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4章:健気な遊戯者が打音を生む瞬間 1

「さぁて、これからどうする?」


土曜日、ここは近くにあるアミューズメントパーク。ゲーセンやカラオケ、ボーリングにネットカフェ、さらにはパチンコなどが揃っている娯楽施設だ。帆乃風が加入してから数週間、毎週の練習会の息抜きに俺達はここに遊びに来ていた。ちなみに今までカラオケしてたんだよね。


「うーん、食事には少し早いよね?」


「私は、二人におまかせでいいわ。」


咲姫と帆乃風はそう応えた。

今日は3人で遊びに来ているので郁斗はいない。なんでも「美容師の講習会があるんだ。」といって、忙しいらしい。ここの施設は何度か真行と来た事はあるが、女の子2人となると、正直どうしていいかわからない。あれこれ考えていると帆乃風があるモノを凝視しているのに気がついた。帆乃風の視線の先には…パチンコ?


「あれっ?帆乃風ってパチンコするの?」


咲姫が以外そうな表情で帆乃風に聞く。


「えっ!?あ、いや、私は昔何度か…。」


…以外だ。俺は帆乃風がパチンコを打っている姿を想像してみて、咲姫と顔を合わせた。


「想像つかないよね?」


これには咲姫にも以外だったらしい。


「あっ、じゃあちょっと行ってみる?久々のパチンコ!」


「それもそうだな!ちょっとだけやってみるか?」


「えっ!?」と帆乃風は少し困惑していたが、


「じゃあ、ちょっとだけ…。」


そう言って笑みを見せた。うーんこの娘、ますます分からないな。


「エヘヘ、アタシ前から一度、パチンコやってみたかったんだ〜。」


そう言って咲姫は帆乃風を引っ張っていった。

ホールに入ると特大の轟音が俺達を襲う。実は俺もパチンコ店に入るのは初めてで、こんなにウルサいとは思ってもみなかった。


「何コレっ!?凄い音っ!!」


咲姫が何か言ったが当然聞こえない。帆乃風が向こう側で手招きしていたので、とりあえずついて行く事にした。

ついて行ってみたもののどの台に座っていいのか分からず、結局俺は帆乃風の選んだ台の背中側に座る事にした。咲姫は帆乃風の隣に座る事にしたらしい。台の名前は“CR海伝説”。で、一体どうやるのコレ?


「ココにお札をいれて“玉貸ボタン”を押すのよ。」


帆乃風のヘルプ。なるほど。俺は財布から千円札を取り出し挿入口にIN、玉貸ボタンを押す。するとじゃらじゃらと銀玉が出てくる。


「後はハンドル握って打つだけ。カンタンでしょ!」


帆乃風は笑顔で言った。

とは言われたものの、液晶画面をみても1から9までの図柄が回転してる以外、何がなんだか分からない。揃えば大当たりなのは分かるが…。時折リーチが掛かるがまるで揃わない。その間俺は4人の英世さんに別れを告げていた。マズいな今月俺何気にピンチなんだよな…。


「はぁ〜。こりゃあ駄目かな。帆乃風と咲姫はどうか、な!?」


後ろを振り向いた俺は驚愕した。そこにはドル箱を早くも3箱積んでいる帆乃風。さらに俺が見てる前で7図柄を揃え、振り向いて俺にニッコリはにかむ。マジっすか〜帆乃風さん?!ちなみに隣の咲姫は全く当たらないのか、台に空手チョップを食らわせていた。とりあえず台に当たるのは止めような。


一時間後、俺は何とか当たりを引いてほぼ+-0。帆乃風は満足そうに万札を財布にしまいこんでいた。そりゃそうだ、俺の後ろでドル箱の要塞組んでたもんな。咲姫の結果は…想像にまかせます。


「くっやし〜!!なんなのあの台?!サイッテー!!バカにすんなっての!!」


「俺も全然駄目だったよ。」


「ご、ごめんなさい。私こんなつもりじゃ…。咲姫、コレ受け取って?」


帆乃風は申し訳なさそうに万札を咲姫に差し出した。


「えっ!?いいの?でも何だか悪いよ〜。」


「いいの。咲姫が誘ってくれて楽しかったから!」


「そっか!じゃあ遠慮なく♪」


遠慮しないのかよ、全くオマエは。咲姫は喜んで万札を受け取った。


「鋭士さんもコレ、どうぞ。」


帆乃風は俺にも差し出した。どんだけ儲ったんだよ?!


