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5つの雑音(ノイズ)が交わる瞬間(とき)  作者: 4弦ぶっちん
番外編 日常の過ごし方とは?
33/47

7章:ええと、その…、白魔法使えますか?

衝撃的かつ感動的な初ライブから一週間後。バンド“SHINE”は見事にライブハウス“メガン・テスラ”の専属バンドとなり、早くも次のライブを3ヶ月後に控える。先のライブでは動員数が以外と多かったのもあって、すでにファンクラブなるモノもできているとかいないとか。少なくともこのバンドに何か鮮烈的なものを感じた者が確実にいたということだ。


☆☆☆


終業のチャイムが鳴る。午前の講義が終わったらしい。どうやらアタシは1時間40分前からずっと同じ姿勢で睡眠していたらしく、腕がしびれて感覚が無くなっていた。気が付けばホワイトボードには、淡々とハングル文字が書かれていた。

あれ?いつの間に韓国語の講義になったの?確か初めは心理学だったはず?


「あっ、やっと起きてくれた。学食行こう、咲姫!」


まだ寝ぼけているアタシに後ろから声が掛かった。クラスメイトの詩乃(しの)だ。


「咲姫、ずぅ〜っと寝てたけど、寝不足なの?」


「あ、うん、ちょっとね。」


鞄へ教科書をしまい、財布を取り出してアタシは詩乃に付いて学食へ向かった。

寝不足なのは最近無意識に色々と考え事をしていて、ぐっすりと眠れないからだ。それが反動になって講義中に居眠りしてしまう癖が付いてしまっていた。ヤバい、こんなことしてたらまた補習になっちゃうっ!どうもライブが終わってからボーッと考え事しちゃうんだよね。今後のバンドの事とか、アイツの事とか……!?


ガゴツンッ!!


「あッ、イッタぁ〜いっ!!」


ボーッとしてて学食の出入口の扉に開けずに突入してしまったアタシ。


「ちょっと咲姫!?…大丈夫?起きてる?」


「だ、大…じょぶ。もう目が覚めた。」


アタシとしたことが…情けない。可愛い顔に傷が付かなかっただけマシか。


ああ、そういえば自己紹介がまだだったっけ。

アタシの名前は咲姫。ご存じSHINEのヴォーカリスト。…でも今はちょっと可愛い女子大生で、学食の扉に派手にぶつかってしまったのがアタシね。

えっ?この話は鋭士が聞かせてくれないのかって?

ああアイツの話、なんかつまんないのよね。今の今までダラダラ喋ってていい加減飽きたって感じ?だからアイツはクビ!気分転換にアタシが喋ったって良いでしょ?


「はぁ、イタタタ…。」


アタシのおでこは扉にぶつかって真っ赤になってしまっていた。


「本当に大丈夫?」


詩乃が心配そうな顔でアタシを覗き込む。そんな詩乃の3席向こう側に鋭士を発見したアタシ。何故か焦ってしまってフォークをリンゴジュースのパックに刺してしまった。げっ、ストローと間違えちゃった!?


「ちょっと咲姫!?それフォーク!」


知ってるよもう!何でこうなんの!?ああムカつく!

鋭士の方を見るとそんなアタシに気付いてないのか、悠長にラーメンをすすりながら真行と駄弁っていた。何の話をしてるのかは知らないけど、微妙にドヤ顔しているように見える鋭士を見ると余計に腹立たしくなってきた。投げ付けてやろうか、このフォークの刺さったリンゴジュース?


「どうも今日は何か調子が悪くって…。でも多分大丈夫だから気にしないでね?」


「咲姫、悩み事?」


「えっ!?」


詩乃の言葉にアタシはドキッとなる。

な、悩みなんかないよ。アタシに限ってそんなの…


「恋…とか?」


な!?何言ってんの詩乃?アンタ超能力者!?ってそうじゃなくて、と、とにかくアタシがこ、恋なんてあり得ないんだからっ、変な事言わないでよね!


「図星?顔真っ赤よ咲姫。」


「ち、ちがぁう!!これは…そ、そうよ!熱が出てきたのっ!あ、アタシ医務室逝かなきゃっ!」


「ええっ!?」


驚く詩乃に一瞥もくれず、アタシは一口も食べていないパスタとフォークの刺さったリンゴジュースを置き去りに席を立った。


「よう、咲姫!…?どうした?顔真っ赤だぞ?」


鋭士だ。コイツ〜!アンタのせいで詩乃に変な事言われてパスタ一口も食べられなかったんだからねっ!おまけにリンゴジュースにフォーク刺しちゃうしっ!


