌っちゃおうかな!」


原井先生はノリノリだ。何歌うんだろ?


♪〜♪〜


あっSAZANAMI。懐かしい、昔よく聴いたっけ。


♪〜♪〜♪〜


上手い!何だか後ろからベースで煽りたくなってきたわ!


♪〜♪〜♪〜


「原井先生上手だねぇー!!」


「先生上手い!!」


「よせよお前ら、照れるだろっ!」


生徒達に褒められて照れちゃってる原井先生。でも何だかいいなぁ〜先生って。私整備士やめて先生になろうかな?そしたら………例えば教室とかで………


〜〜〜


「こらぁ!あなた達でしょ?入口に黒板消し仕掛けたの!」


「だって帆乃風先生トロいからすぐ引っ掛かって面白いんだもん。」


「何ですってぇ〜!」


「大丈夫ですか帆乃風先生?怪我はないですか?」


「な、ナオ先生!?わ、私は大丈夫…です♥」


「いけません、可憐な顔に粉がついていますよ。僕が拭いてあげましょう。」


「な、ナオ先生、恥ずかしいわ♥子供達が見てるし…」


「ヒュ〜ヒュ〜先生アツいね!」


「ちょっとあなた達、は、恥ずかしいでしょ♥」


「はい、取れましたよ帆乃風先生…じゃあ目を瞑って……」


〜〜〜


キャ〜♥ナオ君、だ・い・た・ん!!


「ちょ、ちょっと!?藤崎さん!?バスが蛇行してますよ!?」


はっ!?しまった!!……。


「すみません、私…大丈夫ですので、気をつけます…。」


はぁ〜。私、駄目ね…。


苦笑しながら歪んだハンドルを私は握り直した。


「藤崎さん、歌ってみますか?」


いきなり公平先生にそう振られた私。えっ!?私!?歌!?いや、無理よ!大体私運転手なのよ!?バスの運転手がカラオケを歌うなんて見た事も聞いた事もないわ!

…でも、ちょっとやってみたいかも。


「私、歌います!」


なんでかな、何となくだけど歌ってみたい気分になっちゃったわ。


「みんな、今から運転手さんが歌うから拍手をして下さいね!」


「運転手のおばさんが歌うんだって!」


「頑張れーおばさん!」


おばさん…。おのれッ!


私は車内マイクをONにして息を吸い込んだ。そして、


「私はおばさんじゃなぁぁぁいッ!!私は帆乃風!!帆乃風お姉さんと呼びなさいッ!!こう見えてもまだ20歳だからッ!!ナオ君の事が大好きだからぁぁぁッ!!なんか文句あるぅぅぅッ!?」


はあ、はあ、はっ!?しまったぁ〜!?私、子供相手になんて事を…。しかも本当は22歳なのにサバ読んじゃったし、どさくさに紛れてナオ君のこと好きとか言っちゃってるし!?


「今のナシでいいですか?」


「いや、ちゃんと聞いちゃったし…。とりあえず歌いましょうか?」


「…はい。車内マイクで歌いますから…。“ピリオドの向こう側へ”で入れて下さい。」


「わかりました、みんな拍手して!」


わ、わー!ぱちぱちぱち…


ま、まいったわ、さっきの車内アナウンスで皆引いてるし…。もはや歌で取り戻すしかないのね。

咲姫…ちょっとだけあなたの力を私に貸して。


♪〜♪〜


♪〜♪〜♪〜


♪〜♪〜


「スゲー!上手いよ!帆乃風お姉さん!」


「上手だったよ〜!帆乃風お姉さん!」


「わぁーッ!パチパチパチ!!」


ふふふ、なんか照れちゃう。


「びっくりしましたよ、藤崎さん!歌の仕事とか何かやっているんですか?」


驚いた表情の公平先生。


「…私は只の整備士よ。」


…か、カッコイイ!今の私カッコ良かったよね!?ね!?ね!?…ふふふ、悪いけど咲姫、ヴォーカルの座は私が頂くわ。


テンションが上がっちゃった私。ついつい右足にも力が入ってしまうのであった。


大展望台公園は峠の山頂付近にある観光スポットで、名前の通り展望台を始めパークゴルフ場、ガーデンパーク、大広場、物産館、レストランなどの施設が完備されている。今日は平日で人はまばらだったが、私は人込みが苦手だからちょうど良かったわ。

