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6章:青息吐息なる舞台に上がる瞬間 3

「…それじゃ始めるよ?心の準備は良いかな?」


「はい、その手で僕を好きにして下さい!」


「じゃあ遠慮なく。」


…ん、ん。まず、先に言わせてもらうが勘違いするなよ?BLのワンシーンじゃないからな?念の為。後、ストーリーが変わった訳でもないからな?


「ここはどう?ナオちん?」


「あぁっ!そこ、すごくイイです!」


お、落ち着けよ!誤解しないでくれよ!間違った想像しないでくれよ?


「これでイっちゃう?」


「イイです郁斗さん、イっちゃいます!!」


おまえらぁッ!俺の弁解をことごとく潰しやがって!会話だけ聞いてたらもう完全にあっちの方としか思えんだろうがぁっ!


…取り乱してすまん。俺も説明不足だったな。

今日はライブ当日でクリクリで髪をセットしている最中なんだ。で、今は郁斗が那秧の髪型を作っているところ。納得したか?


「よっし、完成!」


「カッコいいっすね!さすが郁斗さんです!ありがとうございます!」


「フフフ、我ながらイイ出来栄えかな!」


那秧の髪型をキメてコーヒー片手にご機嫌な郁斗。那秧はクセ毛を生かして外ハネのワイルドなスタイル、前髪はアイロンでストレートなバングにキメていた。さらに全体にダークブラウンでカラーリングされていた。おおっ、確かにカッコいいな!


「へぇ〜ナオっ!アンタなかなかいいじゃない!」


「エヘヘ、照れちゃいますよ、咲姫さん。」


咲姫に褒められて恥ずかしそうに那秧は笑顔を見せる。

そういう咲姫も郁斗にセットされて、ご機嫌だった。赤みのかかった明るい髪を、ハイポジションでウェーブなツインテールにしていた。ハートのフープ状のピアスがキュートだ。


実は俺もすでにセットが終わっている。俺はショートウルフにトップは金髪でほぼ直立に立たせ、サイドとバックは黒髪のままナチュラルに流している。イメージ的には攻撃的な感じだ。今思えば、以前の俺から見たら垢抜けたかもしれないな。

ちなみに郁斗はいつもの髪型を自分でアレンジした程度に抑えていた。違うところは伊達メガネをかけているぐらいか。でもそうするだけでチャラ男っぽさが軽減されているように見えるから不思議だ。


てな感じで俺達はそれぞれの髪型に自己陶酔していた。


えっ、帆乃風はって?ああ、実は彼女、今回髪型は全く変えていないんだ。まあ、本人の強い意志で「このままで良いわ。」なんて言うから郁斗も面食らったらしくてさ。でも、せめてって事でカラーリングだけやってもらってるよ。どんな感じかって言うと…


「みんな、お待たせ。どう…かな?似合ってるかな?」


クリクリのマスターに施術をしてもらった帆乃風が個室から出てきた。

先の通り髪型はいつもの前髪パッツン風のヘソ辺りまで伸ばしたロングストレートだったが、耳の前あたりから縦のラインでかなり明るい赤が入っている。それがブルーブラックの髪と真逆に近いコントラストを生み出していた。


「うん、いいと思うよノッカ。切らないって言ってたから心配したけど大丈夫だね。」


「ホントだ!髪型変わってないのにイメージ変わったね!ま、アタシは可愛さで勝負だけど!」


「まあ、帆乃風はロング以外はピンと来ないよな。ベーシストはやっぱこうじゃなきゃ!」


「帆乃風さん、似合ってますよ!」


「み、みんな(ナオ君)ありがとう!」


帆乃風は照れながらも、はにかんだ顔で微笑んだ。


「さて、後は衣装チェンジの時間かな。奥の部屋で着替えれるからついて来て。」


俺達は各々の衣装を持って郁斗について行く。


「じゃあオレ達はここで、サッキーとノッカはそっちの部屋でね。エー坊、覗きはダメだよ?」


「覗かねぇよ!」


「アンタならやりかねない。」


「やりかねなくねぇっ!」


「早く着替えましょう、もうすぐ時間ですよ!」


俺達は早々に着替えてライブハウス“メガン・テスラ”に向かった。




メガン・テスラ、通称“メガンテ”に入って、とりあえず俺達はリハーサルの準備をする為セッティングをすることにした。


「アタシはその辺見てるね!」


俺達のセッティングを暇そうに見ていた咲姫はライブハウス内を見てまわる事にするらしい。


俺がギターの弦高をチェックしようとしたその時、声がかかった。


「郁斗さん?」


「ん?」


郁斗はキーボードでピコピコ音を出しながら振り向いた。


「ああっ!やっぱり郁斗さんだ!バンドやってたんですね!」


「おおっ、トッシーじゃん!オマエもやってたんだな!」


「僕は最近バンド組んだばかりなんですよ!今日は“(セント)ANNALISE(アナライズ)”っていうバンドで出ます!残念ながら手伝いギターなんですけどね。」


どうやら知り合いらしい。トッシーと呼ばれたその男は笑顔で応えた。


「手伝いね…、でも諦めないで頑張ればきっと良いバンドに出会えるよ!」


「ありがとうございます!で、郁斗さんはなんていうバンドなんですか?」


「オレ達はSHINEってバンドだよ。ああ、ついでに紹介するよ。ギターのエー坊にベースのノッカ。こっちはドラムのナオちん。ヴォーカルは、ええと…今ちょっといないんだ、さっきまでいたんだけど。」


