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5章:新たなる舞台へと走り出す瞬間 7

「つまり、咲姫ちゃんとチャリンコデートして、ホテルに泊まって、マリンフロンティアでまたデートしてきたわけっつーことだ。お前ついに一線を超えたんだな!俺の応援も無駄にならなかったという事だ、うん!」


「真行、ハナシの大半がズレているんだが?」


マリンフロンティアから帰ってきて現在pm21:00。自宅で俺は真行と電話をしていた。


「で?咲姫ちゃんって初体験だったのか?」


「違うッ!てか知らんッ!だから俺達はバンドのメンバーで温泉に行って来ただけだ!断じてそのような事はしてねぇよ!ただ露天風呂で…。」


「なんだ、そうだったのか。で、露天風呂がどうかしたのか?」


ちッ、つい口が滑り始めてしまったぜ。真行もしつけぇからな全く。


「…露天風呂で俺と那秧が漢に生まれ変わった。」


何言ってんだか俺…。つっても事故とはいえ、咲姫と帆乃風の裸を見たなんてコイツには言えねえ。


「おまっ?!…変態?」


とうとう真行にまで言われてしまったのか…。ちきしょう、必ず俺は俺を取り戻す!取り戻してみせる!頑張れ俺!俺を取り戻せッ!!


「もういいよ、この話はパスで。じゃあそろそろ切るな?俺これからギター練習するから。」


「分かった、じゃ頑張れよ、変態ギタリスト君?」


「変態は余計だ!」


苛立たしさを残したまま俺は電話を切った。こりゃあマジでget back me!だな。

俺はその後一時間程ギターを弾いて睡魔に負けた。



翌日の夜、俺達はレコーディングの打ち合わせの為に那秧の家に集まっていた。そういや、那秧ん家来たのは久々だな。部屋には以前購入したドラムキットが置かれていて床には防震用のパネルが敷かれていた。使い古したボロボロのスティックが過酷な練習量を物語っていた。


「あれ?今日は咲姫さんは来ないんですか?」


「サッキーは、急用で来れなくなっちゃったんだ。」


「そうなんですか。それは残念ですね。」


那秧はお茶とお菓子を並べて呟いた。


「あ、でも今日はドラムのレコーディングについての打ち合わせだから、咲姫はいなくても大丈夫よ?」


「ま、始めにレコーディングするのはドラムからだからね!」


帆乃風と郁斗がそんな那秧をフォローする。


「とりあえず、レコーディングで一番難しいのはドラムなんだ。そして一番大事なのもドラム!ドラムのレコーディングが上手くできなければ、良い仕上がりになる事は100%ないと思ってもらってもいいね。」


「マジっすか郁斗さん…僕ちょっと緊張してきました。」


郁斗によればまずドラム又はドラムとベース|(リズム隊)を同時に録音し終わってから、その演奏に合わせてギター、キーボード、最後にヴォーカルを録音していくそうだ。

ヴォーカル以外の楽器を全て同時に録音する一発録りという手もあるが、よっぽど演奏に自信のあるバンドでない限り、これはおすすめできないらしい。多少手間が掛かるが、一つ一つ段階を踏んで録音していくのが確実に上手くいくという。


「あまり緊張しないでね、私もついてるから。それと…」


那秧を和ます帆乃風。


「なんだ?」


「私も一緒…同時にナオ君と録りたいんだけど…いいかな?」


「そうだなぁ、確かにドラムのみを録るのはグルーブが損なわれやすいからなぁ。ノッカのテンションも考えるとその方がいいみたいだね!」


「それもそうだな。那秧もいいよな!」


「もちろんです!宜しくです帆乃風さん!」


「わ、私も宜しくね、ナオ君!」


帆乃風は顔を真っ赤にして下を向いてしまった。まあ、とりあえず2人共頑張れよ。


ドラムのレコーディングする場所はスタジオとかで録るのが普通らしいが、それだと自前のドラムを使いたい那秧にとっては運ばなければならなく、さらに録音する時間も限られてしまうので、那秧の強い希望により自宅のガレージ内で録る事になった。必要な機材は郁斗と帆乃風が揃えてくれた。主にMTRとマイクだ。ということで、まず俺達は那秧のドラムキットを丸ごとガレージに移動させた。次に録音マイクのセッティングだ。バスドラ、スネア、ハイハットに一本ずつ、タムとフロアに一本ずつ、クラッシュシンバルとライドシンバルに一本ずつの計7本をセットしMTRに接続した。これにライン録音でベースを接続する。MTRの出力にヘッドホンを繋ぎ、これを那秧が聞きながら演奏する。それと同時にクリック音も出しておく。まとめると那秧はクリック音と帆乃風のベースを聞きながら録音するわけで、その帆乃風のベースも録音されているという寸法だ。