大型駐車場にバスを停めて子供達を降ろした私。彼らはバスを降りるとはしゃぎながら広場の方へ走って行った。はぁ…なんとか無事に着いたし、とりあえずタバコを吸おう。


チャバッ…ふぅー


車外に出てバスに寄り掛かっての一服が、こんなに気持ちいいとは思わなかった。天気も良いし風も気持ちいい。まさに至福の瞬間とも言える。…が、


「ヒソヒソ…」


通りすがる人が私を見て怪しげな視線を向けてくる。それもそのはず、傍から見たら今の私は観光バスに寄り掛かってタバコ噴かしてるヤンキーにしか見えなかったらしい。

しまったぁ〜。何で私こうなるんだろう?

私は逃げるようにバスから離れた。


はぁはぁ、つい逃げてきちゃったけどこれからどうしよう…?


行く所がなかった私は、とりあえずガーデンパークに行くことにした。

色とりどりに花が咲いている庭園をブラリと歩いてみる。ちょうどこの時期、花が咲くには絶好の時期で、パーク内は花のお祭りのように鮮やかだった。


花か…。私もこんな花のように綺麗で可愛い女の子になれればなぁ…。

私はたまたまそこに咲いていた緋色のナデシコを目にしてぼんやりと考え事をしていた。


〜〜〜


「綺麗な花ね、ナオ君!」


「ナデシコか…そうだな、この花のように美しいキミは、まさに大和撫子というのにふさわしいな。」


「ナオ君…♥」


「帆乃風、僕と結婚してくれ!」


「!?」


〜〜〜


キャ〜!!ナオ君そんないきなり私まだ心の準備が……


「帆乃風お姉さんだ!何してるの?」


はっ!?

またしても私は、シャングリ・ラへ飛んでいた。

そこから呼び戻したのは、バスで一緒に乗っていた子供達の中の一人の少年だった。


「お、お姉さんはこの花を見ていたのよ。」


ニッコリ笑顔で応える私。しかし…


「絶対見てなかったよな?」


「何か上向いてたよね?」


「オレ、さっき自分で自分を抱き締めてたの見たよ?」


「変態?」


ぬあっ!?…全部見てたのね。子供の観察力恐るべし。でも事実だから弁解の余地もない。ふん、どうせ私は変態妄想女で結構よ!


「ねぇねぇ、お姉さんは彼氏いんの?」


のあっ!?


「オレがなってやろーか?」


なんてデリカシーのない…。


「あ、ありがとね。でも気持ちだけで十分だからね。」


湧き上がる怒りを抑えて私はその子の前にしゃがんで応える。


「お姉さんダメよ!ユミがタカちゃんのお嫁さんになるんだからっ!!だから絶対ダメッ!!」


いや、私タカちゃんを取る気ないし…。


「だ、大丈夫よ。私…お姉さんは今彼氏はいないけど、その…す、好きな人がいるの!」


何言ってるんだろ私、小学生相手に…。


「向こうの広場でソフトバレーやりに行こーぜ!」


「そだね!いこいこ!」


ぬあっ!?スルー!?というか完全無視!?藤崎 帆乃風 22歳、小学生に無視されるつらさをこの時初めて知る…。

小学生特有の自分のペースと展開で会話するという技に見事にやられてしまった私だった。


「帆乃風お姉さんもいこッ!!」


ふへっ!?


私はミユちゃんに突然手を引っ張られる。


「ちょっと!?行くって何処に行くの?」


「広場!ソフトバレーやりに!」


「は!?」


私はそのまま広場まで拉致られてしまった。


広場は地面が芝生で多目的に利用できる敷地となっていた。これなら子供が転んでも怪我をしたりはしない。



…、…、…で、私は何故ここにいるの?私ってバスの運転手じゃあなかったっけ?


「じゃあいくよー!」


ばしっ!


変だよね?おかしいよね?私、運転手もとい…整備士よ?メカニックよ?20歳…ん、ん…22歳なのよ?私の居場所絶対間違ってるよね、ナオ君!?


ひゃぶっ!?


「なーにやってんの!帆乃風お姉さん!」


…整備士やってます。


トスの体勢のまま顔面にボールがヒットしてしまった私。ソフトバレーのボールって以外と速いのね。というか、私ソフトバレーのルール知らないわ?