郁斗は軽く俺達を紹介した。…全員あだ名かよ(笑)


「宜しくです、エー坊さん!僕は俊鷹(としたか)って言うんですけど、トッシーでいいですよ!」


「ああ、よろしくなトッシー!」


ガッチリとトッシーと握手する。まあ、出来れば俺は鋭士でいいんだが。


「ノッカさんとナオちんさんも宜しくです!」


「今日は楽しく演ろうね!」


「僕もです!お互い頑張りましょう!」


トッシーは帆乃風と那秧にも礼儀正しく挨拶した。そんな様子がどことなく那秧に似ている気がしたのは、俺だけじゃないはずだ。


と、俺達がそうこうしている内に向こうが騒がしかった。どうやら何か揉めているようだ。二人の女性が何やら言い争いをしている。一人は小柄な金髪のミディアムヘアーの娘で、もう一人はやはり小柄で赤みのかかった明るい髪…ってアレ咲姫じゃねーか!?


「鋭士さん!アレ咲姫さんですよ!?」


「分かってるっ!」


俺は那秧にそう言い残して争っている二人に近付いた。


「アンタからぶつかってきたんでしょ!謝りなさいよっ!」


「だぁかぁらぁ、アタシはここに立っていただけだっつーの!ぶつかってきたのはアンタの方でしょっ!」


「はぁ!?何言ってんのアンタ?肩出してきたくせに!ウソつくんならもっとマシなウソつきなさいよっ!」


「アンタが頭から突っ込んできたんでしょうがっ!頭に重たい鉛でも入ってんじゃないの?」


「なんですってぇ〜!?アンタこそ躱すとか何とかしなさいよっ!身体に鉛でも詰まってて動けないんじゃないの?」


「ふん、小さくて見えなかったのよ!」


「アンタ、アタシと同じくらいの身長でしょうがっ!?」


「アタシの方がおっきいもんっ!」


何なんだコイツら!?会話だけ聞いてりゃどっちがどっちだか分からんくらいソックリだ。しかも内容は底辺レベル…。まるで咲姫が二人いるみたいだ。


「アタシは152cmだもんっ!」


「あら残念、アタシは153cm!」


「何を〜!153・5ッ!」


「くっ!153・55ッ!」


「153.555ッ!」


「153.555ごふっ!?」


俺はお約束のチョップを咲姫に食らわせた。


「アハハハっ!今ので1cmは縮んだね!いい気味ね、おチビちゃ…ぶはぅッ!?」


なんと咲姫が対峙していた娘にも鉄槌が下された。それを下した人物は…うおッ!?で、デカい!190cmはある身長の大男がグーの拳を垂直降下させていた。案の定それを食らったその娘は頭を抱えてうずくまっている。…100cmは縮んだな。


「…ウチの華音(かのん)が失礼した。」


その男はボッソリと言った。寡黙な印象が逆にすっげぇ迫力。


「い、いや、こっちこそ、咲姫が無礼だったよ、許してくれ。」


ふと見るとその大男の後ろにトッシーがいた。


「はは…、この人は聖・ANNALISEのドラマーで大輝(だいき)さんって言うんです!」


なんと彼はメンバーだったのか?てことはこの娘も…


「彼女はベースヴォーカルの華音さんです。」


なるほど!


「「誰、この人?」」


咲姫は俺に、華音はトッシーにそれぞれを同時に問う。そこへ郁斗と帆乃風、那秧がやってきた。


「彼はトッシー。オレの知り合いで、彼も今日参加するんだよサッキー。」


「あなたがSHINEのヴォーカルさんですね!僕は聖・ANNALISEのギターでトッシーです!今日は楽しく頑張りましょう、サッキーさん!」


「あ、うん、ども、よろしく、サッキーです。」


咲姫はトッシーにつられたのか、自分でサッキーと名乗った。

トッシーは今度は華音に応える。


「それで、この人達はSHINEのメンバーでギターのエー坊さんにキーボードの郁斗さん、ベースのノッカさんとドラムのナオちんさんです。」


また全員あだ名…郁斗以外。


「ふ〜ん、アタシは華音♪無敵で最強のベースヴォーカル…」


「…を目指している。」


華音の話を大輝が遮った。


「うっさい大輝!今に最強になってやるんだからっ!」


「改めて大輝だ。俺達は3ピースでやってる。そこの俊鷹は正式メンバーじゃないが…。」


大輝は俺に握手を求めた。


「鋭士だ、宜しくな!」


…いてぇ、いてぇ。握手したつもりなんだろうけど、握り過ぎだよ!


