序章:冷めた男が目覚める瞬間 2
目を覚ますと朝のちょうど7:00。ここは俺の自宅。まあ借りてるアパートなんだが。俺は親の仕送りを受け取ってここで一人暮らしをして大学に通っている。特に楽しい部屋でもなんでもない、ただ食べて寝るだけの寂しい部屋だ。今は目覚まし時計が鳴る15分前。ま、“ジャスト7:00に目が覚めたで賞”がある訳じゃないし、この時間に何の意味も無い。あるとしたら…“ジャスト7:00に俺は冷めていたで賞”だろうね。…朝から俺は冷めていた。
玄関に鍵をかけ、自転車の鍵を外す。俺の愛車、プジョー・サイクルだ。前3段、後9段の27段変速に前後ディスクブレーキ及びサスペンション搭載している優れたヤツ。俺はコイツに乗ってキャンパスに通うのが好きだ。俺の人生の数少ない生きがいといっても過言では無いね。これでカッ飛んでいると、嫌な事が吹き飛んでいく、そんな気がするんだ。俺はプジョーに跨がってペダルを踏み込みキャンパスを目指した。
今日から学祭かぁ〜適当にキャンパスぶらついてなんか旨い物食べたら帰って寝よう。俺はなんてことを考えてながらハンドルを握っていた。
そして俺は気が付くのが遅れた。駄目だ!当たるッ!コンビニの出入口から勢いよく人が出てきた。フルブレーキの態勢でハンドルをあさっての方向に切る。強烈なプジョーのブレーキでタイヤがけたたましいスキール音を生み出す。その人の「えっ?」の表情の中の俺はそのまま…
どふっ
ガンッッグワッシャァァン………カラカラカラカラカラ…
あいててて…あちこち擦りむいて、血が滲んでいた。辺りにはお菓子やジュースなどコンビニの商品が散乱している…はっ、ぶつかった人は…
俺は真っ先に倒れてるその人のもとへ走る。女性だ。見たところ外傷は無さそうだ。恐らく当たったのは俺の肩と彼女の腕辺りか。しかし彼女は倒れたままピクリとも動かない。まさか頭を打ったんじゃ…。どうしようと思いながらも彼女の頬をぱしぱしっと叩く。
「大丈夫ですかっ!しっかりしてくださいっ!」
するとすぐさま、バチっと目が開いた。ああ、よかっ…バッチ〜ン!!
俺はいきなりの平手打ちになす術もなかった。
「アンタっ、なんって運転してんのよっ!いきなりぶつかりにきて、アタシの可愛い顔に傷が付いたらど〜してくれんのっ!!」
歳は俺と同じくらいだろうか、自分で言うくらいだが確かに可愛い顔に眉をつり上げて彼女は怒る。
「すみません、本当にすみません!」
俺はそう謝るしかなかった。そんな俺に彼女はさらにまくし立てる。
「下手くそな運転にスピードも出し過ぎだし、もうっ最っ悪っ…顔も最悪。」
?!ッ、聞こえたぞ。ボソッと言ったけど確かに聞こえたぞ。ぶつかったのに顔は関係ねえだろ。俺の中でぷちりと音がした。
「ざっ、ざけんなっ!大体飛び出してきたのはそっちだろ!こちとら怪我してまで謝ってるのに、スミマセンの一言もねえのか!さらに顔が最悪だとぉ〜?!ふざけんなブサイクがぁっ!!」
「なんですってぇ〜?!アンタっ顔だけじゃなくて性格も最っ悪っ!!もういいっ目障りだからアタシの前から消えてっ今すぐ消えてっさっきのスピードで消えてっ!なんならこの世から…」
それ以上は言わせまいと、俺も負けずに言う。
「言われなくたってすぐ消えてやるよ、ムナクソ悪りぃっ!直撃しなかったのに感謝するんだな!じゃあな、あばよっ!!」
そう言って俺はプジョーを起こしにかかる。だが、またしても声が掛かる。
「待ちなさいっ!」
なんて女だ!まだヤル気なのか?上等だ、こうなりゃとことん付き合うぜ!俺はワンテンポおいて振り返る。…が。
…ぱしっ
投げ付けられたのは俺の財布。ぶつかった衝撃で懐から落ちたのだろう。
「忘れ物よ、感謝しなさい。」
憮然とした彼女の態度。その時俺の足下にジュースのペットボトルが転がってるのに気付いた。俺はそれを掴んで奴に投げ返した。
「お返しだっ!感謝しとけ!」
そして俺は財布をしまうと、そのままキャンパス目指した。さっきのスピードが出ねぇ、フレームが曲がってんだよちくしょう。
ガラにもなく俺は熱くなってしまった。