「帆乃風お姉さん、ソフトバレーナメてると怪我するよ?」


いやナメてないし。むしろあなた達、さっきから私をナメ過ぎだからっ!


「しょうがないなあ、じゃあサーブ打たせてあげるよ!はい、ボール!」


何その上から目線!?ナメてるの?


「線の後ろから打つんだよ!」


だからナメないで!


「手で打つんだよ?蹴らないでね?」


ナメんなッ!!蹴るわけないでしょ!!てか、あなたを蹴っ飛ばしてあげようか?

しかし、これだけ馬鹿にされて頭にキてるのに、


「…はい。」


とか、素直に応えてしまう私。だって相手は小学生なのよ!?クソ生意気だけど、小学生なのよ!私に一体どうしろというの?恨むわ…鋭士さんッ!!

ふう、ここは一発、ナメられないように打つしかないわね。見てなさいッ!


私は全身を反らせて全神経をボールに集中させる。そして…


「はぁぁぁッ!!」


パァァンッッ!!


ボールは呆気なく破裂してしまった。


しまったぁ〜、やり過ぎた。


「うわッ!?ボールが割れちゃった!?」


「ありえねー!すんげぇパワー!!」


「マッチョだ!!」


「ゴリラだ!!」


「ゴリマッチョだ!!」


「ギャハハハハッ!!」


…ナオ君、私…キレていいですか?


☆☆☆


結局私はキレることなく、ボールを破壊した件について子供達と先生に謝り事無きを得た。


帰りのバスは少々気まずかったが、子供達はさほど気にしていなく、むしろ全く動じていなかった。子供ってたくましいのね。その様子を見ていたら私も何だか元気が出てきてしまったので、またみんなでカラオケ歌いながら帰ってきた。

何だかんだで結構楽しい遠足だったわ。私、22歳にもなってだけど。



「今日は私、本当にすみませんでした…。あんな事しでかしちゃって…。」


学校に到着すると、私は公平先生と原井先生に深々と頭を下げた。


「いえ、とんでもないですよ!子供達も楽しんでくれて喜んでましたので。」


と、公平先生。


「そうですよ!次の見学旅行にも是非来て欲しいって言ってるくらいですから!僕からも是非お願いしますね!」


と、原井先生。…マジっすか?


「じゃあね帆乃風お姉さん!」


「また来てね!」


ふふふ、やっぱり子供って可愛いね。

私は笑顔で手を振る。


「9月の見学旅行ではもうおばさんになってるね!」


「そうだよね!」


「じゃあ、帆乃風おばさんだ!」


「ギャハハハハッ!!」


むかっ!


「そんな半年足らずでおばさんになるかッ!!」


やっぱり可愛くないわ!今度こそキレていいですか、ナオ君?


「じゃあバイバ〜イ!」


「じゃあね!ちゃんと良い子で勉強するのよ?バイバイ!!」


ファアン!!


子供達に別れを告げ、私は運転席に乗り込みクラクションを一発鳴らしてガーラを発進させた。


☆☆☆


現在16:11。小学校の遠足から帰ってきた私は滝川モータースに帰還していた。


「もう、散々でしたよ!子供達とカラオケしたり、バレーしたり…。私はおばさん呼ばわりされるし、歳サバ読むし、ナオ君…こほん!とにかく疲れました!」


私はデスクでふん反り返ってる工場長にブチ撒けていた。


「バスの運転だけしてりゃ良かったのに何でそんなことしてんのお前?」


「知りませんよ!気付いたらそうなっていたんです!」


私は顔真っ赤でまくし立てた。


「まあいいか。あと今バスセンターから連絡あって、ガーラのハンドルがひしゃげていたとよ?どんだけパワーあんのお前?」


しまったぁ〜!!直すの忘れていた!というかあんなに曲がっていたら直すの無理だわ。


「後で直しに行って来いよ?部品代は給料から誤差なく引いといてやるからな。」


はぁ〜。今日の私、ホント駄目ね…。


「じゃあハチロクのチューニング頼んだぞ。俺は帰るからな。じゃお先!さぁてキャバクラ、キャバクラっと♪」


…私、本当に整備士やめて先生になろうかな…。


☆☆☆


時刻は23:47。展望道路頂上。


「女だからって遠慮はしねぇからな!ま、加減の仕方なんてわからんがな。」


「御託はいいわ。事故らないことだけに集中しなさいな。」


「クソ生意気な女だな!後で泣いても知らねぇからな!」


「私が泣く?そっちのタイヤが泣かないように心配しておくことね?」


「チッ…始めんぞ!」


で、これからバトルするところ。バトルってのは車と車が速さを競う事で勝ち負けのルールは色々とあるけれど、今回はシンプルに先にゴールした方が勝ち。

今日の相手はR34GT-R。少しは私を楽しませてくれそうかな?