「じゃあ今日はもう遅いから録音は次回だね。」


「僕はいつでもいいですから、帆乃風さんの都合に合わせますよ!」


「私、明日は非番だからよかったら、…ナオ君がよかったら午後からいいかな?」


「全然O.K.ですよ!」


「明日は一応俺達もいた方がいいか?」


「そうですね、任せますよ!」


「じゃあ学校終わったら覗いてみるかな。よかったら咲姫も一緒に連れてくよ。」


「了解です!」


「オレは明日は無理だから、何かあったら連絡してみてね?」


「分かりました!」


「じゃ、そろそろ帰るか。」


「またねナオちん。」


「また明日ね、ナオ君。」


「はい、宜しくです!」


こうして俺達は那秧ん家を後にした。



翌日、キャンパス内学生食堂。俺は一人で食事をしていた。午後から追試の試験があるから、軽く勉強しながらの食事だ。この時期は春休みに入っていてキャンパス内はガランとしているが、試験の結果が悪かったり単位の足りない者は追試や補習が待ち受けている。だから今ここにいる俺は追試組みの一人なのだ。


「やっほ〜、鋭士♪」


咲姫だ。テーブルに文学だの心理学などのファイルとパスタを乱雑に置いて席についてきた。ああ、コイツも追試だそうだ。の割りには呑気な登場だったが。


「お前、午後は追試何本受けんの?」


俺は物理のローレンツ力についてのプリントを眺めながら聞く。


「2本。アンタは?」


「同じく2本。奇遇だな。」


ずるるっと味噌ラーメンをすすってまたプリントを眺める。


「それで、レコの方は打ち合わせどうだったの?」


咲姫はパセリを皿のスミに避けながらプリントを捲る。


「昨日は音は出せなかったけど、セッティングは終わらせたよ。ドラムにマイクとMTRつないでね。あと、ベースも一緒に録ることにしたよ。」


「へぇ〜。」


「それでその…、追試終わったら那秧ん家行くんだけど、来るか?」


「行く行くッ!」


うおっ!いきなりテンション上がったな!?分かってると思うが、戦国スピリットをやりに行く訳じゃないからな?


「今頃は必死こいてドラム叩いているんだろうな、那秧は。それと帆乃風も。」


「てことは、2人きりだよね?」


「ああ、郁斗は今日は終日無理だって言ってたからな。」


チラッと咲姫を見ると顔が赤くなっていた。オイオイ、変な妄想してんじゃねぇだろうな?


「ヤダ、帆乃風、大胆…。」


やはりか…。


「大丈夫だ。ちゃんとやってるさあの2人なら。だから心配いらないさ。」


「えっ?!ヤってる!?キャ〜♪」


「そっちじゃねぇ!!レコーディングだ、レコーディング!」


全くコイツは。俺まで変な想像しちまったじゃねぇか!でも何でだ?那秧はともかく、ここ数日の帆乃風の言動からしてやりかねない気もしないというかなんというか。


「と、とりあえず追試終わったら行くぞ、那秧ん家。」


「そ、そうね!覗くのは気が引けるけど。」


「だから違うって、レコーディングだからなッ!…多分。」


俺はスープを飲み干して物理のプリントをまとめる。


「じゃあ俺そろそろ講堂行くから。追試頑張れよ!」


「アンタもね。終わったら連絡するね!」


「ああ、またな!」


俺は一旦咲姫と別れて追試を受けるべく講堂に向かった。

追試はそこそこ解けたが、咲姫が余計な事を言ったおかげで那秧と帆乃風が気になってあんま集中できなかった。ちゃんと勉強したから多分大丈夫だとは思うが。



pm3:34。場所は変わってここは那秧の家の前。


「ドラムの音はしてないぞ?」


「てことは?」


俺と咲姫は顔を見合わせる。


「「やはり!?」」


だって、レコーディングしてんだろ?でもドラムの音がまるでしてないぜ?


