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5章:新たなる舞台へと走り出す瞬間 1

寒い冬も終わりに差し掛かり、霙混じりの雪が降っている。落ちては消え水に変わる。辺りを白く化粧をしていたこの景色も、今となっては見られない。あれだけ積み上げられていた雪も、溶けたアイスクリームの様に横たわっている。確実に春はすぐそこまで来ていた。そう、俺達SHINEにも。


「そろそろ弦を変えないとな〜。」


曇り掛かったギターの音を耳に、俺はつぶやく。


「ふーん、アンタ結構練習してるんだ。」


マイクを弄んでる彼女は、ヴォーカルの咲姫。可愛いんだけどちょっと我が強くて、ワガママなヤツだが、歌唱力はズバ抜けている。バンドの顔であり、ムードメーカーであり、トラブルメーカーでもある。


「ギターは弦が錆びやすいからね。弾き終わったら丁寧に拭いてあげないと、エー坊。」


キーボードでスクラッチ音を出している彼は郁斗。無論パートはキーボード。俺達のバンドの面倒みてくれるリーダー的存在だ。ちょっとズレてる所もあるが。唯一メンバーを全員あだ名で呼んでるのも彼。さらに美容師でイケメンである。


「鋭士さんの弦を見れば、どれだけ練習してるかすぐ分かるわ。」


チューニングしながらそう言ったのはベースの帆乃風。物静かな雰囲気にどこか儚げな印象を持たせる可憐な顔。しかしそれは表向きで中身は熱く情熱的な彼女。ベースはかなりのレベルで欠かせない存在だ。整備士をやっていて力もかなりあると思われる。恐らく。


「へぇ〜、ギターの弦って交換するものなんですね?」


スティックを拭いている彼は那秧。パートはドラム。メンバーで唯一の未経験者でひょんなことからドラムを叩くことになってしまった彼。しかしそれは出会った頃の話で、今はそれなりに叩ける様になっているようだ。一番年下だからか素直で人当たりもよく、変人?揃いのメンバーの中では一番まともな男だ。


「まあ、今日リハ終わったら交換するかな。ついでにネックと弦高も調整するよ。」


ああ、一応俺も紹介しておくか。

俺は鋭士。俺達のバンド“SHINE”のギタリストであり創設者。強者揃いのメンバーに翻弄されながらも健気にギターを弾く男。情に脆く不器用だが仲間を想う気持ちは誰にも負けない、と思う。

こんな感じでいいかな?

で、今いるここは228倉庫。もはや俺達のメインリハーサルスタジオと化してしまった、地下にあるスタジオだ。ちょっとボロッちいけど、機材はしっかりしたものが揃っているのが有り難い。嬉しい事に、最近ゴールド会員なる物に昇格したため利用料金が安くなった。まあ、俺達の溜まり場的場所とでも言っておこう。ここ数週間は3日に一回位のペースで練習している。結構やってるよな俺達。何でかって?それはだな、