ガスッ!


「痛ってぇ〜!?」


アタシはヤツの膝弁慶にキックをお見舞いしてそのまま走り去る。

あ〜スッキリした。



逃げるように走り去ってアタシは本当に医務室にいた。

あ〜あ、詩乃にはああ言っちゃったし…今さら講義に出る気になれないし。仕方ない、今日はここで寝ちゃおうっと。補習に一歩近付いちゃうけど…。

誰もいない医務室でアタシはカーテンを閉めてベッドに横になった。


…。

……。

………。



ん……。


「……き…」


…ん、……?


「さ…き………れ」


…なに?だれ…?


アタシは確かに声を聞いていた。しかし身体が重い。まるで見えない重りがのし掛かっているような感覚に陥っていた。


「…咲姫、聞いてくれ。」


アタシを呼ぶ声だった。

そこでアタシは初めて目を開けた。


(鋭…士?)


そこに居たのは鋭士だった。何でコイツがココにいるの?

しかし不思議と嫌悪感が沸いてこない。おかしい、いつもならアタシが恥ずかしがってパンチや蹴りのひとつは入れるのに。

それもそのはず、目の前にいるのは鋭士であって、どことなく鋭士を感じさせない何か別人のような雰囲気があったからだ。


「危険が迫っている…。残された時間は少ない。お前の歌が必要なんだ。」


えっ!?なに?何のこと?どうしちゃったの鋭士!?

鋭士はそれだけ言うと踵を返してカーテンの向こう側へ立ち去る。


(ちょっと待って!)


どうしてか声が出てこない。いや出てこないというよりは彼に伝わっていない感じだった。アタシはベッドから飛び出してカーテンを捲った。医務室の扉が閉まりかける間から鋭士の背中が見えた。


(待ちなさいよ!鋭士!)


なんで?どうして声が出ないの!?嫌だ!嫌!行かないで!

彼に続いて医務室から飛び出した。どこ?どこに行ったの?キャンパスのエントランスの向こう側へ消えていく鋭士の後ろ姿がかすかに見えた。アタシは走り出す。


(待ってよ!鋭士!アタシを置いて行かないで!)


エントランスまで走り、アタシはその勢い出口の扉を開けた。

土砂降りだった。黒い雲からは稲妻がほとばしっていた。冷たい雨がアタシの身体を濡らしていく。鋭士の姿はもう何処にもなかった。


(鋭士…どうして…。)


ガックリと膝をついてその場に座り込んでしまった。


ジャリ…。


後ろに誰かいる。誰?…鋭士?

振り返ると…郁斗?


(…郁斗、鋭士見なかった?)


「サッキー、どうやらオレ達はここまでらしいね、残念だけど。」


郁斗はアタシに冷たく言い放った。彼のいつものニコニコ顔はどこにもなく、初めて見せる冷徹な表情だけがアタシを見下ろしていた。


(何言ってんの郁斗!?)


コツ…。


その時、左側に人が現れた。振り向くと帆乃風がいた。


「咲姫、ごめんなさい。私は所詮この程度でしかなかったのよ…。さようなら…。」


可憐で儚い彼女の顔は哀しみに満ちあふれている。濡れたきらびやかな黒髪でさえ切なさを醸し出していた。


(はあ!?何?何のことなの帆乃風!?)


ザッ…。


右側にまた誰か現れる。振り向くとナオがそこにいた。


「咲姫さん、すみません僕のせいでこんなことに…。これ以上迷惑かけられません。ここでお別れですね。」


ナオは俯きがちに申し訳なさそうに、でもサラリと言い放った。そこに情熱あふれるいつもの彼の姿は、微塵も感じることが出来なかった。


(なにソレ!?どういうことなのナオ!?)


稲妻が落ちる。辺りには激しい豪雨の雷音だけが鳴り響いていた。


(みんなどうしちゃったの!?一体何なの!?何とか言いなさいよっ!アタシにどうしろっての!?)


アタシの声はもう誰にも届いていなかった。


「咲姫…。」


目の前に鋭士がいた。良かった、戻ってきてくれたんだ。アタシをからかうなんて、もうちょっとやり方考えなさいよね。


「何があっても自分を信じろ。ただそれだけだ…。」


鋭士はそう言って他の3人と豪雨の向こうへ消えて行った。


(えっ!?ちょっと待ってよ!嫌だ!置いて行かないで!アタシを一人にしないで!郁斗ッ!帆乃風ッ!ナオッ!鋭士ぃーッッ!!)