「どうするよオイ?」


「え?!いや、アタシ心の準備が…」


「落ち着けって!とりあえずガレージ裏から入るぞ?」


「う、うん、分かった!」


俺と咲姫は忍び足でガレージの裏口を目指す。まさかあの2人本当にヤってんのか!?


「ちょ、ちょっと鋭士待ってよ!」


その時だった。


ガンッ…ガシャン!


咲姫が立てかけてあった鉄スコップを引っ掛けてしまった。


「ヤバいッ?!来いっ咲姫!」


「キャ!?」


俺は咲姫を強引に引っ張って、そこに駐車してあったワゴン車の陰に隠れた。しかしその車、壁にピッタリ付けてあって、その隙間に隠れたもんだから俺と咲姫の身体もピッタリくっついてしまった。


「ちょっと?!離れなさいよ!」


「無茶言うな!こんな空間で!」


「あ!?変な所触らないでッ変態ッ!!」


「触ってねぇよ!てかデカい声出すな!」


くっそ〜!何でこんな事になってんだよ!?でもよく考えたら隠れる必要なんかなかったよな?ヤバいと思って反射的に隠れてしまったが。…早く出よう、こんなとこ見られたらそれこそヤバい!

しかし、俺の意思に反してさらに悪夢が襲いかかる。


ヴーッ、ヴッヴッヴッ、ヴーッ!!


俺のケータイがバイブで鳴り出した。しかも何故かリズムにのって。


「あッ?!ちょっと?!はぁ…ん!」


「バカッ!?変な声出すな!」


「イヤぁ!!あッ!?あッ!?ふぁ…ぁッ…ダメぇッ…止めてぇ!!」


くそっ、止めたいのに狭すぎてケータイに手が届かねえ!誰だ一体!?こんな時に電話してきやがって!そしてリズムに合わせてエロい声出すなッ!!

がしゃんっ!


「な、何してるんですか!?」


とうとう俺達は那秧に見つかってしまった。那秧は力が抜けて手に持っていたお菓子とお茶の載ったお盆を落としたらしい。


「鋭士さん?!それに咲姫?!」


帆乃風にまで見つかってしまう。彼女は電話をかけたまま呆然としていた。どうやら電話の相手は帆乃風らしい。


「はぁッん!いや…あッ、あッ!?やめッてぇ!」


「はっ?!帆乃風!その電話切ってくれッ!早く!!」


帆乃風は慌てて電話を切った。那秧が訝しげな表情で呟く。


「鋭士さんと咲姫さんって…そういう関係だったんですか?」


「「ちっがぁぁぁうッ!!」」



5分後。俺達はガレージ内にいた。俺は事の経緯を説明しようとしたが、那秧と帆乃風の気を悪くすると思ったから咲姫の妄想はあえて伏せておいて、2人を脅かそうとしてあの事態に陥ったと誤魔化した。咲姫も素直にそれで理解してくれたから何とか収まった。


「と、とりあえず以外と早めに終ったからお茶菓子を用意してたんです。…鋭士さん大丈夫ですよ、わざとじゃないって信じてますから!」


ああ、那秧。何度も言うがお前は何ていいヤツなんだ。あんなシーンを見られたのがお前だったのが不幸中の幸いだったよ。


「そう言ってくれてありがたいよ。咲姫も本当に悪かったよ、ごめんな。」


「い、いや、アタシも悪かったっていうか…鋭士は悪くないよ。ちょっとビックリしたけど。」


咲姫は顔を真っ赤にしながら誤魔化してお茶をすすっていた。


「その話はもういいわ。それよりドラムとベースは完成したわよ。とりあえず聴いてくれる?」


帆乃風がMTRを俺に差し出した。ヘッドホンを付けて一通り再生した。確かにそれはノーミスでしっかり録れていた。


「じゃあ次はギターだな!このMTRは借りてくぜ?」


「はい、頑張って下さい鋭士さん。」


ようし、俺も気合いで録音するぞ。楽しみだな、ワクワクしてきたぜ!

