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5つの雑音(ノイズ)が交わる瞬間(とき)  作者: 4弦ぶっちん
番外編 日常の過ごし方とは?
34/47

7章:そんなに落ち込むことないさ。キミの髪はツヤもあってコシもある。それをもっと綺麗にしたいなんて罪なことさ。もっとも、それをするオレはかなりのギルティーだけどね。

ガシャァァァァーッ


キュ、キュ…


ポッ、ポッ、ポチャン…


ガチャ


「ふう。」


ピッピッピッピッ…カチッ


トクトクトク…


シャッ!


「さあ、朝だよ。今日もイイ一日になると良いね。」


♪〜〜〜♪〜


オレは目覚めのシャワーを浴びた後、コーヒー片手に朝日を部屋に入れ込む。何年も一緒に暮らしてる観葉植物に光を浴びさせながらBGMを流す。今日はモーツァルトの“アイネ・クライネ・ナハトムジーク”だ。


「今日もご機嫌だね。」


イグアナのニコールにも朝食を与えて、オレはシリアルとミルクパンと野菜スープをダイニングに並べた。


「昨日のモデルショーは楽しかったな。」


テレビには昨日開催されたモードコレクションの模様がニュースになっていた。オレがスタイリングしたモデルが何人か参加していて昨日2人程入賞している。オレの腕はともかく、素材となるモデルが良かったからね。

朝食を食べ終えて鏡の前で髪をセットする。うーん少し伸びたかな?今日は無造作に流しておこうか。ファイバー系のワックスを薄めに塗布してスプレーで形をキープする。


「フッ、美しいシェイプだ。」


棚に置いてあったシザー類の入ったバッグを肩から下げ、オレは同居人に一瞥をくれる。


「じゃあ行ってくるよ、お前達はイイ子でな。」


玄関の扉を閉めてオレは愛車のBMWに乗り込んだ。


キャヒヒヒ…ヴォウン!


行き先はクリエイト・クリステラ・ヘアー、通称クリクリ。


朝日の光と風の中を疾走する。すがすがしくて気持ちがいい。今日はイイ一日になりそうだな。


おっと、自己紹介がまだだったね。オレの名は郁斗。SHINEの美しい旋律を奏でるキーボーディスト。そして自他共に認めるイケメンカリスマ美容師。それがオレ。


…エー坊はって?彼は今日はお休みさ。今まで頑張ってくれたんだからね、彼なりに。今日はこのオレがキミ達を華やかに飾ってあげるさ。期待しててくれると嬉しいよ?


「おはようございます。」


「おはよう、郁斗。」


この人はヘアーサロン・クリエイト・クリステラヘアーのマスター、名橋(めいはし) 賢造(けんぞう)さん。オレはメイさんって呼んでいる。オレの師匠でもあり、命の恩人でもある。ここでは語り切れないくらいとにかく偉大なる人さ。


「今日は5人程予約が入っているから、葉月(はづき)と上手くやってくれよ。」


「分かりました。彼女はシャンプーメインで回していきますね。」


「頼んだぞ。」


「はい。」


メイさんからの指示で今日は葉月、ええとオレは“ハヅやん”って呼んでいるんだけど、彼女は今月入ったばかりの新人だから現在教育中なんだよね。オレの一つ下でちょっとドジっ娘だけどそんなの気にしないさ。まだ入ったばかりなんだからね。要は慣れだよ慣れ。