               ☆☆☆


「ライブ進出?!」


「そう!」


「ちょっとその紙見せてよ。」


1月某日、ここは郁斗の店クリエイト・クリステラ・ヘアー、略してクリクリ。俺達は郁斗に呼ばれてミーティングしていた。


「ナニナニ?参加バンドは5組、開催は4月。アマチュアバンド限定ね。ふぅん、アタシはいいよ!」


「でもちょっとまだ早くないか?那秧だって最近ビートを組めるようになったばっかだし、微妙な気がするよ。」


「大丈夫だって、ナオならやれば出来るよ!アタシが保証するって!」


「那秧はいいのか?嫌なら嫌で構わないぞ?」


「大丈夫っすよ!咲姫さんにそう言ってもらえるならやるしかないですよ!」


「さっすがナオ!どう鋭士、言いたい事はそれだけ?だったら決めちゃいなさい!」


「くっ!帆乃風はどうなんだ?」


「私もちょっと心配だったけど、ナオ君がそう言ってくれるなら喜んで。」


「後はエー坊だけだよ?」


「…分かった、分かったよ。やります、是非やらせてください。」


「じゃあ決まりだね!アタシの歌姫伝説が始まるってわけだ!んー楽しみ!」


「でも、ライブって具体的にどうやって参加するんですか?僕、よく分からないんですけど?」


那秧は咲姫に振る。


「それはね…アタシも良く分かんない。」


「あのなぁ、全くオマエは。まあ俺もあんまり分からんが。」


「ええとね、参加までの流れとしては、ライブハウスの審査に合格する必要があるのよ。」


帆乃風が説明を始める。


「まずライブハウスに出演交渉するんだけど大抵は、メンバーのプロフィールと、写真と、デモ演奏の提出が必須ね。」


「そうなんですか。なるほどです!」


「プロフィールはともかく、写真か〜。アタシ写真写りあんまり自信ないんだよね。」


「大丈夫、サッキーは可愛いから自信持ちなよ!」


「エヘヘ〜そうだよね〜アタシカワイイもん♪今日はもう解散でいいや!」


「帆乃風、コイツはほっといて続けてくれ。」


「う、うん。それで、ライブハウス側で音楽性や演奏力の審査をして、合格すればオーディションライブに出演できるわ。」


「オーディションライブ?」


「そう、つまり今回のメインのライブの事ね。」


「ん?それはどういう事だ?」


「ああ、そこはオレから説明するよ。」


俺の疑問に郁斗が応える。


「オーディションライブってのは見た目は普通のライブなんだけど、同時にライブハウスの審査が行なわれるんだ。内容はライブ同様に、チケットを販売してお客さんを集めなければいけないんだけど、集客力があまりにも低いと、ライブハウス側に相当気に入って貰えない限り、合格は難しいんだよね。ライブハウスも商売だから、集客力の高いバンドを一つでも多く入れたいって思ってるからさ。」


「つまり、客を出来るだけ集めれば良い訳だな?」


「そゆこと。」


「それで、そのオーディションライブに合格したらどうなるんですか?」


キラッ☆


おっと、光ったぞ!今までで一番眩ゆかったな今のは!那秧はゴクリと喉を鳴らして構える。咲姫もゴクリと鳴らす。じゃあ俺もゴクリと。何故か帆乃風もゴクリ。


「…それは秘密だね。」


「だあぁぁーっ!!」


郁斗、何故ここでもったいぶる?俺の、いや皆のゴクリを返せ!つーかその目はフェイントもアリなのか!?タチが悪いな。


「いやぁ〜ゴメン、ゴメン!合格すると晴れてオレ達のバンドは当該ライブハウスのレギュラーになれるんだ。」


「おおっ!!」


「ムフフ〜てことはアタシにファンが出来るのね!」


「それももちろん有りだね。」


「私はナオ君が、いや、ナオ君のファンになりたい、いや、もうなってるよ…ぶつぶつ。」


あの〜、帆乃風さん?とりあえず戻ってっきて下さいね?


「そしたらそのあとは、ライブ終了時に次の出演予定を聞かれると思うから、客を集めてまたライブさ!ライブハウス側も色々とアドバイスをくれたりするから、動員数を上げて恩返しできるし、上手くいけばオレ達にもインセンティブとしてバンド資金にもできるさ!」


「スッゴーい♪早くやりたいな!アタシの歌姫伝説を見せつけてやりたいよ!」


「僕、大丈夫かな…?」


「あ、でも今回は集客のノルマはないみたいだから、気にしないでライブが出来ると思うわ!上手くいけば郁斗さんの話にもっていけるだけの事よ!」


「そうだな、それなら気軽に出来そうだな!駄目なら次で頑張れば良いし!」


「経験しておくだけ価値はあると思うよ!」


「じゃあ僕頑張りますよ、僕の最強ドラマー伝説が始まるように!」


「はぁ〜、那秧はだいぶ咲姫に毒されてきたな。」


               ☆☆☆


てなわけで、俺達はライブに向けて猛練習中なのだ。

それからパートごとに練習して2度程合わせて、練習を終わらせた。しかし、今日はまだやらなければならない事があった。それは…、


「さて、と。じゃあ始めるかい?」


「恨みっこなしだよ?まあアタシが負けるわけないけど。」


「どうか僕に決まりませんように…。」


「生か死か、この勝負に全てを賭けるわ!」


「よーし、じゃあ配るぞ!」


トランプのババ抜きだ。何を決めるかって?リーダーだよ、バンドの。そういうのは郁斗か咲姫でいいと俺は言ったんだが、郁斗は「皆に任せるよ〜。」とか言うし、咲姫は「ヤダ、めんどい。」とか言うし。帆乃風も那秧もやりたがらない。もっとも俺が一番やりたくないが。仕方なくこれで決める事にしたんだ。しかしトランプのババ抜きなんかで決めて良いものなのか、リーダーって?

各々ペアカードをはけていく。そこで気付いたが、郁斗の持ち札はたったの4枚?どんだけ捨てたんだよ?