アタシは立ち上がって再び走り出す。しかし…


ズガァァァンッッ!!


アタシは雷に打たれた…らしい。痛い、痛いよ。どうして?こんなのないよ!痛いよ、痛いよぉ、助けて…鋭士!


「助けて!鋭士!!」


アタシは初めて声を出した。…あれ?周りが明るい。土砂降りだったのに…。でも身体が濡れている。それは汗をかいていたからだった。服がはだけていた。ここは…医務室だった。


「咲姫か!?」


シャッとベッドのカーテンが捲られた。慌てふためいた鋭士の顔がそこにあった。


「うおっ!?いや、その、これは…す、スマ…」


「鋭士ッ!!」


アタシは驚愕した鋭士にベッドの上からなりふり構わず抱き付いた。


「おッ!?おいっ!?」


アタシの顔が鋭士の胸に押しつけられる。その中でただ泣くことしか出来なかった。


「もう、どこにも行かないで…アタシを…一人に…しないで…。」


「何言ってんのオマエ!?何のことだよ?」


「だって…鋭士…アタシ…」


ガチャ。


「咲姫ぃ〜。講義おわっちゃったよ〜。帰ろう…か!?」


そこへ詩乃が入ってきた。あっそうか、終わっちゃったんだ講義。


「…ゴメン、わたし一人で帰るね?ホント邪魔してごめん!じゃ!」


詩乃はアタシが鋭士に抱き付いてるのを見て何事もなかったように医務室を出ていった。しまったぁ〜!モロ見られた!しかもアタシ服がはだけてるし!


「ゴメンッ鋭士!アタシ行かなきゃ!」


アタシは上着を着てシーツで涙を拭いて医務室を後にしようとする。


「…咲姫。」


そこで鋭士の声が掛かった。


「なに?」


「俺はい、いつでも一緒にいる…さ。」


鋭士は湿布を膝弁慶に貼りながら呟いた。どうやらアタシに蹴られた処置としてココに来ていたらしい。


「知ってる。アリガト!」


アタシはそれだけ残して医務室を後にし詩乃の後を追った。



「ちょっと待ってよ、詩乃!」


詩乃はキャンパス出口からすぐの所を歩いていた。アタシは彼女をなんとか呼び止めた。


「さ、咲姫!?」


「ハァ、ハァ、い、一緒に、帰ろう。」


「もうよかったの?その…鋭士くんと…?」


どうやら詩乃はそういうシチュエーションだと勘違いしているらしい。


「ち、違うからね!あれはその、あの、えぇと…今度のライブのコント、コントの練習よ!!」


何言ってんだろアタシ。


「誤魔化さなくたっていいんだよ?咲姫、カレの事好きなんでしょ?」


「う、うん…。」


ダメだ。詩乃には敵わないや。何でもお見通しなんだもんこの娘。


「大丈夫だって!ウチは言い触らしたりしないから!応援してあげるよ!」


アタシの顔が明るくなる。


「ありがとね詩乃。アタシ頑張るよ!」


「てことは、さっきのはやっぱアレの最中だったってことだね!」


「それは違ぁうっ!!」


アタシの顔はもう完全に髪の色より真っ赤っ赤だった。



☆☆☆



「おはようございます!」


「おはようございます!お疲れ様、サキちゃん♪」


同日夕刻18時20分。アタシはバイトの現場にいた。

とりあえず着替えて今日のイベントのチェックしなきゃ。


「サキちゃん、今日はコレ付けておいてね!」


「はい、ありがとうございます!」


アタシは先輩からそれを受け取り身に付けた。

ああ、なんのバイトをしてるのかって?エヘヘ、それはね…


「お帰りなさいませ、ご主人サマ♪」


「サキ姫ちゃん、今日もカワイイね!」


「そんなぁ〜、アタシ照れちゃいます♥」


実はアタシ可愛いメイドさんなんです!ちなみにサキ姫っていうのはアタシのココでの名前。そしてお店の名前は“黒猫さんの黒魔法、たまに白魔法”略して“黒黒たま白”。さっき渡されたのはネコ耳と尻尾。今日は黒猫Dayだからね。そういえばこのことは誰にも言ってなかったっけ…。まあ、言う程の事じゃないし、みんなに知られたらちょっと恥ずかしいかな。だから一応内緒にしててね。ちょっと、何笑ってんの?べ、別におかしくないでしょ、アタシがこういうのしてたって!ライブでもメイド服着たし!