「いや、俺はいいよ。それはお前がとっとけよ。」


俺は断ってそれを帆乃風の手を押し戻した。


「じゃあ、この後は私が奢るわ!それでいい?」


「ああ、それで頼むわ!」


「ようし!それじゃあ次はゲーセンに行こう!アタシやりたい格ゲーがあるんだよね!」


咲姫は元気だよな。まあいいか。

それからゲーセンで咲姫が格ゲーに夢中になってる間、俺は少し離れたベンチに座ってそれをボンヤリ眺めていた。実は俺ゲームってあんまやらないんだよな。咲姫は乱入してくるプレイヤーを次々と返り討ちにしているようだった。さっきまでは。よく見ると様子がおかしい。ムキになってコインを突っ込んでいる。今度は咲姫自信が返り討ちに遭っているようだ。何やってんだか。


「オイオイ、あんまムキになんなって、たかが格ゲーだろ?」


「はぁ?!たかがとは何よ!?アンタはアタシの“ランちゃん”がコテンパンにされて黙って見てられんの!?」


「知るか!」


なんだよ“ランちゃん”って?咲姫はほっといて俺は帆乃風を探した。帆乃風は音ゲーの一角でビート○ニアをプレイしていた。こういうリズムゲームは得意なんだろうなと思って見ていたが、そうでもなさそうだ。ミスプレイの連発に焦っているようだった。


「こういうの好きなんだけど、ちょっと苦手で…。」


苦笑いする帆乃風。


「じゃあ俺もやってみようかな?」


そう言って俺がやろうとしたのはドラム○ニア。電子ドラムさながらの音ゲーだ。あっ、そういえば、いつになったらウチのバンドにドラマーが来るんだか…。


「鋭士さん、コレ出来るの?」


「いや、今日初めてやるけど。ま、余裕だろ、たかがゲームだし。」


とは言ったが、実際やってみるとこれは難しい!てか全然無理?!手と足がもつれてまるで有り得ない。俺はあっという間にゲームオーバーになってしまう。続いて帆乃風もやってみたが、俺より少しマシな程度でやはりゲームオーバー。ドラムって難しいんだな…。


「なっさけないな〜帆乃風!!アタシがやったげるっ!」


「えっ!?咲姫?」


そこにいきなり咲姫が来てコインを入れる。何故か機嫌がいいみたいだ。格ゲー勝ったのか?


「アタシは伊達にドラム触ってないのよ?」


いや、お前スティックしか触ったことないじゃん?!まさか、ひょっとしてコイツ本当にドラム出来るのか!?


「あ゛ーっ無理っ!」


なんだよそれ?帆乃風に大口たたいていたくせに俺よりも早いよ、ゲームオーバー。


「そもそも、アタシヴォーカルだし。」


そういうのを負け犬の遠吠えって言うんだぜ?咲姫に呆れた俺は食事を促す。


「さ、もういいからそろそろメシでも食いに行こーぜ?俺腹減ってきたよ。」


2人を連れて音ゲーのコーナーを後にしようとしたところ、


「ちょっと待って!」


帆乃風が俺と咲姫を引き止める。


「なしたの?」


「あの人、凄い。」


帆乃風の見ている先には、ドラム○ニアを目まぐるしいスティックさばきでプレイしている男がいた。コンボを見ると裕に700を超えて、さらに重ねている。その姿はゲームと言えど、本物のドラマーみたいだった。

その後男は次々と曲をクリアし、涼しい顔して立ち上がる。うおっ!?で、デカい!彼の身長は恐らく180cm以上あるに違いない。そしてそこで見ていた帆乃風と目が合ったようだった。


「あ、あの!」


あろうことか帆乃風はいきなりその男に話しかけにいった。


「はい?」


男は“俺?”みたいな顔をして自分を指差す。帆乃風は何をするつもりなんだ?


「あなた、ナオ君ね?」


「えっ!?あ、と、はいそうですけど…。あなたは?」


なっ!?ちょっと待て?知り合いか?でもその“ナオ君”は帆乃風のこと知らないみたいだぞ?何故名前知ってんの?まさか超能力者か?


