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5章:新たなる舞台へと走り出す瞬間 4

「んーっ!風が気持ちイイ〜♪」


「オイオイ、ちゃんと漕いでくれ。ペダルが重くなってきたぞ。」


「ハイハイ。ちゃんと漕ぎます!漕げば良いんでしょ?」


ここは河川敷サイクリングロード。街を流れる川に設けられている自転車専用道路だ。休日の朝から俺と咲姫はチャリンコでここを爆走していた。なんでそんな事してるかと言うと、話せば長くややこしくなる。簡潔に言えば、週末些細な事からコイツとケンカになって、ある条件で丸く収まるという。それがコイツのダイエットに付き合う事。まあ確かに俺が咲姫の事ちょっとバカにしたのが悪かったと思ってるけど、ほんの冗談のつもりだったんだよ?それをコイツが本気にしたばっかりに、事故とはいえいきなりキスされるわ、嫌われてビンタ食らうわ、屋上で至近距離で変な電話するわ、変態呼ばわりされてまたビンタ食らうわ、終いには泣かれるわで散々だったよ。大体キスしてきてビンタってどういう心理だよ?全く理解できんなコイツ。


でもって、そのダイエットに俺が提案したのがチャリ部のタンデムサイクル。これは二人乗り用の自転車で前後にペダルがあってそれぞれ前輪後輪を動かせる。二人で漕ぐからかなりのパワーとスピードが得られるメリットもある反面、旋回性に乏しいという欠点もある。あと、これは俺の個人的な意見だが、このチャリ結構恥ずかしいぜ?見てても恥ずかしいが、乗ってる本人も恥ずかしい。男同士でもそうだけど、男女で二人乗りってなんかなぁ。何となく俺の言いたい事分かるよな?つまりそういうことだ。だから俺はそういう意味も含めてこのチャリが苦手なんだよ。やっぱチャリンコは一人で乗るもんだな!統哉先輩は喜んでこのチャリ貸してくれたが。


「あ゛〜疲れたぁ!鋭士、そろそろ休憩しない?」


「は?まだ30分も走ってないぞ?お前もうちょっと頑張れよな。」


「てか、アタシはジュースが飲みたい!鋭士買って来て!」


「オマエは俺の提案をぶち壊す気か?!」


「アハハ〜、ゴメンゴメン!…でも本当にちょっと疲れた。」


「分かった分かった。じゃあもう5分頑張れ。そしたら休憩しようぜ?あと、飲み物も買って来てやるから。」


「ホント!?やったぁー!!」


「ただし、水かお茶な!」


「鋭士のいけずぅ〜。」


確かにこのタンデムサイクル、慣れないと少々辛いかもな。というのは、速く走っていないうちは左右のバランスが崩れやすいからだ。そこに集中力を注ぎ込むから精神的にも肉体的にも疲れてくる。だから咲姫が30分足らずでヘバるのも無理はない。


「よーし!んじゃ休憩すっか!」


「はぁはぁはぁ〜…。つ、疲れたぁ。」


咲姫は前のめりになりながらベンチに座る。俺はそのまま飲み物を買いに行くことにした。

コンビニで水とお茶を大目に買って戻ると、咲姫はタオルで汗を拭いていた。


「お茶と水どっちがいい?」


「…水でいい。」


咲姫は俺から水を受け取ると一口飲んで、また汗を拭く。ところでコイツ汗かきすぎじゃねぇか?俺なんかほとんどかいてないのに。季節的にも今日は暑くないし。


「お前何でそんなに汗かいてんの?そんなに激しい運動じゃないだろ?」

「今日アタシ、サウナスーツ着てるからね。暑くて暑くって!」


そう言って咲姫はジャージの上着を捲って見せる。その下には通気性の悪そうなナイロン製の生地が見えた。


「何もそこまでしなくても…。てか気をつけた方がいいぞ?それじゃあ皮膚呼吸無理だろ。カエルもビックリだな。」


「む、アタシはカエルじゃないし!」


「まあいいや。じゃあ休憩済んだら行くぞ。今日は長くなるからな。たっぷり休んどけ。」


「分かった。あと5分。」


この調子ならすぐに痩せれそうな気がしてきたよ。頑張れよ咲姫。

それから俺達は河川敷をひたすら河口に向かって走った。気持ち下り気味だったから、スピードもそこそこ出て快調だった。


「じゃあ、食べ物しりとりね。チョコバナナ。」


「なすび?」


「ビスケット♪」


「トマト?」


「トルテ♪」


「天ぷら?」


「ラスク♪」


「くり?」


「リンゴパイ♪」


「イワシ?」


「ショートケーキ♪」


「…オマエ欲望丸出しだな。」


「ちょっと、まだ終わってないよ?それとも負けを認める?」


「もう負けでいいよ…。」


「じゃあアタシ5分休憩♪」


「はいはい。」


俺は後ろに咲姫を乗せたまま一人でタンデムサイクルを漕ぐ。コイツ本当にヤル気あんのか?