「おはようございます!」


おっ、噂をすればなんとやら。


「やあ、ハヅやん、おはよう。」


「おはようございます、郁斗さん!今日はよろしくお願いします!」


「宜しくね。」


ハヅやんは深々とお辞儀をする。メガネがズレてまでそんなにしなくてもいいけどね。そんなことより…


「ハヅやん、今日の服カワイイね!ソレ卸したてかい?」


彼女の今日の服装はワインレッドで袖と裾がフリルになっているブラウスに、ベージュのチノパン。仕事にあった動きやすい服装だが…


「ハイ!昨日マリンフロンティアで買いました!」


「5800円。」


「えぇっ!?何で知ってるんですか?」


「タグが付きっぱなしだからさ。」


「はうっ!?しまったぁ〜!」


彼女のブラウスの後ろ側に¥5800のタグがひょっこりぶら下がっていた。


「よかったら0一個足しておくかい?」


「い、いいですよ!ええと、ハサミ…」


「ホラ、動かないで。…ハイ。」


「ありがとうございます!…何かすみません、わたしおっちょこちょいで…。」


知ってるよ。ま、そんなところがキミの可愛さを引き立てているのは事実だけどね。


「いらっしゃいませ!おっ、舞ちゃん待っていたよ!」


どうやら予約のお客さんが来たようだ。今入って来たのはオレの指名客の舞ちゃん。ま、オレはマイマイって呼んでるけど。


「おはよ〜、いくちゃん!」


「やあ、待っていたよマイマイ。さ、座って。」


ちなみに彼女、唯一オレをあだ名で“いくちゃん”って呼んでくれるんだ。あだ名で呼び合うっていいよね。


「今日は前髪カットとカラーリングとトリートメントだね。」


「うん、何だか最近髪がパサついちゃって…。もっとキレイな髪になりたいなぁ〜。」


気落ちした表情のマイマイ。そんな顔も素敵だね!


キラッ☆


「そんなに落ち込むことないさ。キミの髪はツヤもあってコシもある。それをもっと綺麗にしたいなんて罪なことさ。もっともそれをするオレはかなりのギルティーだけどね。」


「えっ!?そうかなぁ〜…あははぁ〜…むふふぅ〜…えへへへ〜♥」


「言ってしまえばキミとオレはもはや共犯なのさ。言い換えれば罪を共有しているってことさ。それを償うには罪を愛に変えるしか道はない。オレの言っている意味が解るかなマイマイ?」


「きょうはん?つみ?きょう…!?……?」


「ま、いつかオレの言っている意味が解る時が来るさ。」


おっと、つい話し込んでしまったな、オレとした事が。さあて始めるか。


「よっし、じゃあハヅやん、準備してもらおうか。自己紹介も忘れずにね。」


「は、はい!」


「緊張しないで、大丈夫。オレのように真似すれば楽にできるさ。」


「はい!」


新人のハヅやんにカットの準備をしてもらってる間にオレはシザーとコーム等の準備をする。


「はじめまして、ハヅやんです!ハヅやんって呼んで下さいね!」


それを言うなら「葉月です!ハヅやんって呼んで下さいね!」だろうね。


「はじめまして、マイマイです!よろしくです!ハヅやんそれ、カワイイ服だね!」


きらっ☆


「き、キミの服もなかなかカワイイよ?それに整った顔立ちなんかそれ以上だね。」


「えへへへ〜、かぁわいい〜。は〜づやん♥」


ハヅやん、なかなかやるじゃないか!慣れればもっと自然に出来るさ、目の光らせ方もね。


「郁斗さん、お願いします!」


「なかなか良かったよハヅやん。ベリーグッドさ。あとはオレに任せてくれ。」


「ハイ!」


ハヅやんと入れ替わってオレはマイマイの前髪をしゃくしゃくカットする。


「目は閉じていて、薄目はダメだよ?」


「うん!」


「よし、イイ子だね。」


オレは前髪を不揃いにザク切りにして、梳きバサミとレザーで毛量と質感を調節する。後は全体の毛先を揃えて前髪同様に調節する。マイマイはショートスタイルだから動きの出やすい元気な髪が似合う。元気のイイ娘には元気なヘアスタイルが一番似合うって事さ。


「さあ、目を開けて…長さはどうかな?」


オレはマイマイに鏡を見せて返事を待つ。


「うん、さっすがいくちゃん!バッチリだね!」


「じゃあカラーリングだね。色はいつものダークブラウンでいいのかな?」


「うーん、今回は一段階明るくしてみようかな。」


マイマイは髪を指でくるりと巻きながらオレに告げた。


「それも良いかもね?じゃあ一段階だけ明るくしておくよ。」


「うん。」


「ハヅやん、カラー剤の調合ね。こっちが1でこれが2の割合で混ぜて。」


「ハイ!」


ハヅやんはカラー剤と6%のオキシドールを1:2で混ぜていく。なかなか良い手付きだね。

オレは出来上がったそれを受け取った。


「さて、今から塗布していくけど、結構時間がかかるんだよね。テレビでも見るかい?」


「うーん、DVDがみたいな!この前のDeath Head DragonのライブDVD!」


「O.K.、D.H.D.だね!マイマイあのバンド好きだもんね!」


「うん♥」


D.H.D.(Death Head Dragon)ってのは、今期最高峰のへヴィーメタルバンドで、そうだなぁ、とにかく激しくサイケデリックなバンド。ライブでは機材の3つ4つは平気で破壊するし、客は失神するし、怪我人もざらに出るといった、いろんな意味で話題性のあるバンドさ。