今日は平日ということもあって店内はあまり混んでいなかった。今日出勤しているのは先輩メイド2人と厨房2人とアタシの計五人。フロアにはオタク系なお兄さんや仕事帰りのサラリーマン、オタクっ娘が数名いる程度だ。それでもアタシは健気に御給士するのであった。


「サキ姫ちゃん、これ8番卓ね!あと、17番からオーダーね!」


「はい、フェリスさん!」


アタシは紅茶とチョコバナナケーキを受け取り8番卓に座っているオタク風のお兄さんの所に向かう。あ、フェリスさんってのは先輩メイドの一人で、新人のアタシの事を色々面倒見てくれる優しい先輩。歳はアタシの3つ上で本名は…確か花子さんだったっけ。


「お待たせしました!お兄ちゃん!」


「どうもっす。」


「今日はアタシの黒魔法で美味しくするね!」


「は、はあ。」


えぇと魔法の詠唱は…


「我は汝に力を与える者なり、闇の深淵より出ずる魂の歌声よ、時と共に汝に響け………ていうか美味しくなぁれッ!!」


「では、ごゆっくり、お兄ちゃん♥」


「………。」


ふう、危なかったぁ。魔法の名称ド忘れしちゃった。フェリスさんからは忘れたら“ていうか美味しくなぁれッ!!”で誤魔化せって教えてくれてるから何とか助かったけど。でもあの人絶句していたな。ま、いいか。次は17番卓ね。


「いらっしゃいませ御主人サマ♪今日は何をお召し上がりますか?」


「咲姫さん!?」


「げっ、ナオ!?」


目の前に座っていたのはなんとナオ。


「アンタなんでココに!?」


「今日は戦国スピリットの大会があって優勝してその後で来てたんですよ。咲姫さんこそココで何してるんですか?」


「アタシはバイトよ。ちょっとナオ、アンタここによく来るの?」


アタシはナオに耳打ちする。


「僕は初めてですよ。こういうところに一度来てみたくて。」


まいったな〜。みんなに知られたくないって言ってるそばから…。まあ、ナオならいいか。鋭士とかだったら絶対バカにされると思うからね。でもやっぱり恥ずかしいな。


「で、何食べるの、お、お兄ちゃん?」


は、恥ずかしいぃッ!?ナオでこんなに恥ずかしいのに、アイツだったら…、想像しただけで全身がかゆくなる。


「お、お兄ちゃんって!?は、恥ずかしいですよ、咲姫さん!?」


「い、いいから早く決めなさいよ!それからココではサキ姫って呼びなさいッ!!」


…何言ってんだかアタシ。


「サキひ、めって、はわわわ、いやや、あののの‡∝Å⊇♯♭?」


ダメだこりゃ。どうやらナオは混乱してしまったらしい。


「もういいッアンタはコレ、オムライス・メダパニver.とペプシコーラ・ザラキーマ味ね!」


アタシは強引にナオのメニューを決めてその場を後にした。


「フェリスさん、オーダーです。」


「ちょっとサキ姫ちゃん、ここはツンデレカフェじゃないのよ。しっかりね!」


んな事言われても…。

チラッと17番卓を見ると落ち着きなく赤面したナオが俯いていた。


「はい、コレ17番ね!頑張って!」


アタシはフェリスさんからオムライス・メダパニver.とペプシコーラ・ザラキーマ味とケチャップを受け取った。マジっすか?


「お、お待たせしました!お兄ちゃん♥…」


「………。」


絶句すんな!


「オムライスになんて書いて欲しい?」


「…咲姫…サキ姫さんの今の気持ちを…。」


あーそう。

アタシはオムライスにケチャップで“食ったら帰れ”と書いた。途端にしゅんとなるナオ。ちょっと可哀相だったかな。アタシはそれをハートに書き替えてやった。


「………。」


だから絶句すんなっての!


「じゃ、じゃあこれから美味しくなるように黒魔法をかけるから。」


「白魔法がいいです!」


何故そこで食いついてくる!?アンタ魔法フェチなの!?


「ここは黒魔法で我慢しなさい。」


「えぇ〜!?僕は白魔法の方が好きです!」


知るか!てか何この会話!?


