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3章:孤独な低音が生まれ変わる瞬間 2

ある意味衝撃的なインパクトを俺達に植え付けた元ベーシスト、帆乃風との出会いから3日後。あれから郁斗は仕事が入ったと言って連絡つかないし、咲姫は学校に来ても目を合わせようとしない。結局何も進展していないのだ。俺はチャリ部の部屋で一人、プジョーの分解、整備にふけっていた。何とかしなくちゃいけないのは分かっているんだが、どうしていいか分からず、それがもどかしくて仕方がなかった。当然この3日間ギターには一度も触れていなかった。


「えいちゃん、なんだか元気ないよね?疲れているの?何か悩んでるの?」


舞だ。ロードマップを暇そうに眺めながら俺に聞いてきた。


「まーな。」


「恋?」


「違う!」


「分かった、お腹が空いてるんでしょ?今日オープンした公園前のパン屋さんでいっぱい買ってきたんだよね!食べる?」


「それも違う。…でも食う。」


なんだかな、舞といるとどうも調子が狂う。俺はチョコバナナパンを受け取るとおもむろに頬張る。チョコのほろ苦さとバナナの甘さが妙に舌にしみた。


「なあ舞。ちょっといいか?」


「ん?」


「俺達にとって力になってくれそうな奴がいて、なんとか仲間にしてやりたい。だがそいつは心を閉ざしてしまってる。そんな時お前ならどうする?」


「へ?何?なんのこと?」


俺は3日前の出来事を簡潔に舞に話した。


「そっかぁ〜そんなことがあったんだ。」


「それで一旦逃げてきちゃったんだけど、…俺としてはアイツをメンバーに加えたいんだよね。よく分かんねぇけど、あのままじゃいけない気がするんだ。俺はアイツとやりたいんだ。アイツと一緒にバンドやりたくてしょうがないんだ!もはや一目惚れって言ってもいいくらいだね。俺達にはアイツのベースが必要なんだ!!」


ハァハァ…。しまった、俺としたことが。つい熱くなってしまった。握り締めてしまった右手のチョコバナナパンが、オシャカになってしまっているのは言うまでもない。


「えいちゃん、落ち着きなよ〜。はい、コレ。」


舞はひしゃげたチョコバナナパンの代わりに同じパンを俺に手渡す。いや、そこはあえて取り替えなくてもいいよ、舞。しかも食べ掛けかよ…。


「でも今の想いを伝えて暖かく迎えてあげればきっと大丈夫だよ!」


「そんなもんかな〜。ま、とりあえずサンキューな舞!何とかしてみるわ!」


俺は外していたプジョーのサドルをつけて部室の扉を開いた。


「じゃあな舞!あんま食い過ぎんなよ!最近太り気味だぞ?」


「太ってないもん!もうっ、えいちゃんは!」


「冗談だ。」


「うん、じゃあ…頑張ってね!」


「ああ!」


そうして俺はチャリ部を後にした。とは言ったもののまずどうすっかなー?とりあえず、郁斗か咲姫に連絡取ってみるかな?

その時俺のケータイが鳴り出した。咲姫からのメールだった。開くと、


“17:00キャンパス屋上で一人で待つ”


何だ?…これからタイマンでも張るつもりか?まさかアイツ、俺のふがいなさに幻滅してブチのめすつもりじゃ?!…リアルでやりかねないから不安だ。

現刻16:48。とにかく時間がない。どうする鋭士!?使えそうな武器は全てチャリ部に置いてきてしまった。俺の今の所持品は、鞄の中の綺麗な教科書と筆記用具、手には舞からもらった食べ掛けのチョコバナナパン…武器になりそうなモノは何一つとない。考えろ鋭士!考えるんだ鋭士!もう時間がないんだっ!

…って何やってんだ俺!そしてなんだよこの○4ノリの寸劇は。自分で自分にツッコミ入れちまったよ!俺も変わったな…。

結局俺はそのまま屋上を目指していた。

そして17:00、キャンパス屋上。


「咲姫ー!!出て来ーい!いるのは分かってんだ!」


貯水タンクの陰から横向きで咲姫が出てきた。


「…鋭士、金は?」


「先に人質を見せろ!」


「金が先よ!」


「いや、人質が先だ!」


「人質の命がどうなってもいいって言うの?」


「待て!落ち着けっ咲姫!お前はそんなヤツを殺す価値があるのかっ!」


「…こんなヤツ殺してもアタシには一銭にもならないのよっ!!いいから金をよこしなさいっ!!」


「す、すまねぇ!金なんかないっ!持ってないっ!!」


「な、なんですってぇっ!?」


「31円しかないっ!!」


「バイトしなよっ!!」


「今探してんだよっ!!」


「てか何この寸劇は?!全然笑えないし!」


とうとう咲姫にまでツッ込まれてしまった。俺も落ちたな。


「こんな寸劇する為にアンタを呼び出したんじゃないし!」


「やっぱタイマン?」


「はぁ?!何の事?アンタ頭おかしくなったんじゃない?」


「いや、なんでもない。俺のことはいいから本題に入ってくれ。」


どうやらタイマンではなさそうだ。そうだろそうだろ、今日の俺はどうかしてるぜ。

咲姫はしぶしぶ切り出した。


「アイツのことなんだけど…。」


「帆乃風か?」


「…うん。」


咲姫は俺の手から強引にチョコバナナパンを奪うと、食べ掛けと知ってか知らずか平然と食べ始めた。オイオイ、それは舞の…。


「アタシもあれから考えてたんだ。あの時はイラッときてつい言っちゃったけど本当は、アタシは、アイツをメンバーに加えたいんだよね。よく分からないけど、あのままじゃいけない気がするんだよね。アタシはアイツとやりたいんだよね!アイツと一緒にバンドやりたくてしょうがないんだよね!もはや一目惚れって言ってもいいくらいかも。なんとなく気付いたの!アタシ達にはアイツのベースが必要だって!!」


あれ?どっかで聞いたよこのセリフ。って俺のセリフじゃん!?しかもチョコバナナパンをオシャカにしてるところまで一緒かよ?!


「超能力者?」


「ちょっと、真面目に聞いてんの!?」


「ああ、いや、悪い。…奇遇だな。ちょうど俺もそう思ってたんだよ!」


「そうだよね、やっぱそうだよね!」


「だけど奴は心を閉ざしているし。説得は至難の技だな。」


「そこは郁斗に相談してみようよ!」


「そうだな、そしたらまた3人で工場まで行って説得だな。」


「そうね。ま、大丈夫、あれくらいアタシの敵じゃない!」


「よく言うぜ、そうやってこじらせたクセに。頼むから今度はややこしくしないでくれよ。」


「ハイハイ、分かりました!」


本当に分かってんのかコイツは?そしてさりげなくひしゃげたチョコバナナパンを俺に返すのはやめろ!どうしろってんだよコレ?


いつの間にか日が暮れて辺りは闇に包まれようとしていた。


「さぁて帰るか。」


「うん!」


なんだか咲姫のおかげで少しスッキリ出来た気がするな。何となく今日は3日ぶりにギターに触れそうだ。恐らく。



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