「私は帆乃風っていうんだけどあなたのそのプレイ感動したわ。…ドラマーなの?」


「いや、僕はこのゲームが好きなだけで、ドラマーではないですよ。あ、でもやってみたいとは思いますよ。…でも何で僕の名前知ってるんですか?」


ナオ君は帆乃風にそう言うと、持っていた鞄からお茶を取り出して飲み始める。


「さっきランキング登録で“NAO”って入れてたから。そんなことより、本物のドラム叩いてみない?私達…」


「ちょっと、帆乃風!落ち着きなよ!?確かにアタシ達のバンドドラマーいないケド、こんな一般人誘うのはちょっと無理じゃない?」


帆乃風のやりとりを見兼ねて咲姫が慌てて遮るが、ナオ君はそんな咲姫を見て、


「あれっ?さっき“戦国スピリット”やってた人ですよね?何度も乱入してきて…。」


と言う。


「えっ!?アンタだったの!?アタシの相手って!てか、アンタ強すぎだわ。ま、最後は何とか勝てたけど。」


「ああ、あれはもう飽きたから手加減したんですよエヘヘ!」


なるほど、だから機嫌良かったんだ。でもナオ君よ…それは言っちゃあいけないよ。咲姫にそんな事を言っちゃあいけないよ。コイツの事だからキレちまうよ…。


「咲姫っ!!」


俺は恐らくキレてるであろう咲姫の肩を掴んで、抑える。しかし咲姫は何故か笑顔で言う。


「何?鋭士?アタシ別にキレてなんかないよ。…ただ、一発殴るだけ。」


「いや、人はそれをキレてると言う。」


言ってるそばから咲姫はナオ君に掴みかかろうとする。


「離して鋭士っ!よくもアタシのランちゃんをコテンパンにしてくれたわね〜!!飽きたから手加減したってぇ〜?!バカにすんなっ!!」


やっぱこうなるのかよ?!ナオ君は驚いて後ずさる。


「わぁ、スミマセン!ゴメンなさいっ!!」


「アンタっ!責任とりなさい!」


「責任ってどうすれば…?」


「あの、ちょっと、咲姫、待って!」


ああ、帆乃風が止めてくれたよ。俺が止めても利かないんだよ咲姫は。その間に俺はナオ君に咲姫の無礼を詫びようと近付く。が、しかし。


「罰として、私達のバンドでドラムを叩いてもらうわ!そうすればランちゃんの無念も晴れると思う。それでどう?」


しかし帆乃風は咲姫を止めるどころか、咲姫を利用して強引にナオ君にドラムを強要した。あの〜何言ってるんすか帆乃風さん?てか、ランちゃんが何か絶対知らんだろ!…俺も知らんが。あと、そんな会話でドヤ顔しないでくれ!

しかしナオ君は、


「わかりました、やりましょう!ランちゃんの気が済むまで!」


ええー!?良いんかい!!恐るべしゲーマー魂。


「はぁ〜…鋭士、もうナオ君でいい?ドラム。帆乃風には敵わないよ…。」


咲姫も反対するのを諦めているようだった。でもよく考えたら彼がドラムを叩いたことがない事以外は、反対する理由が見当たらない。誘い方はまるでムチャクチャだが。


「なあ、ナオ君、本当にいいのか?断るなら今のうちだぞ?」


「いいですよ!僕前からドラムやってみたいと思っていたし、バンドで出来るならなおさらです!その…、ランちゃんには本当にスミマセンでした。」


そうか、ヤル気は十分あるみたいだ。一からのドラムだが、それはそれで面白そうだな!ただ、いい加減ランちゃんから離れてくれ。確認しておくが、ウチのバンドにランちゃんは一切関係ありません、あしからず。


「分かった!俺はギターの鋭士だ。よろしく頼むわ!ナオ君。」


「アタシはヴォーカルの咲姫。よろしくね!」


「改めてベースの帆乃風よ!宜しくね、ナオ君!」


「はい!あと、ナオでいいですよ!」


というわけで、なんだか変な理由でナオがドラムを叩くことになった。どうなるか分からないけど、彼なら上手くやってくれそうな気がするよ。



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