6章:青息吐息なる舞台に上がる瞬間 1
ライブハウスからライブ出場枠が与えられた俺達SHINE。後はひたすらチケットを売り込むのと、練習するのみだ。
「これが今回のチケットよ。1000円でワンドリンク付き、枚数は50枚。単純計算で一人10枚ね。」
「アタシあんまり友達いないんだよね、どうしよ?」
「僕もです。」
「実は私も。」
「オイオイ…、まあ、それを言ったら俺もだが。」
「大丈夫だよ。どんな人でも構わないから、そこはネットワーク駆使して頑張って集客しよう。オレはクリクリのスタッフとお客さんから当たってみるよ。」
ちなみに現在、居酒屋ダイニング“天地海”。いつも俺達が集まる例の居酒屋だ。
「そっか、じゃあ俺は大学のサークルから当たってみるかな。」
「僕はゲーセン仲間から聞いてみますね!」
「アタシは同じ文学部から。あと楽器店にも行ってみる!」
「じゃあ私は工場と走り仲間からでいいよね?」
みんな何とか宛はあるみたいだ。この様子なら大丈夫そうだな。
一応計算してみるか。ええと、大学のクラスから真行を含めて3枚とサークルから舞と統哉先輩等々5、6枚。友達関係を含めると10枚は余裕だな多分。俺は日本酒を口に含めて安堵した。
「ちなみにノッカはすでにこの居酒屋にファンがいるよね?」
「えっ?!どういうコト?」
そうだ、そうだったよ。帆乃風が始めて加入した時、ここで飲んで大暴れしたもんな。本人は記憶にないだろうが。
「あそこに座ってる彼と、カウンターのオジサンに掘炬燵のあのグループ。隣りのテーブルの女子会もみんなノッカのコト知ってる人達だよ。今日来てない人もいるようだけど?」
「鋭士さん、どういうことですか?」
那秧が郁斗の言った意味が理解できなかったらしく、俺に聞いてきた。
「そっか、那秧はまだいなかったもんな。以前4人で飲んだ時帆乃風が悪酔いしてな…。テンションあげぽよで客とノリノリだったんだよ。おかげで今やこの店の有名人さ。」
「お酒の力は偉大ですね!」
いや、そう捉えるか?あえて言わないがそのせいで俺は怒られたんだからな、何故か俺だけが。
「へぇ〜そんなことがあったんだ?アタシ全然気付かなかったけど?」
そう言ってテキーラのグラスを空にした咲姫。あのな、お前もその件に絡んでるんだからな!帆乃風も咲姫も記憶にないのがタチ悪い。
帆乃風は郁斗に促されながら周りの客にチケットを売り込み始めた。てか記念撮影までしちゃってるよ。
「ちッ、帆乃風め、いつの間にあんなにファンが!?」
咲姫は妬ましそうに新しくきたテキーラを一気飲みする。
「まあまあ、サッキーもカワイイからすぐにファンが出来るさ!」
「そうですよ、咲姫さんなら親衛隊がいてもいいくらいですよ?」
「エヘヘ〜そうかなぁ〜♪そんなことになったらアタシ解散しちゃうかも♥あっお姉さんっテキーラもう一杯♪」
はぁ、調子いいヤツだなコイツは。
「僕はジムの友達にも売り込んでみますね!」
那秧が突然言い出す。
「ジムって何の事だ那秧?」
「あ、そうか言ってなかったですよね。実は僕、最近ボクシング始めました!」
「「ボクシング?!」」
俺と郁斗の声が重なる。
「冷し中華!?」
ちげぇよ。コイツはスルーでいいや。
「何でまたボクシング?」
俺は刺身を頬張りながら那秧に聞く。
「いや、健全で屈強な体作りの一環ですよ!やはり漢は強くないと!」
那秧は笑みを浮かべて拳を握る。
「じゃあ今度アタシジムに見学行ってみるかな!」
「いいですよ!なんならやってみますか?ボクシング。」
「それもいいかもネ♪」
お前ら、ほどほどにな。
「あと、ライブとなると髪型も決めないとなぁ。」
キラッ☆
俺の発言に郁斗が反応した。
「キメてみるかい、ハードモヒカンver.クリクリで?」
「何故そうなる?!せめてソフトモヒカンver.クリクリで頼むよ。」
「ナオなら似合うんじやない?ハードモヒカン。」
「僕は遠慮しておきます。でも、カラーリングをお願いしようかな。」
「お安いご用さ。いつでもクリクリで待ってるよ!」
「アタシもお願いするね!」
「オマエはハードモヒカンか?」
「絶対ヤダッ!!」
そんな様子の咲姫を郁斗と那秧がくすくすと笑う。俺も咲姫もつられて笑い合った。
そんな俺達のところに帆乃風が戻ってきた。どうやら営業(チケット売り)が終わったらしい。
「どうしよう、いっぱい売れちゃったわ。」
「アンタ何枚売ったの?」
「23枚よ、ふふふ。」
帆乃風さん、マジっすか?内気で一番友達いなさそうなのに。
「心配しないで、足りない分は私がメガン・テスラ(ライブハウス)から貰ってきてあげるわ!なんたって私はリーダーだからねッ♪」
帆乃風は自信たっぷりに胸を張る。テンションたっけ〜。
「ちぇっ、羨ましいな。アタシも頑張ろうっと。」
俺も頑張んないとな。
「何か幸先いいですね帆乃風さん!」
「あ、いや、わ、私はちょっと運がよかっただけで…ナオ君だって頑張れば大丈夫よ、きっと!」
帆乃風は耳まで真っ赤にして座り込んで咲姫のテキーラを飲み干す。何故それを飲むんだ!?
「ノッカは綺麗な黒髪ストレートだから、あえてクリクリパーマがいいかな?」
郁斗…その話はまだ終わってなかったのか。
「今日はとりあえずゆっくり飲んで明日から頑張ってチケットを売り込みましょ!」
「ああ、あと練習もな!」
俺達はその日深夜遅くまで天地海で飲み続けた。
それから約一ヶ月間チケットの売り込みと練習に徹した俺達。現在の売上げ枚数は俺が21枚、咲姫が16枚、那秧が19枚、帆乃風が36枚、郁斗が42枚で計134枚。当初渡されていた枚数を大幅に超えていた。これならノルマうんぬん、インセンティブも余裕で期待出来る数値だ。
「すげぇなお前ら。そんなに売ったのか?!」
「まあな。俺はともかく、キーボードとベースがかなり頑張ってくれてさ。」
ギターの練習に一息つけて俺は自宅で真行と電話していた。
「ああそれと真行、お前もサンキューな。チケット買ってくれて。」
「気にすんなって、それより楽しみにしてるぜ、ライブ。」
「おう!じゃあまたな。」
やっべ、緊張してきたかも。その時俺は高まるテンションと緊張を同時に制御する事が出来ずにいた。ライブまであと一週間か。