「ダメ!アタシまだ黒魔法しか使えないから!」


「そこを何とか!」


何がなんでも白魔法を使わせたいらしい。


「あ〜もうッ!!シロクロ言ってないで黙ってそこで見てなさいッ」


「そんなぁ〜。」


アタシは嘆くナオに構わず黒魔法を詠唱し始める。


「闇の精霊よ我が声に耳を傾け給え、誘うは邪悪なる儀式、暗黒の力よ我と共に神を殺せ………ていうか美味しくなぁれッ!!」


またしてもド忘れしちゃったアタシ。もうどうでもいいや、アタシ黒魔法使い失格ね。


「………。」


だから絶句すんなって!恥ずかしいじゃないッ!!


「サキ姫さん、萌えました!!」


やかましいわッ!!


アタシの黒魔法を見て萌えってるナオを尻目に、ツンデレキャラのままアタシは厨房に戻るのであった。


「サキ姫ちゃんお疲れ様!練習すれば黒魔法はカンタンよ、下級魔法ならね!」


その言い方だと上級魔法もあるんですかフェリスさん?


「あの、フェリスさんに聞きたいことがあるんですけど。」


「なぁに?」


「ええと、その…、白魔法使えますか?」


何この会話、今日二回目。


「もちろんよ。」


「あの、ナオ…ん、ん!17番卓のお兄ちゃんに白魔法を見せてあげたいんですけど、お願いできますか?どうしても見たいってきかなくて。」


だってちょっと可哀相だったんだもん。念願の白魔法で満足させてあげたいじゃん!


「優しいのねサキ姫ちゃんは。いいわよ、私ので良ければ見せてあげるわ!」


「ありがとうございますフェリスさん!」


フェリスさんは尻尾を振りながらナオの席に向かった。そして何やら詠唱を始めた。アタシはその様子をカウンターから見ていた。


ばった〜んっ!!


へっ!?


なんとナオはそのままイスごとひっくり返ってしまった。ちょっと何してんの!?

アタシはカウンターから飛び出すようにナオの席へ近付く。


「ちょっとナオッ!?アンタしっかりしなさいよ!」


ぱしっぱしっ!


「……し…た。」


「はあ!?ナニ?聞こえないって!!」


「も…え……しに…ま…した。」


がくんっ!


ナオはそれだけ言って白目むいて泡を吹いてしまった。


「何やったんですかフェリスさん!?」


「私は上級白魔法“セレスティアルウィンド”を見せてあげただけなんだけど…ちょっと強すぎたかしら?」


「せれすてぃ…?」


「彼はサキ姫ちゃんの知り合いだったの?」


「はい…。」


「とりあえず彼、休憩室に運びましょう。」


アタシとフェリスさんは気絶しているナオを休憩室に運んだ。もうっナオったら、情けない。


☆☆☆


「…はっ!ここは?」


「あっ、気が付いた!ちょっとナオっ、アンタ大丈夫?」


ナオは休憩室の長椅子で横たわった身体を起こした。辺りをきょろきょろ見回している。どうやら状況を理解していないようだ。


「何で僕?ここは何処ですか?」


「アンタは白魔法見たい言って、見たら倒れちゃったのよ。で、ココは店の休憩室。」


「すみません僕、情けないっす。」


「いいのよ。それより大丈夫?もういいの?」


そこへフェリスさんがやってきた。


「良かった、気が付いたのね。ごめんなさい私のせいで。お詫びに今回復魔法を…」


「それはいいですフェリスさんっ!!」


そんなことしたらまた倒れて回復どころか殺してしまうよ!


「フェリスさん、回復魔法お願いします!!」


「いい加減にしなさいッ!!」


ずびしっ!!


アタシはナオの頭にチョップを食らわせた。


「エヘヘ、すみません。」


全くもうっ!


「じゃあ僕これで帰りますね!また来ますよ!」


また来るのかよ…ま、いっか!


「じゃあ次回までにはサキ姫ちゃんも白魔法使えるように私教えておくね。」


いや、それはちょっと…。


「今度は鋭士さんと来ますね!」


「それはやめときなさいッ!!」


アタシはマジで声に出してそう言った。


「サキ姫さんの白魔法楽しみにしておきます!では!」


アタシこのバイトやめようかな…。

手を振って帰るナオにアタシは苦笑しながら手を振り返した。


☆☆☆


バイトが終わってアタシは帰路についていた。今日は一日いろんなことがあって疲れたよ。そういえば昼間医務室で見たあの夢、何だったんだろう?何か悪い事が起こらなければ良いけど。とりあえず皆に心配かけたくないから黙っておこうっと。さぁてコンビニ、コンビニっと。


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