しかし俺のテンションとは裏腹に咲姫の様子がおかしかった。さっきの事まだ気にしてんのか?


「おい、咲姫?大丈夫か?」


「えっ!?何!?何が!?」


「咲姫さん、ボーッとしてて変でしたよ?具合悪いんですか?」


「家まで送る?今日私車だし。」


咲姫はみんなの心配をよそに慌てて返答する。


「な、何言ってんの!?んな訳ないでしょ!ナオッ!レコーディング終わったんなら今から戦国スピリットよ!今日こそランちゃんの恨み晴らしてあげるんだからッ!!」


そう言ってナオを引っ張って部屋へ向かって行った。


「なんだ?アイツ?」


「…ねえ鋭士さん。」


帆乃風が口を開く。


「何だ?」


「あなた、咲姫の事どう思ってるの?」


ぶぐッ!?


俺は飲んでいたお茶を吹き出しそうになる。


「どう思ってるって…アイツは、その…バンドのヴォーカルで俺の大事な仲間だよ!」


「他意はないの?」


「な、なんだそりゃ?!どういうことだよ?」


帆乃風は悪戯な笑みを浮かべて俺に突っ込んでくる。


「ふふ、まあいいわ。ちょっと聞いてみただけよ。あまり気にしないで?」


何だ、何だ?何なんだこの帆乃風の態度は?那秧の事になると乙女チックになるくせに!


「とにかく今はレコに集中したいから、あんまり苛めないでくれよ?」


「あら、苛めてなんてないわ?色々と大変だけど、咲姫の気持ちも理解してあげないとね?ふふふ。」


帆乃風は意味深なセリフを残してベースを構え、生音を出し始めた。


「…アイツの気持ちか。」


俺はスティックを手に取って、タンタンと帆乃風に合わせてドラムの音を出した。



その日の夜、那秧ん家から帰ってきた俺は早速自室でギターの録音に取り掛かった。録音方法はさっきのMTRの別トラックにラインで録音する。リズム隊(ベースとドラム)がしっかり録れていたので、さほど苦労する事なく録音出来た。ギターソロはさらに別トラックに録音して最後に同期しながら重ねた。




そして翌日俺はMTRを持って郁斗の職場、クリエイト・クリステラ・ヘアー、通称クリクリにいた。ちなみに今日は定休日で郁斗はキーボードを持参していた。


「よく録れてるね!ナオちん頑張ったんだな。」


「帆乃風が色々と頑張ってくれたのもあってな。」


「エー坊もギターよく録れてるよ。サウンドメイクもバッチリだよね!」


「ああ、サンキューな。俺も結構頑張ったんだぜ。」


俺は出されていたコーヒーを一口飲んで、バームクーヘンにフォークを入れる。食べるとチョコとバナナの風味が口に広がった。


「じゃあオレは今から録音するね。暇だったらその辺で遊んでていいよ?」


「分かった、店内を色々みてるよ。」


俺は郁斗が録音してる間、クリクリをブラブラすることにした。何か変な表現だが。

今気がついたがこの店、物品倉庫なる物があって大量の髪の生えた人形、要は髪を切る練習用の人形の首が置かれていた。バックルームには作りかけであろう髪を切られた何体かの人形が放置されていた。その中で一体だけ妙に見慣れたのがあった。って、俺じゃんコレ!?髪型一緒!そしてその隣りの女性型はどことなく咲姫に似てるような似てないような?一体何がやりたいんだ郁斗?そして目の前にある作りかけの人形にはパーマのロッドがかけてあった。いやコレ明らかに那秧だろ!てことは、どっかに帆乃風もあるんじゃないか?まさか、郁斗のヤツ普段は俺達には温厚だが、この人形に鬱憤を晴らしてんじゃ…?!こ、怖えぇ〜!てか、このバックルーム自体怖い。俺は人形と目を合わせないように部屋を脱出した。


「やあエー坊、何か面白い物でもあった?」


郁斗が俺の境遇を知ってか知らぬか、白々しいような態度で聞いてきた。


「向こうの部屋に俺がいた。」


「ああ、あれね。身近な人の髪型を作るとストレス解消になるんだよね!」


そんなこと笑顔で言ってるけど、何か俺の予感に近いような発言だな。間違いであればいいが。


「で、録音はどうなったの?」


「今終わったところ。」


「早っ?!」


「今回の曲はキーボード簡単だからね。」


郁斗は俺にヘッドホンを渡す。それを一通り聴いてみた。本当に簡単かコレ!?まあ、ちゃんと録れてるけどよ、時間的にほぼ一発録りじゃん!


