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僕の魔法  作者: Gさん
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第八章

 十二月初旬。本格的な寒波と共に、きたるべき時がくる。


 王宮の最奥、国王執務室に急報がもたらされた。土埃に塗れた伝令兵が官吏達を押し退け、倒れ込む様に入室する。

「申し上げます。ユルグ軍が大挙侵入」

 王を見付けた兵士は姿勢を正し、唾を飲み込んで言葉を捻り出す。

「その数二十五万と見たり。南方の・・・・南方の防壁は一瞬で突破されました」

 王とキリムは戦慄する。少年は頭に血が上るのを覚えた。口の中に苦みが拡がる。そして、王の代わりに指示を飛ばす。

「城詰めの伝令を集合させよ。大至急!」

 少年は卓上に地図を拡げ、南方一帯を凝視した。どう考えてもこの国境を二十五万の大部隊で突破するのは馬鹿げている。

 キリムが伝令兵に聞く。

「敵侵攻の様子を聞きましたか?」

「はい。敵は防壁の存在を知っていたらしく、一斉に森を踏破、歩兵の大部隊で国境守備隊の後背を突いて防壁を掌握すると、人力のみで石壁を撤去させたそうです。その後貿易行路を通って数え切れない程の騎馬や戦馬車が侵入しました」

「突破されたのは何日前?」

「はい、十一月の二十七日、五日前であります」

 この伝令兵は八日掛かる行程を五日できてくれた。それだけ恐怖だったのだろう。

 王は兵を労い、下がらせた。

「まずは北方に展開している隊を呼び戻さねばなるまい」

 キリムは渋い顔で応える。

「はい。でもそれだけでは間に合いません。役割を変えます。ご許可頂けますか」

 国王は鷹揚に頷いた。


 第五師団所属の十名の伝令兵が飛び込んできた。上官たる少年が号令する。

「各自筆紙出せ」

 伝令は背嚢から手帳と木筆を取り出した。慌ててしまい、筆先を整える小刀で指を切った者もいる。

「以下全軍に宛てる。十一月二十七日、敵兵が南方国境より侵入せり。二十五万の兵を以ってなり。繰り返し伝える。敵侵攻は南方」

 伝令兵は懸命に筆を走らせている。

 まずは北方の荒れ野に位置している婆様の部隊に向けて発令する。

「以下第三及び第四師団に宛てる。持ち場を撤収し、王都経由で大河バルバーレを渡河。王都南岸を守備せよ。以上」

 四名の伝令兵が飛び出していった。次に比較的王都近くに布陣している王女の部隊。

「以下第二師団に宛てる。持ち場を撤収し、王都経由で大河バルバーレを渡河。南方の荒れ野まで移動し敵軍を遊撃せよ。敵位置は随時伝える。作戦行動は全て自由とす。以上」

 二名の伝令兵が後を追う。次に老将とキリムが参加している部隊。広く分散している。

「以下第五師団に宛てる。敵兵站線工作部隊の全て、及び他部隊の半数を撤収する。王都に戻れ。残る部隊は作戦を続行し、北方の監視、索敵及び伝令の任務を続けよ。以上」

 三名の伝令兵が走り出す。最期は一番近くにいるウティホの部隊。

「以下第一師団に宛てる。至急、王都経由で大河バルバーレを渡河。これから手配する騎馬と戦馬車を編入せよ。その後はアスマン火山に行った小隊を発見、合流する事を第一任務とする。その後は遊撃を任務とし、作戦一切を自由とする。また火薬が入手できれば、その使用を許可する。以上」

 最後の一人が駆け出した。

 少年は取り敢えず椅子に座り、王に向かう。

「国王、申し訳ありませんでした。僕の見立てが間違っていました」

 王は力強く応える。

「いや、この事態は誰であっても予測不可能であったろう。私はたった今、腹が据わった思いだ。君達と運命を共にするよ」

 王の目付きが変わった。少年は国王がどう決意したのかを考えている。

 彼は貴族達や高級軍人の一切を軍指令部から追い出した。彼らが全く役に立たない無能者揃いだったとしても、若い王らしい賞賛すべき英断だった。更には常識の壁を越えてまでも最善と思える指揮官を配置し、任務に就けている。十二歳の作戦士官たる自分がその最右翼だ。そして今、その努力を以てしても予想を上回る難局に直面している。負けるかも知れない。一方、この戦争に荷担していない貴族は多い。特に大貴族の連中は皆領地に引き籠もっている。この戦が敗戦に終わったとしても、彼らは助命されるのではないか。それならば国王一族がことごとく絶えても、バルバーレの伝統は残せるだろう。アスマンの様に雲散霧消とはならずに済む。そう考えているのではなかろうか。

