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2章:光る鍵盤が音を紡ぐ瞬間 3

郁斗から曲を渡されて一週間が経った。練習の進み具合は順調で、俺のギターパートはほぼ完成しつつあった。ただ一ヶ所ソロを除いて。


「うーん、やっぱ一週間じゃムリだなこの速弾きは。ここは大人しく郁斗に任せるか。」


自室でギターを弾きながらソロを断念した俺。それでも結構練習したんだぜ?ただフィンガリングとピッキングがまるで合致しない。ま、あせらずじっくり練習すればそのうち弾けると思ったんだ。だからここはバッキングに徹することにした。


「そういや、咲姫の調子はどうかな?」


ふいに咲姫の方が気になって、経過をメールで聞いてみた。メールが返ってくると、


“アタシ天才”


との五文字。

よほど自分の歌に酔ってる姿が目に浮かぶ。とにかく順調なのは間違いなさそうだ。と、そこでいきなりメールを受信した。おっと郁斗だ。


“調子はどうかな?そろそろ合わせてみたいんだけど大丈夫かな?”



それからさらに二日後、俺達は郁斗の車でスタジオ“228倉庫”に来ていた。この日、音合わせすることになったのだ。


「あ〜待ちくたびれた。やっとセッションかぁ〜楽しみだなぁ〜!まあ、鋭士のギターが不協和音出すんじゃないかって心配だけど。」


「ぬかせ!そっちこそ音外して泣き付いてきても知らんからな。」


「なんですってぇ〜!!」


「あんだよ!」


「まあまあ、それぞれ頑張って練習したんだから大丈夫さ。仲良くね!」

スタジオに入るなりいがみ合う俺と咲姫をなだめる郁斗。いつも思うんだけど、なんで咲姫は俺につっかかってくるんだか?よくわからねぇ女だ。あらかた3人の準備が終わると郁斗は咲姫にドラムのスティックを渡した。


「何コレ?」


キョトンとする咲姫。


「これでカウントしてくれるかな?その方が合わせやすいんだ。」


「どうやるの?」


「4カウントで最後はハイハットを叩く。オープンで。それだけ。」


そう言って郁斗はやってみせた。


“カッ、カッ、カッ、チー”


「なぁるほど!」


咲姫が理解したところで俺達は始めることにした。


「じゃあ、いくよ!」


“カッ、カッ、カッ、チー”

咲姫のカウントに続いて俺のギターと郁斗のキーボードが交わった。そう、オープニングだ。攻撃的なギターサウンドに柔らかで広がりのあるシンセサウンド。一見ミスマッチだがお互いの特徴を引き出している見事なフレーズだ。程なくして咲姫が歌い出す。やはり口だけあって上手い。ちょっとムカつくが。しかし感心している場合じゃない。次々に難易度の高いギターリフが俺に牙をむく。かろうじてこなしたと思ったらあのギターソロの部分がやってきた。予定通りバッキングに移行する俺。その瞬間驚愕の光景が目の前に飛び込んで来た。


「うおっ?!」


思わず声が出てしまった。そこにはギターソロと同じフレーズをキーボードで再現する郁斗の姿があった。


「か、神業?!」


咲姫がそんなふうに言った気がした。

動揺してピッキングが止まりそうになったのを何とか持ちこたえて演奏を終えた俺。

郁斗は何事もなかったように涼しい顔してお茶を口に含んでる。


「郁斗、ビックリしたよ。アンタ凄いやるじゃない!」


「俺もビビったわ!何とかするとかいっていきなりだもんな。」


「ん、いやぁ〜それほどでも。それより二人ともよかったよ。よく一週間ちょっとでここまで出来たね。そっちの方がオレは凄いと思うよ!」


あくまで謙虚な郁斗。誰かさんとはえらい違いだな。

そして今回の音合わせで郁斗のプレイがハンパないってことがよく分かった。俺もギターソロ弾けるように頑張らなきゃな。


その後帰りの車にて郁斗が突然こんなことを切り出した。


「ところでエー坊、サッキー、いい知らせがあるんだけど聞いてみる?」


キラッ☆


ひ、光った、今目が光ったよ?!てか、なにそのもったいぶった言い回し?聞かずにいられないだろ!


「ナニ、ナニ?聞きたいな!!」


咲姫が興味津々に後部席から身を乗り出す。


「いい話ってどんな?」

俺も聞く。


「うん、オレの知り合いからさっき連絡がきて、いいベーシストがいるって話なんだ。」


おお〜!これはまたテンションが上がってきたぜ!さすが郁斗、知らないうちにメンバー募集もしててくれたのか。


「ま、マジっすか〜郁斗さん〜。どんな人っすかね?」


もう郁斗様々だな。


「アタシも気になるけど、どんなヤツだろうとアタシの敵じゃないわ!受けて立つ!!」


咲姫がそう言って胸を張る。

何故コイツはケンカ腰なんだ?つーかそいつは敵じゃねぇし!


「詳しくは分からないけど、以前やってたバンドが解散して今はフリーらしい。後、仕事が整備士で場所も聞いてある。だからそこ行って直接会ってみたらって話なんだ。」


「整備士って、車のか?」


「そうみたいだね。」


よく分かんないが、なんか凄そうなヤツだな。経験者だっていうし。


「いつ会いに行くんだ?」


「早速明日行ってみようと思うんだけど、来るかい?」


そうだな、早く会ってみたいし、気になるしな。善は急げって言うし。


「分かった、明日学校終わったら行ってみよう。咲姫も来るよな?」


「当然!」


「じゃあ決まりだね。明日学校で二人拾って、そこから整備工場に向かうってことで。」


「了解!」「了解!」


次はベーシストか!どんなヤツか楽しみだな!

しかしその人物がとんでもない人物だってことを、俺達は後に思い知らされる事になる。



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