「そしたら最後はヴォーカルだね。」


「どこで録るんだ?」


「228倉庫。」




そして俺は咲姫を呼んで郁斗と三人で228倉庫に向かった。ヴォーカルだけは環境設備が整ったスタジオで録るのがベストだそうだ。228倉庫に着くと、俺達はリハスタに入る。


「サッキー、今日の調子は大丈夫?」


「うん、多分…。」


郁斗が俺に耳打ちしてきた。


「何だかサッキー元気ないね?何かあったの?」


「さ、さあな?何か悪い物でも食ったんじゃねーのか?」


俺は昨日の出来事に関しては誤魔化した。


「ちょっと郁斗、準備していてくれ。咲姫、ちょっといいか?」


「なに?」


咲姫を呼んで一旦リハスタから出る。


「お前昨日の事はもう忘れてくれよ?元々俺とお前が変な妄想しだしたのが悪かった訳で…とにかく元気出してくれよな!」


俺は咲姫の頭をポンポンと軽く叩く。


「う、うん。大丈夫だよ、アタシは…」


何だ?妙に今日は素直なキャラだな、コイツ。ちょっと気味が悪いぞ?てか、顔が真っ赤で見てるこっちまで恥ずかしいぜ!


「そっか、ならいいんだ。頑張れよ!」


「アリガト、鋭士。」


チラッと笑顔を見せて咲姫はスタジオに戻った。うーん、何かよく分からんヤツだな?ま、とりあえずは大丈夫そうだが。


「さて、いよいよヴォーカル録りだけど、これは生ものだから、歌っているうちに声質が変わってきてしまうから気をつけてね。」


「上手く録るには?」


「手っ取り早いのは同じ雰囲気で歌う部分をまとめて録っていくやり方かな。」


「例えば、Aメロを先に全部録ってしまってからBメロ、次はサビを全部、そして最後にCメロなどという感じで録る。」


「なぁるほど!」


「あと、気を付けて欲しいのはヘッドホンからの音漏れかな。これが声と一緒に録音されちゃう可能性があるから、歌ってる時は両手でガッチリヘッドホンを押さえ付ける。」


「分かった!あとは何かある?」


「あとは…オレ達は外に出てるくらいかな。」


「えぇ〜!?一緒に居てくれないの?」


「録音されちゃうからね。」


「ま、しょうがないよな。俺達はすぐ外にいるから、頑張れよ!」


「分かった。ちょっと寂しいけど、頑張るよアタシ!」


俺と郁斗はリハスタから一旦退室して通路の壁にもたれかかった。


「とりあえずは大丈夫そうだね。」


「ああ、アイツなら心配ないよ。」


それから咲姫が録り終わるまで俺は郁斗と待った。かなり時間がかかると思ったが、彼女も頑張った甲斐あってか以外と早く終わった。


「はぁ、はぁ…終わったよ?」


よほど疲れたらしい、肩で呼吸する咲姫に俺はジュースを渡した。


「お疲れ!上手く歌えたか?」


「もっちろん♪全パートで1番上手いよ!やっぱアタシは天才かも!」


何故そこで全パートと比べる?


「うん、バッチリだね!あとはオレがミキシングしてデータに変換しておくよ。」


聴き終わった郁斗がO.K.サインを出してくれた。どうやら咲姫の言ってることはまんざらでもないらしい。


「そっか、宜しく頼むわ。」


ミキシングを郁斗に託すということで俺達は228倉庫を後にして一度解散した。

帆乃風に預けておいたプロフィールと写真、それに完成したデモ曲をライブハウスに提出した後、俺達SHINEにライブ出場枠が与えられたのはそれからすぐの事だった。


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