「スタート5秒前ッ!」


ヴォンッ!ドゥルンッ!


「4!3!2!1!」


「GOーッ!!」


キャヒヒヒィィッ!!


ヴォォォォッップシィッ!!


私は敢えて相手を先行させた。どの程度の腕かジックリと観察するために。


私のクルマはGC8インプレッサSTI ver.5。型は古いけど侮らない事ね。これでもエンジンは470馬力、トルクは58kg、駆動系、足回りもチューニング済みでミスファイアシステム搭載の滝川仕様よ。


ヴォンッ!!ヴォオンッ!!パァン!!パパァン!!


「バトルなのにチンタラ走りやがって!GT-Rが泣くわよッ!」


私は相手が所詮ストレートだけしか速くない事を確認した。こんなバトルさっさと終わらせてあげるわ!


ヴォオンッ!!パァン!!パパァン!!


「突っ込みが甘いッ!!」


コーナー進入でGT-Rのイン側を突いた私のインプ。呆気なくスパァンと抜く。ウィンドウ越しに相手の男がポカンとしていたのが見えた。


「真剣勝負で白い歯見せんなッ!!」


ヴォォォォオンッ!!プシィッ!!


私はそのまま加速してヤツをちぎった。バックミラーに映るヘッドライトがみるみる小さくなって、しまいには見えなくなった。


「フン、口程にもないヤツ。」


しかし次のコーナーを立ち上がったところで再びバックミラーにライトが映る。速い!?追いつかれている!?まさか…ヤツなの?


さらに次のコーナーで完全に後ろに張り付かれてしまった。しかも抜きにきている感じだった。ヤツは本当に手加減していたというの?


ヴァァァァァ…!


後ろから迫るカン高いエンジン音。違うGT-Rじゃないッ!?


「…フン、誰だか知らないけど受けて立つわ!付いてきなさいッ!!」


ヴォンッ!!パァン!!パパァン!!

ヴァンッ!!ヴァアンッ!!


信じられない事にコーナーの立ち上がりで横に並ばれてしまった。

しまった!次のコーナーでインとアウトが入れ替わる!


ヴォンッ!!パッパァン!!

ヴァァァァァンッッ!!


私のインプはアウトに膨らんで加速を封じ込まれてしまった。そこを突く相手の見事なカウンターだった。抜いて行ったそのクルマは………


「う、そ!?あれは…AE92、キューニー!?」


いや、まだだ!私のインプならまだ勝負はわからない。私は諦めないわ!

ストレートでなんとかAE92(キューニー)に追いついたがコーナーが異常に速い。突っ込みが明らかに負けていた。さらに立ち上がりでもどことなく置いて行かれるようだ。こんなのあり得ない!あれは本当にAE92なの!?


「待ちなさいッ、このインチキAE92ィッ!!」


コーナーでヤツと同じスピードで飛び込んだ私。しかし…


ズギャギャァァァーッ!!

リアタイヤがブレイクして痛恨のスピンをしてしまった。


…カチャ、バムッ!


私は路肩にクルマを停めて降りた。上手くスピンしたためどこにもぶつけていなかったのが幸いだった。


チャバッ…ふー


おもむろにタバコに火を点す。


完全に負けたわ。何者?あのAE92…。


その日私は初めてバトルに黒星が付いてしまった。それを考えたら急に集中力が切れて、身体の力が抜けていく。


はぁ〜。今日の私は本当にダメダメだったわ。こんな時、ナオ君がそばにいてくれたらな……ううん、甘えてちゃだめね。私もっと強くならなきゃ!明日は頑張って絶対に良い一日にするわ!それからあのAE92、次に遭ったら必ずブチ抜いてやるわ!


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