オレはバックルームからD.H.D.のDVD“破壊神覚醒”(R-18指定)のタイトルを持ってきてプレイヤーにセットした。


《覚醒せよ!破壊神!!》


DVDを繋いだテレビから音声が流れる。


「じゃあ始めるよ。」


「はい♪」


D.H.D.のライブ映像にご機嫌なマイマイ。気持ちは分かるけど頭は振らないでね。


《テメーらは最後に全員死ぬんだぁ!!》


《どうせ死ぬんだから、それまでは精々もがき苦しめぇ!》


《それが嫌なら全員でかかって来いクルァァッ!!》


「むふふぅ、カッコいいっ♥」


オープニングから激しいライブだね。うちのバンドもネタが尽きたらこっちの方向にでも走ってみるかな。


《逝くぜーッ!!“破壊神”♪♪〜♪〜息の根〜止めてやるぜ〜お前らは〜所詮虫ケラだ〜オリャアッ!!♪♪…》


「私この“おりゃあっ!!”が好きなんだよね。なんたって気合い入るもん♪」


「そうだね。ライブは気合いが大事だからね。」


《オレの言ってる意味がまだ解ってねぇようだなぁ〜?テメーらそんなに死にてぇのかッ!!》


《それが嫌なら死ぬ気でもがいてみろッ!!叫んでみろッ!!あがいてみろッ!!》


《逝くぞォォォーッ!!♪〜♪〜“Suicide Switch!!”♪♪》


《♪〜押せるモンなら〜押してみやがれ〜クラァッ!!テメーの体なんざ〜スイッチ一つで〜カケラも残らねぇ〜ゥオエィッ!!》


「よっし、塗布終了。ハヅやん、ケーキと紅茶用意出来てる?」


《♪〜テメーに与えられるのは〜ケーキでも紅茶でもねぇ〜自爆スイッチだぁ〜さっさと押しやがれ〜ゥオィッ!!》


「ハイ!出来てますよ!」


「じゃあマイマイ、40分置くから、その間にコレ食べてて。あとはDVD見て楽にしていいからね。」


「うん、ありがとう、いくちゃん。」


《しぶといヤツラだなオイ!さっさと楽になっちまえよクルァッ!!》


さあて、待ってる間は次のお客さんの準備でもしようか。

オレは一度アルコールでシザーとコームを拭いて次の準備をしておく。


《お前らの力はそんなモンかッ!!まだ死にたくなかったら本気でかかって来いクルァッッ!!》


「ハヅやん、時間になったらマイマイのシャンプー頼んだよ。」


「ハイ!」



☆☆☆


40分後。


《これだけやってもまだ死に切れねぇヤツラがいるようだなオェィ!》


《だが覚えてやがれ!次のライブで必ずブチ殺してやるぜクラァ!》


《解ったかァー!逃げんじゃねぇぞクルァッ!!逃げんじゃねぇぞクルァッ!!逃げんじゃねぇぞクルァッーー!!》


《♪♪〜♪…END…》


「マイマイ。マイマイ!マイマイ?」


時間になったから様子を見に来たが、どうもマイマイはD.H.D.のライブ映像を観てどこかへトリップしているらしい。そんな彼女の様子をハヅやんは心配そうに見ていた。


「う〜ん、はっ!死ねた!?」


いや、死ぬのはまだ早いよ?