「ようし、第2ラウンドといくか!」


「望むところよ!」


「じゃあ無理問答な。会話成立させたら負けだぞいいな?」


「それはきっとチーズトルテね!」


「俺、今度バイト始めようと思う。」


「イチゴタルトの作り方は?」


「今やってる曲のギターソロはなかなか手強いぜ?」


「田舎のおばあちゃんは今頃みたらし団子食べてるだろうなぁ〜。」


「そういえば、今度郁斗が髪切ってくれるってさ。どんな髪型がいいかな?」


「ナオが言うにはランちゃんは攻守のバランスがいいらしいよ。」


「俺、野球はあんまり詳しくないんだよね。」


「鋭士って、いつも味噌ラーメンだよね。アタシは醤油派だなぁ。味噌ってなんか味噌臭くて…。」


「咲姫は最近ハマってる物ってあるか?俺は帆乃風の影響で車に浮気しそうだよ。」


「絶対ネコ耳は外せないッ!」


「そうだ!これからフルーツパフェ食べに行こうぜ!?」


「うん!行く行くぅっ!!…はっ!?しまった!!」


「…オマエやっぱ欲望丸出しだな。」


「ちょっと、鋭士ズルいッ!!卑怯者ッ!!」


「ほら、5分間漕げよ?精々頑張れよ、お嬢さん?」


「くッ、フ、フルーツパフェは?」


「そんな物はないぜ?ほら、スピード落ちてんぞ?漕いだ漕いだ!」


「覚えときなさいよ、鋭士ッ!!」


「何とでも言え。」


「変態ウ○コタンデムマシーン。」


「スマン、やっぱやめてくれ。」


そんなくだらない話をしながらも俺達は河口の最終地点にきた。何だかんだで結構漕いだと思う。時計を見たら昼の1時を過ぎていた。俺もさすがに汗をかいてしまっていた。咲姫はサウナスーツ着てるからもうビッショリだった。


「ヤッバ!汗かき過ぎ!」


汗を拭きながら水を飲む咲姫。サウナスーツの袖口からも汗が滴っている。


「それ拭いたらメシにしようぜ。つってもおにぎりしかないけど。」


「そのおにぎりにおかずは付いてないの?」


「ない。ちなみにおにぎりの中身も何もない。諦めろ。」


「そんなぁ〜!」


俺は顔の汗を拭いてから食事の準備に取り掛かる。ゴザをひいただけだがな。


「せめて中身はシャケとかツナマヨとかにして欲しかったな…。」


「文句言わないの!俺だってホントは味噌ラーメン付けてやりたいぐらいだよ。だけどお前の為に我慢してるんだから、お前も我慢しろよ。」


「くッ、…分かったよ、我慢するよ。」


「まあそうツンツンすんなって、ちょっと顔回り痩せたんじゃねーの?」


「エっ!?そうかなぁ〜エヘヘ〜。」


はぁ〜単純なヤツだな。


「アリガトね、鋭士。」


「なんだよ急に改まって?」


「アタシ最近イライラしててさ、鋭士に当たっちゃってワガママ言ってゴメンね。」


「いつもの事だろ。」


「む、アタシそんなにワガママじゃないし。」


「そんなにって事はちょっとはそうなんだ?」


「違う!ちょっともない!」


「分かったから、ムキになるなよ。でもその方がお前らしいよ。俺が何と言おうと咲姫は咲姫だもんな。」


「そうだよね!アタシはアタシだもん!好きにしていいよね?」


「オイ、好きにするの意味間違ってないかオマエ?」


「大丈夫、大丈夫!アタシ前よりイイ娘になるからさ!」


そう言ってはにかむ咲姫。本当に大丈夫か、コイツ?


「ところでお前、デモ曲のレコーディング準備とかしてんの?俺はギターのセッティングまでやったぞ?もちろん練習もしてるし。」


「えっ?!準備?うーんアタシは歌うだけだからなぁ〜。美味しい物食べてモチベーション上げたいんだけど、コレだもんね…。」


咲姫は食べ掛けの中身のないおにぎりをチラつかせた。確かに美味しい物はとにかく、モチベーションを上げるってとこには頷けるが。


「そっか。なあ、これから帰って風呂入りに行かないか?」


「エっ!?お風呂?で、でも…なんか恥ずかしいよ。」


「お前勘違いしてんぞ?ソレ。」


何を考えてるのか、咲姫は顔を赤らめてモジモジし始めた。


「た、確かにモチベーションは上がるかもしんないけど、アタシ…あんまり自信ない、かも。」


「だから違うって言ってんだろ!今日頑張った分の汗を流すって言いたいの!みんな誘ってさ!それにそのままだと風邪ひいてレコーディングどころじゃないだろ?」


「な、なぁんだ、そういうことね。もう鋭士は言い方が紛らわしいっていうか、何て言うか…変態?」


ほっとけよ!どうせ俺は変態ウ○コタンデムマシーンだよ。


「とりあえず、それ食ったら戻るぞ。分かってると思うけど帰りはほとんど上りだからな。」


「えぇ〜何で?!」


「当たり前だろ、俺達は上流から来たんだから。行きで下って来たんだから帰りは上りだろ?」


「ヤダ、行きも帰りも下りがイイ!!」


「それは物理的に無理だろ。諦めてイイ娘で漕ぐんだな。」


俺はタンデムサイクルをヒョイっと逆方向に向ける。


「やっぱ、鋭士の意地悪。」


「はぁ〜しょうがないヤツだな。分かった、わーったよ!こうしよう。俺が後ろでお前が前。実はこのチャリ後ろの方が疲れるんだ。もっと言えば、体重の重い方が後ろで漕いだ方が良いんだよ。お前は疲れたら漕がなくて良いし、俺が頑張るさ。どうだ?これなら文句ないだろ?」


「…分かった。じゃあ頑張る!」


咲姫はようやく立ち上がって前席に座った。したがって俺も後席に座る。


「そのかわり、ハンドルとブレーキはお前に託すからな。」


「分かった!任せなさいって!」


「じゃあ行くぞ!」


俺は気合いいれて思い切りペダルを踏み付けた。なんだかこの調子だと俺まで痩せてしまいそうだな。



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