 キリムは王の顔をもう一度見た。王は頷く。

「若きアスマンの王よ。御事は確かに敵の行動を見誤ったが、その謝罪の前にまず行動した。これを是としたい。それに大切な同居人を三人とも戦地に出しているではないか。私は感謝しているのだよ。この戦いに成功しようが失敗しようが、それは変わらないのだという事を憶えておいて欲しい」

 この王は執政者として成長している。快活故に尊大なところがあり、この様な考えを持てる人ではなかった。各師団の兵士達も育っている。勝機はまだある。少年はそう考えていた。


 キリムは状況の把握に全力を注いだ。兵力の一割を割いて伝令網を築いていたのが功を奏して、時間差はあっても続々と情報が入ってくる。伝令は特殊な任務だ。達成感が少なく地味な仕事であり、それでいて目が回る程忙しい。彼らは良くやっている。

 敵軍は大部隊なので進行速度が遅い。ただ、一度も反撃を受けていないので全く疲弊していないだろう。

 速度に関して目を見張るのは王女の第二師団である。ウティホの第一師団に追い付いて一旦合流し、先行して行った。神速を旨としたいと公言していただけはある。

 第一師団の進出が遅い理由は分かる。王都南岸を守るべき第三、第四師団が到着していないので王都から離れたくないのだ。ウティホ自身は一日も早くノンモと再会したい気持ちを抑え込んで、命令に反する悪役を演じている。

 南方方面軍の残存兵は、兵営所のあった『海辺の街』を離れ、王都に向かっている。もうあの街は敵に接収されただろう。住民達はどうしているのだろうか。


 一月。新年を迎えたが、それを祝う者はいない。

 砂嵐と寒波が双方の兵士達を苦しめている。計算では、敵軍は王都までの行程の半分を消化した頃だ。呑気な話ではあるが、今頃になってようやく敵軍から宣戦布告の書状が届けられた。

 キリムが読み上げる。

『バルバーレ国国王に告ぐ。我らはユルグ教国新法皇の名を以て、ここに宣戦を布告するものなり。貴国の早期降伏を期待するが、そうならざれば正々堂々と雌雄を決し、大陸の覇者を定めん。貴軍の善戦を祈願す』

「だそうですよ、婆様」

 お婆は彼女が率いる二個師団と共に帰都している。

「これは傑作じゃな。戦端を開くには大義名分が必要だとばかり思っておったが、最近の流行りでは要らぬらしい。どうやら時代に乗り遅れたか」

 王が応じる。

「理由を付けられなくはなかったのだろうが、面倒になったのであろうな。その気持ちは分からぬでもない」

「返事、する?」

 王に対する問いに、婆様が答える。

「婆が返事を書こう。そのくらいの時間はあるじゃろう」

 彼女はにやりとし、書記を呼んで代筆させた。

『ユルグ軍司令官に告ぐ。早く王都まで来たれかし。我らが秘術を以て迎えんとす。バルバーレの魔女とアスマンの魔女の息子が貴軍を歓待するものなり』

「はったりが通じるか?」と王。

「さて、どちらでも構わぬ。通じなくとも損はない」

 王は笑って、その書簡に署名した。


 ユルグ軍の全軍司令官はユルグ教の司教の一人で、部下からはその頭髪と小男振りから『禿げ鼠』と呼ばれている。

 バルバーレ軍は永らく戦争をしなかった為に惰弱になったが、ユルグ軍は四年前のアスマン戦争の痛手を引き摺る形で弱体化していた。その最も顕著な例が司令官の不在である。優秀な武官がおらず、専門外の司教が作戦指揮を執る羽目に陥っている。

 全軍の司令官が宗教家なら、各隊の現場指揮官は平民である。志願兵の中から忠誠心の高い者を抽出し、短時間で指揮者としての教育を施したのだ。しかし、その一事を以て脆弱とは言い切れない。