「私はノッ…帆乃風。宜しくね華音ちゃん、大輝さん!」


「僕は那秧っていいます!経験浅いですけどよろしくです!」


「オレは郁斗。カノカノにダイダイでいいかな?」


郁斗、またあだ名かよ。


「アタシは咲姫。ご存じSHINEの最強ヴォーカリスト!今日アタシに出会えた奇跡に感謝しなさいっ!」


なにこのエラソーな態度?

咲姫は両手を腰にあてて胸を張った。


「あぁーッ!アンタ、アタシのセリフを盗ったぁ!?」


華音が悔しそうに咲姫に叫ぶ。


「どーせアンタは目指してる途中でしょ?」


「うるさぁい!アンタなんて単なるヴォーカルじゃない?アタシなんてベースも弾けるんだからねッ!どう?悔しいでしょ!」


そうか、同じヴォーカルでもベースヴォーカルって言ってたっけ。この華音って娘、結構デキるかもな。


「くッ、悔しくなんかないねっ!アタシなんて今度ギターを弾いて歌うことになってるんだからッ!」


それは真っ赤なウソだろっ!でまかせ言うのも大概にしろ!


「おい、咲姫。その辺にしとけ。」


「だって…」


とりあえず俺は郁斗達に任せて咲姫を華音から遠ざけた。


「そもそもオマエ、何であの娘と喧嘩になったんだ?ちゃんと聞くから正直に話せよ。な?出来るよな?」


「…うん。アタシはただ壁に寄り掛かってあの娘を見ていたの。そしたら彼女がマイクのコードでつまずいて、助けようとしたらキレられた。」


その、咲姫に落ち度が全くない内容に不審を抱いた俺はちょっと叩いてみた。


「“つまずいた”から“キレられた”の間を詳しく言うと?」


「助けようとしたらアタシのショルダーアタックが見事にキマっちゃった、アハ♪」


…やはり埃が出たか。つーかそりゃあオマエが悪いよ。


「とりあえず彼女に謝っとけ。」


「はぁ?あのね、アイツだって逆ギレかましてアタシに肘打ちイレてんのよっ!お相子じゃない!てかアンタ、アイツの味方なの?」


咲姫はプイッとそっぽ向く。


「そうじゃない。オマエはあの娘を助けようとしたんだろ?ただ間違っちゃっただけで悪い事なんかしてないんだよ。彼女も同じで間違っちゃっただけなんだよ。ちゃんと謝れば分かってくれるさ!」


「…分かった!謝れば良いんでしょ!謝れば!」


そう言って咲姫は華音に近付いた。


「ちょっとアンタ!」


「何よ?まだヤル気?」


「さ、さっきはゴメン。アンタが転びそうになってアタシ助けようとして、肩入っちゃって…悪気は無かったんだよね!」


咲姫は若干華音から目を逸らしながら話した。


「え!?…その、いや、アタシが悪かったのよ!アンタが助けてくれたのにアタシ肘入れちゃって…酷い事まで言っちゃって…だからアタシもゴメンっ!」


華音も目を逸らしている。二人とも顔見て話そうな?

ま、でも俺の言った通りだよ。二人とも握手までしちゃってさ。類は友を呼ぶっていうけど…


「でも、最強なのはアタシだからねっ!覚えときなさいっ!」


「何言ってんの?アタシの方が最強に決まってるんだからっ!」


そうとは限らないのか?


「まあまあサッキーもカノカノも仲良くね!ま、俺から見たら二人とも最強に可愛い天使みたいだよ?」


キラッ☆


郁斗は伊達メガネのズレを矯正しながら眼を光らせた。


「「アンタ、チャラっ!!」」


お、ユニゾンで一致した!?


それはそうと俺は一つ気になったことがあった。それは…


「ところでオマエ、何であの娘を見てたんだ?」


「えっ!?」


俺の質問に咲姫の顔がみるみる赤くなっていく。ついには俯いてしまった。な、なんだ?変な事を聞いたつもりはないぞ?

そして咲姫は上目遣いで応える。


「…か、可愛いかったから…。」


な!?コイツ、まさか?


「か、勘違いしないでよねッ!あ、アタシもあんな風に可愛くなれたらなって思ってただけなんだからッ!」


はぁ〜そういう事か。でも俺はオマエの方が可愛いと思ってるぜ?


「でも、今は違う。」


「あん?」


「アタシ、絶対あの娘に負けたくない!絶対に華音には負けたくない!そう決めたの!」


それを聞いた俺は思わず口元が緩んだ。そうだな、それでこそ咲姫だよ。


「そっか、頑張れよ!」


俺はポンポンと軽く咲姫の頭を叩いた。


「アタシにとってアイツは只の踏み台でしかない事を思い知らせてやるんだからッ!!」


オマエそれは言い過ぎだろ!?



聖・ANNALISEのメンバーと交流した後、俺達はリハーサルを終えた。次はいよいよ本番のライブステージだ。楽しくなってきたぜ!


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