「マイマイさん大丈夫ですか?シャンプーしますよ?」


「しまったぁ〜!アンコール前まではちゃんと生きていたのに!…はぁ、今日も全部観れなかったぁ。」


「でもアンコールまでちゃんと観れたんでしょ?前回は確か8曲目のMAD BLOODの途中で失神してたからね。だいぶ観れるようになったんじゃない?」


「うーん、でも全部観たかったなぁ…。」


「じゃあ流しますよ!」


「はぁい。」


ハヅやんはシャンプー台でお湯を流しながらマイマイを促した。



☆☆☆


「じゃじゃーん♪」


あれからトリートメントの処置をしたマイマイ。

綺麗なダークブラウンがツヤを一層引き立てている。カラーリングとトリートメントの組み合わせはやはり正解だったかな。


「あとはセットするだけなんだけど、ハヅやんやってみるかい?」


「ハイ!やります!…あんまり自信ないですので、教えて下さい!」


「いーよ。落ち着いてやれば出来るさ。」


「ハヅやん、失敗しても大丈夫だからね〜!」


マイマイは笑顔でハヅやんに応える。


きらっ☆


「どんな感じにしようかな?」


「今日はカチューシャを使ってアレンジしたいな!」


いいよ、ハヅやん!今のはタイミングバッチリだね。


「マイマイさんはショートボブだから、細めのカチューシャを使いますね。」


「はい。」


ハヅやんはヘアアイロンを取り出してマイマイの髪を全体的に緩めに巻いていく。こうする事で膨らみを軽くつけておく。シルエットを丸くする為だ。


「ハヅやん、毛先は巻かないように躱しておいてね。」


「は、ハイ!」


ハヅやんはどこかぎこち無さげだが、それでも何とかアイロンで巻き終えた。


「前髪は大きい網カーラーで巻いておきますね。」


「うん!」


これもふんわりさせる為であって、コツは一気に巻かないで2個ないし、3個に分けて巻くのがポイントだ。


「襟周りはスッキリさせた方がいいんじゃないかな?」


「ええと、アメピンで纏めておきますね。」


「は〜い。」


アメピンで留めた後は網カーラーを外してカチューシャを耳の後ろにかける。トップは髪でカチューシャの上を隠す。


「あとはソフトなワックスを毛先に付けて逆毛を立てるだけだね。」


「は、ハイ!やってみます!」


ワックスを軽く付けてリングコームで逆毛を立てるハヅやん。これはトップのふんわり感をさらにアップさせる為にやる。


「完成しました!どうですか?」


ショートボブの動かしやすい髪を利用して、3D感を出したちょっと女の子らしいガーリーでキュートなスタイルに仕上がったマイマイ。カチューシャがふんわり感を強調しているのが特徴だ!


「キャ〜カワイイ!何か私じゃないみたい!?ありがとうハヅやん!」


きらっ☆


「キミの為とはいえ、わたしは罪な事をしてしまったようだね?その可愛さはもはや犯罪に等しいよ?」


「???」


グッジョブ、ハヅやん!ズリ落ちたメガネを直す仕草なんかもう最高だよ。


「じゃあ最後に記念撮影ね。」


「せっかくだから3人で撮りましょう!」


「あっいいね!じゃあハヅやんがセンターで!」


「はい?何でわたし真ん中?」


「今日の主役だからね〜!」


「いや、今日の主役は明らかにマイマイさんじゃないですか!?」


「ええ〜!?だって私ただ座っていただけだし、途中で失神しちゃったし…。」


フフッ、二人で主役の座を争うんじゃなくて押し付け合うなんて、なんて健気で可愛い娘達なんだ…。本当はオレがセンター取りたいところだけど、こんな可愛い天使達からそんな罪な事が出来るわけがないさ。


「じゃあこうしよう。二人で並んで、後ろにオレが入る。どうだい?」


「「それでいいです!」」


フッ、イイ子達だね。


「メイさん、写真お願いします。」


オレは一服が終わったメイさんにデジカメで写真を撮ってもらうように頼んだ。


「おッ、郁斗、お前も好きだなあ。また例のブログ用か?」


「そうですね。可愛く仕上がったので。」


「じゃあ撮るぞ!3・2・1・クリ!」


カシャ!



☆☆☆


現在20:42。クリクリで仕事を終えたオレは帰路についていた。今日は本当にイイ仕事をしたし、素晴らしいイイ一日だったな。お、ガソリンが無くなってきたな…仕方ない。

オレはガソリンスタンドで車を停めて給油をすることにした。


「いらっしゃいませーッ!!」


入ったスタンドでアルバイトらしき娘が出迎えてくれる。


「レギュラー満タンで頼むよ。」


「ハイッ!レギュラー満タン入りまぁす♥」


フッ、ここにも健気に働く子猫ちゃんがいるのか…。


窓を拭いてもらっている最中にボンヤリと前を見ていたオレ。そこを一人の女性が通り過ぎる。綺麗な女性だった。その途端に何かオレの身体に妙な感覚が走った。自分でも分からなかったが無意識にドアを開けて彼女の後を追った。しかし…


ルルルル…


彼女は車に乗り込んで走り去ってしまった。何だったんだ今のは?顔はチラッとしか見えなかったが、何処かで会ったことがあるような…いやそんなのではなくて、今会わなければならなかったような感じだ。それも何か嫌なことが起こる前触れのような気がしてならない。オレの考え過ぎか?

「ちょっとお客さん?給油終わってますよ?5268円になります。」


「あ、ああゴメンねお嬢さん。釣りはいらないからね。」


「ありがとうございましたぁ〜♥」


…車はトヨタの70系ランクルか。ナンバーは…分からなかったな。


オレは何か妙な感覚に襲われたまま彼女の走り去った方向とは逆方向へと車を走らせ、自宅へ向かった。


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