 兵士を職業とする者と、志願兵や徴兵された者には違いがある。勿論、兵士としての知識や技能、体力も違うだろうが、決定的な差異は心構えである。

 人の活動には必ず目的がある。そして目的を果たす為に手段があるのであり、けして逆ではない。

 ユルグ軍の侵攻には大陸を掌握するという目的があって、その為に二十五万の大部隊で一気に敵王都を攻め落とす作戦を採用している。しかし、司令官たる『禿げ鼠』以外はそう思っていない。個人的な手柄を上げて報償される事、つまり異教徒を殺す事自体が兵士達の目的であり、それが何の為だろうが、どんな方法を以てしてだろうが構わないのだ。

 南方国境地帯での戦闘もそうであった。防壁さえ撤去できれば良かったのだが、敗走するバルバーレの兵士をどこまでも追って行き、再集合させるのに時間が掛かってしまった。これが職業兵士の集団たるバルバーレ軍との違いである。彼らは一兵卒に至るまで目的意識を持っている。だから無用な争いは避けるだろうし、殺す事に拘りはしない。

 作戦運動ではバルバーレが勝り、凶暴性ではユルグが勝っているのだ。

 禿げ鼠はその事を充分承知していた。そして、それで良いと考えている。

 十個師団二十五万もの兵力があれば、二方面、三方面に展開して敵を包囲殲滅するのが妥当な戦術である。大部隊が固まっていても戦闘行為ができるのは先頭部だけとなって、結局少数で争う事になるからだ。だが、ユルグ軍には複雑な作戦が採れない。司令官自身が直接指揮をする一集団しか制御できないのだ。その一方、固まって動く利点もある。敵に威圧感を誇示できるし、多少の消耗があっても無視できる。これ程にまで数的に有利ならば、ただ前進して邪魔なものを蹴散らすという単純明快な作戦で充分なのだ。


 ユルグ軍の夜営。一般の兵士達は数少ない焚き火を囲み、外套に身をくるんで眠っている。ひもじさや寒さに耐えながらである。隊の指揮官達は馬車で眠る。これとて雨風が凌げるのみであり、寒さや空腹に変わりはない。

 他方、司令部は豪奢な天幕の中にある。暖房器具が赤々と燃え、酒樽が山と積まれている。司令官は宗教家であり、女こそ引き連れてはいないが、代わりに奥小姓がその役を任じられている。

 その小姓が天幕を訪れ、司令官の前で恭しく跪く。

「司教様、敵が返事を寄越しました」

「読め」

「はい。『~バルバーレの魔女とアスマンの魔女の息子が貴軍を歓待する』とあります」

 禿げ鼠は暫く考えていた。そして小姓の少年に聞いてみる。

「この書簡の内容を知って、お前はどう思ったのだ?」

「はい。こんな話は嘘に違いありません。魔女だの術士だの、敵の強がりです」

「怖いか?」

「怖くはありません。私どもは閣下の法力で守られていますから」

 強がっているのは少年の方であろう。怯えたその目が物語っている。

 他言無用と言い含めて、小姓を下がらせた。

 彼は気掛かりであった。自分に法力なぞない事は自分自身がよく知っている。そして兵士達は臆病者の集まりに過ぎない。今は国境戦の勝利で昂揚していても、一旦平静を取り戻せば戻ればただの農民、職人に成り下がってしまうだろう。

 天幕の隅にある木箱に目を遣る。厳重に封をした白木の箱。その中には護摩と呼ばれる秘薬が入っている。

 今回の戦、彼我の兵力差は充分以上に大きい筈。必要ないと思っていたが、やはりこれを使うべきなのかも知れない。四年前の様に。そう考えていた。


 飼い犬は飼い主に似るとか。それは一種の錯覚で、飼い主の一方的な願望に過ぎない。しかし、隊の兵士達が指揮官に似るのは事実らしい。ウティホの隊は下級兵士に至るまで生真面目で融通が利かない。お婆の隊は飄々として無頼、老将に指揮されている隊は地味な職人の集まりだ。

 そして王女マウ・リサが率いる第二師団は果敢である。


 南方の荒れ地。先頭をゆく芦毛の牝馬が丘の上に立ち、翻る。

 後に続く二万余の兵士。そこには見知った顔が並んでいる。幼い頃から親しくしている近衛兵達。将官も、そして下級兵士達も、遠くを見る様な表情で王女を見詰めている。恐れるでも興奮するでもない。達観した、自らの役目に殉ずる顔だ。