引く順は咲姫→俺→帆乃風→那秧→郁斗の順。


「じゃあアタシからいくよ!」


2ターン目、なんと郁斗が那秧から引いたカードが見事ビンゴ。この時点で郁斗の一抜けが確定してしまった。


「いやあ〜みんな悪いね。」


「早っ!?てか郁斗が一番リーダーにふさわしいのに…。」


咲姫は郁斗のカードを引いて嘆く。

俺のカードは残り5枚。帆乃風が7枚。

那秧も7枚

咲姫が8枚。

一番俺が近いが、まだまだ勝負は分からない。


「ッ?!」


咲姫が那秧から引いた途端に顔が引きつった。ジョーカーだな。分かりやすいヤツめ!

これで俺は引く時に気をつければいいんだ。俺の目は咲姫のカードにロックオンした。

5ターン目。あ、れ?おかしくないか?咲姫のカードは順調に減っている。コイツはジョーカーを持ってるし、俺はヤツからはそれを引いていない。それなのになんだこの余裕の顔?気に入らねえな!那秧も一時増えたが順調に減らしていく。帆乃風は逆に増えている。俺のは全く減らない。


「では、お先です!」


6ターン目、ついに那秧がアガる。落着け俺。とにかく咲姫のジョーカーに気を付けとけば、帆乃風に負けてもビリにはならない。そして咲姫のカードが残り1枚になった。それがジョーカーか。しかし7ターン目。


「ハイっ、アガリっと!」


何ィ!?嘘だろ?咲姫は帆乃風のカードを引いた途端にペアカードを捨てた。しまった!ヤツはハナからジョーカーを持っちゃあいなかったんだ…てことは?俺の視線の先に脂汗をかいた帆乃風がいた。


「しょ、勝負はここからよ、鋭士さん!」


なんてことだ!これまでの経緯からジョーカーは帆乃風がずっと持ってたのか?!那秧は巧みにそれをかわし、咲姫はポーカーフェイス。アガった那秧と咲姫は俺にドヤ顔見せてハイタッチをしていた。お前等グルだったのか!?


俺のカード5枚、帆乃風のカード6枚。やってやるぜ!


それからは激しい攻防が続いた。ジョーカーを引いては、返し、返しては引く。そうこうしているうちに俺が1枚、帆乃風が2枚のサドンデスに突入した。ここで俺が6(最後のペア)を引けば俺の勝利でリーダーは帆乃風になる。恨みっこなしの勝負だ。遠慮なくいくぜ!が、しかし…


「うっ?!」


なんてこった…引いちまったよ、ジョーカーを。追い詰められる俺。


「フフフ、そう簡単には負けないわ。」


「いいぞぉー帆乃風!!そのまま引導を渡してしまえー、アタシが許すっ!!」


「うるせぇーっ!!外野は黙ってろ!!」


「さあ、私の番よ!大人しくリーダーに…なりなさいっ!」


帆乃風が迷わず引いたのは…ジョーカー?!


「くっ!おのれ〜!!許さんっ!!」


「あ、あぶねぇ〜!」


俺がシャッフルかける前にいきなり引きにきたもんだから焦ったぜ?!つーか正直怖いっす今の帆乃風さん?


「エー坊、リラックスリラックス。」


落ち着け鋭士、形成逆転だ。俺はSHINEのギタリストとして、いや、一人の男としてここで決めるぜ!ベーシストに負ける訳にはいかねぇ!


「いくぜ!」


「来なさいっ!」



5分後…。


「いやあ〜なかなか良い勝負だったよ、うん!」


「僕は先にアガれて良かったですよ、本当に。」


「アタシとしてはなんかなぁ〜。ま、いいけどさ。」


「そんなに落ち込むなよ、リーダーって言っても別に大したことないさ!なっ帆乃風。」


「…もういいわ。私、諦める。」


壮絶なる激闘の末、俺はそれを制し、リーダーは帆乃風に決まった。ちょっと可哀想だったかな?てか、よく考えたらババ抜きなんかで決めるのは理不尽だよな。


「でも、ノッカはちょっと大人しいけど、しっかりしているし、リーダー適任だとオレは思うよ?」


「そうだよ!ベーシストでリーダーなんてクールでカッコイイじゃん!」


「帆乃風さん、頑張って下さい!僕もドラマーとしてお手伝いしますから!」


「…そうね。私頑張る。リーダーらしくみんなを引っ張っていくわ!」


帆乃風は恥ずかしがってるのか、何故か頬を桜色に染めて言った。


「いいのか帆乃風?やっぱみんなで話し合って決めた方がよかったんじゃないのか?」


「ううん、いいのよ。今になって私、ヤル気が出てきたというか、私がSHINEのリーダーって思うとゾクゾクするの!だから私にやらせてくれる?」


「そうか、なら宜しく頼むよ、帆乃風!」


こうしてバンドのリーダーが帆乃風に決まり、俺達はライブに向けて確実に走り出していた。



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