 第二師団の役目、それは効率よく敵を消耗させる事にある。勝つ事でも生き残る事でもない。ただ一人で二人以上の敵兵を屠ればいい。

 先行させた索敵隊から敵発見の報がもたらされた。王都の司令部からは敵の進行速度に関する情報を得ている。今日の夜営地を予測し、敵の寝込みを襲う。名誉な事ではない。味方からも後指を指されかねない。でもそんな事は関係ないのだ。国に明日があれば、兵士達にとっては家族に明日があれば、それで良い。

 マウ・リサは戦場を決定した。


 ユルグ軍は今日も反攻を受けず、悠々として王都との間合いを詰めた。二十五万余の大部隊は前進を止め、貿易行路と周辺の平地一面に拡がり、夜営の準備を始めている。

 司令官たる禿げ鼠は各隊の将官を集合させた。二十名の師団長、副師団長が司令部の天幕に集う。まず宗教儀式が執り行われ、簡素な食事の後、軍議が開かれる。

 禿げ鼠が一段高い場所に立ち、甲高い声で叱咤する。

「信仰深き我が将達よ。これまで我が軍は順調に進軍しておる。これは誰のお陰か?」

 将官の誰かが叫ぶ。

「神々のお陰です」

「そうだ。我々にあって敵にないもの。それは何か?」

「有り難き教えです!」

 全員の声が揃った。司令官は満足げな表情を見せる。

「そうだ。神々の加護がある限り、我々は負けない。そして敵をどうするのだ?」

「八つ裂きにしてやる」

「鏖だ!」

 将官達は興奮している。野蛮な怒号が収まるのを待って、一同に指示を出す。

「よろしい。ではこの地図を見よ。荒れ野の進軍は今日で終わる。明日からは砂嵐のない丘陵地帯へと入るのだ。人の住む街も多く存在しておる。その街々を焼き払い、兵糧を奪う事も忘れてはならぬぞ」

 一同は「おお」と歓声を挙げた。ようやく自らの凶暴性を発揮できるのだ。女を味わう事もできるであろう。期待と妄想が募る。

 皆を鎮め、指示を続ける。

「荒れ地と丘陵地帯との間には峡谷がある。細く長い谷の底を踏破せねばならぬのだ。その出口で敵が待ち受けている可能性が高い。けして油断するな。そこを越えれば肉や女を幾らでも喰えるのだからな」

 一同は快哉を叫び、短い軍議は解散となった。禿げ鼠は小姓達に後片付けをさせ、天幕の布壁を開けさせた。連中の臭い息が籠もって耐えられなかったのだ。

 天幕の中に一月の浜風が吹き込み、暖気がすっかり逃げてしまった。それでも獣臭さが残っている。強めの酒を運ばせ、それを一気に飲み干した。酒は喉を焼き、目眩を引き起こす程酒精の濃いものであった。そして夜空一面に拡がる火線を目にする。海のある東から幾筋もの火が飛んでいるのだ。最初は酒の所為かとも思ったが、司令部近くに飛来し荷馬車が燃え上がるのを見て、それが火矢だと気が付いた。

 東の方向から鬨をつくる声が聞こえる。敵の襲来だ。慌てて伝令を集め、指示を出す。

「東から敵が責めてくるぞ。応戦するのだ。歩兵で野営地を守らせろ」

 伝令兵は四方に散った。


 マウ・リサは騎馬一万三千で野営地の西に陣取っている。丘の上に一列の横隊を作って。

 残る歩兵達は敵の東側に位置させた。彼らの役目は揺動である。全員が弓兵となり、火矢を三射させ、派手に怒号を挙げさせた後、退避させる。敵の騎馬隊が素早く動けば全滅してしまうかも知れない。危険な役目である。

 漆黒の闇が赤い線で彩られた。野営地のあちこちで火の手が上がっている。遠くから風に乗って、味方の鬨の声が微かに聞こえる。

 王女は剣を振り下ろし、全軍突撃を命じた。こちらは皆無言である。声で自らの士気を鼓舞する必要はない。それは既に胸の奥から沸々と湧き上がっている。

 一万三千が作った黒い線が一斉に前進する。やがて丘を駆け降りて加速し、疾走する地響きとなった。


 禿げ鼠は馬車の御者台に立ち上がり、戦況を確かめている。

 東方の火矢は止み。あれから襲ってくる気配がない。単なる脅しだったのかも知れない。歩兵を東に布陣させたが、無駄に終わるだろう。天幕に戻る事にした。ここは余りに寒い。

 突如、あらぬ方向から悲鳴と怒号が起こった。西である。暫くして馬群が足音を響かせて接近してくるのが分かった。敵の伏兵だ。

 禿げ鼠は『しまった』と声に出さずに叫んだ。そして動かさずにいた司令部直属の近衛隊を天幕の守りに付けさせた。こうなってしまえば作戦も何もない。司令部だけは守り通し、他は各々が自らを助けるしかないのだ。


 王女マウ・リサは敵陣に躍り込んだ。先頭を切って、血を欲しがる魔物と化して。

 それから幾人の敵を刻んだだろう。剣は血と脂肪で鈍になり、切るというより殴打する武器となっている。配下の兵士達も頑張っている。鑓が折れるまで、いや折れてただの棒になってもそれで突き刺そうとしている。中には変わった者もいて、敵兵を相手とせず、荷駄に火を付けて回る兵もいる。

 東側に布陣していた敵歩兵部隊が慌て戻ってこようとしている。この大軍を相手にはできない。王女は頃合いとばかりに指笛を吹き、北へと進路を変えた。そして愛馬の腹を蹴り、常足から襲歩へと速度を上げた。

 前方に大きな天幕が現れた。その周りを重歩兵が守っている。甲冑に身を包み、三又の鑓を備える敵近衛兵隊である。王女の芦毛はひょうと飛翔し、その壁を越えた。そしてそのまま止まらず、天幕に飛び込みその中を掻き回した。小さな人を踏みつけたと思うが、定かではない。やがて天幕を飛び出し、再度、衛兵の壁を越えて北へと逃走した。


 天幕に一人、憤然たる司令官が座している。この男にとって、将兵から『禿げ鼠』と揶揄されようが、その部下どもが馬鹿揃いであろうが頓着する事柄ではなかった。彼は常に上役の方を向いている人種であり、目上がどう思うか、その一事のみが大切なのである。

 若かった頃からその姿勢を貫いてきた。そして司教にまで出世し、上役と言えば国主たる法皇しか存在していない。この戦に勝利せしめれば唯一の大司教になれるかも知れない。けして逃す事のできない好機なのだ。

 敵騎馬兵の数は一万から一万五千だという。そんな少数の敵が我々を嬲っているのだ。味方の何と惰弱な事か。そして、この有様を法皇にどう報告すれば良いというのか。

 そう悩んでいる内に新たな不安が接近してきた。

 馬蹄の響きが迫る。守りに付けた近衛兵が騒がしくしている様だ。表に出て確認しようとした瞬間、一頭の芦毛が天幕に入ってきた。身体が強ばって身動きができない。馬は天幕の中をぐるぐると回り出す。呆然とその姿を見ているしかない。

「ひぃっ」

 思わず悲鳴を上げる。馬の前足で股間を蹴り上げられてしまったのだ。その後、それはあっさりと出て行った。天幕内は調度品が壊され、布壁を裂かれ、見るも無惨な様相と成り果てている。禿げ鼠は伝令を呼び寄せ、こう命じた。

「全ての騎兵を使って彼奴(きゃつ)らを屠れ。騎馬隊長にこう伝えよ。敵全員の(しるし)を取るまでけして戻るなとな」


 疾駆する芦毛馬。マウ・リサの手に武器はない。しかも、この先は一本道の峡谷である。谷の底では左右に逃げる事も適わない。追走しているであろう敵騎馬隊を振り切ってしまわねば、簡単に捕縛されるか、その場で惨殺されてしまうだろう。

 峡谷の入り口に差し掛かった。長い登り坂の上で停止し、愛馬を反転させる。味方の兵士達が軍馬を狂奔させている。一万三千の我が騎兵達。その半数はもういない。予想はしていたが、悔しさに唇を噛み締めた。その後方から敵騎馬隊らしき一団が追い縋る。

 前進するしかない。王女はもう一度、愛馬に鞭を入れた。

 逃避行の最中、マウ・リサはある事を思い出していた。ジョクーとノンモの小隊はどうしているのだろうか。考えられない事だが、既に害されてしまったのではないか。


 ジョクーには独自の嗅覚がある。理屈ではない。物を運ぶ事だけを任じられている自分達が、甲冑姿で戦馬車に乗っているのが不自然だと感じたのである。その感覚が自らを助けた。アスマン火山への道中でその事に気付き、海辺の街で、衣装をそっくり商人のそれと替えたのだ。兵士達は慣れぬ風采に戸惑っていたが、大いに喜んだ者もいる。

「ああ、これで楽になったよ。どうもこの被り物は苦手でね」

 髪を結い上げて、頭の上で団子に纏めているノンモがそう呟いた。彼女が兜を被ると、極端に長い頭をしている様で滑稽だったのだ。

 小隊は隊商(キャラバン)に変装し、アスマン火山までの旅程を無事に踏破した。

 その帰路、春にウティホ達と出逢った三叉路で、驚愕すべき事態に遭遇した。

 ジョクーがノンモに耳打ちする。

「ありゃ何だ?」

「ユルグの大部隊に見えるわね」

「どうして南の国境にいるんだ? 裏を掻かれたのか」

「そうなるね」

「バルバーレ軍はどうなる?」

「どうもこうも、大変だろうね」

「まずい事になったもんだ。どうやら戦は負けか」

「そりゃ分からないさ。あたしらの働き如何じゃないかね」

 ジョクーはウティホが妻を頼りにしている訳が分かった。こんな状況でも動じる素振りを微塵も見せないとは、何と胆の据わった人物であろうか。きっと、面の皮は疣猪の如く分厚く、心臓にはびっしりと針金が生えているのだろう。ある意味においては無敵だ。

「俺達の働きと言っても、どう働けば良いんだ?」

「まずはバルバーレに入らなきゃね」

「こんなに敵がいるのにか。どうやって?」

「そりゃお前さんの仕事だろう。考えるんだね。死にたくなけりゃ」

 そうだった。この人は誰よりも強いが働かない人であった。


 自生している刈安の葉で前歯を黄色く染め、炭で口と目の周りを黒く書いた。ジョクー扮する間抜けのでき上がりである。そして悠々とユルグ軍に近づいて行った。

 そんな小者には目も呉れず、隊は前進を続けている。その様を見送っていると、騎馬兵団の隊長らしき人物に声を掛けられた。

「貴様、ここで何をしておる」

「へい。あっしらは運送屋なんす。アスマン火山から石炭を採って参りまして、そんでバルバーレへ帰ろうとここまできやしたが、大勢さんが通ってらして、どうしたもんか、いつになったら通して頂けるのかと思案しているところでございます。はい」

「バルバーレの何処まで荷を運ぶのだ?」

「名前を申し上げてもご存じとは思えませんが、丘陵地帯の端、マンジャロウ山脈の麓にある小さな村でございます」

「石炭は燃料にでもするのか?」

「へい。それにですね、年に一度の祭りがありやして、この様に炭で顔に模様を作って誰が一番男前なのかを競うのです」

「お前は男前なのか?」

「へへっ。あっしはこれでも村一番の美男子でして」

 ユルグ軍の騎兵は、その不思議な風習を聞いて興味が出てきた。

「このご時世に呑気な話だ。貴様ら下郎が羨ましい」

「へぇ。皆さんも戦事に飽きなさったら村へお越し下さい」

 男が黄色い歯を見せて笑うものだから、顰めっ面をしていた隊長まで笑ってしまった。

「そうか。でも今はここを通す訳にはいかんな」

「参ったな。アスマン火山で綺麗な赤玉(ルビー)を見付けたもんで、これをかあちゃんに渡してやりたいんですがねぇ」

「ほう、赤玉(ルビー)か。貴様らは宝石を身に付けぬと聞いていたが、それをどうするのだ」

「へい。女は祭りで鼻の穴の大きさを競うのです。その時にこいつを詰めて大きく見せる訳でして」

「何と、赤玉(ルビー)を鼻に詰めてしまうのか。物の価値を知らぬ蛮族とはいえ、凄まじき無知振りだな」

「はあ、そう仰られても、あっしらはそうやって暮らしていますんで」

「でも、どうして鼻の穴を大きくせねばならぬのだ?」

「へい。村は高い場所にありやして、鼻の穴が小さいと息が詰まるんです。そんで、鼻の穴が大きな事が美人の条件でして」

「そうか、そんなものなのかも知れぬな。ところでその赤玉(ルビー)を見せてはくれぬか」

 ジョクーは腰の皮袋を開いてみせた。磨かれてはいないが、透明感のある濃い赤がちらりと見える。騎兵の顔付きが変わった。

「お主、ものは相談だが、この石を幾つか寄越さぬか。そうすれば俺が国境の向こうまで無事に送ってやる」

「それじゃあ、あっしらの荷馬車を通して頂けるんで?」

「保証しよう」

 商談が成立した。騎兵は皮袋の中から赤い原石を取り出し、懸命に吟味している。その中から色の濃いものを幾つか懐に入れて、ほくほく顔で一行を送ってくれた。別れ際、ジョクーのみならずノンモ以下の全員が同じ化粧をして、にっと笑って見送った。

 ノンモが讃える。

「お前さんは嘘が上手いねぇ」

「我ながらよく気が回ったと感心するよ。赤玉(ルビー)を採っておいて正解だったな」

 火山で硫黄を採取していて、目聡くも赤玉(ルビー)の原石が転がってるのを見付けたのだ。そしてそれを集めておいた。嘗ての旅でこの石の威力を実感したのが良かった。

「それにしても・・・・見て御覧よ。あの様を」

「ああ、酷いものだ」

 一面に累々と転がるバルバーレ兵の遺骸。防壁のあった辺りだ。皆、自らの士気を再確認した。


 貿易行路は敵で溢れている。このままでは数日で海辺の街は飲み込まれてしまうだろう。悔しいが、何もできない。小隊は行路を避け、急ぎ北上する。山沿いに道なき道を進み、荒れ地と丘陵地帯の境、峡谷の山の上に陣取った。

 ノンモが下の様子を伺っている。

「惜しいねえ。全く惜しい」

 ジョクーが尋ねる。

「何が?」

「いやね、下を見て御覧よ。谷底に貿易行路があるだろう?」

「曲がりくねっているな」

「そうじゃなくってね、ここの行路は幅が狭い。塞いでしまえば、敵とて自由に行動できないじゃないか。そして上から岩を落とすのさ」

「そりゃ良い作戦だ。でも付け加えるなら、そう考えるだけじゃなくて実践してみりゃいいんじゃないか?」

「でもこれだけの人数じゃあねえ」

「俺達には秘密兵器がある」

「あれかい。何だかおっかなくてね」

「贅沢を言ってはいけませんぜ」

 ノンモ隊長をなだめて、一行は穴を掘り出した。火薬の詰まった俵が収まるだけの大きさで、極力深い穴を穿つ。それを横一線に設えた。

 折角作った火薬の殆どを使用してしまう事になるが、成功すれば岩どころか山の一角が谷底に落ちるだろう。貿易行路を埋めてしまうに充分な土砂の量である。

 そして、頃合いを待つ事にした。通せんぼをするだけでは益が少ない。敵を下敷きにするか、分断して初めて効果がある作戦なのだ。


 夜。月齢が若く漆黒の闇である。そして遠く南方にぽつぽつと灯りが見える。監視を続けていた兵士がそれを見付け、全員を起こした。

 隊長たるノンモは兵士に意外な言葉を掛ける。

「人様が寝入るかどうかの頃合いで起こすなんて、お前は育ちが悪いに違いないね」

 困っている兵士にジョクーが助け船を出す。

「まあまあ、よくやった。君の判断は何も間違っちゃいないよ。間違っているのはこの太った小母さんだから気にしない様に」

「何だって?」

「いえ、何ならもう一度お眠りになりますか?」

「そうかい。そうさせて貰おうかね」

 そう言うと、すかさず眠ってしまった。

 ジョクーは哲学的な発見をした。神様が本当にいれば、多分こんな感じなのかも知れない。万事を超越し、ただそこにいるだけの存在。

 ジョクーは元山賊を気取るだけあって、夜目、遠目が利くし、耳も良い。風に乗って人の叫喚と鯨波が聞こえる。馬の駆ける音も。

 地中に仕込んだ火薬俵は全部で三十九。少量の火薬を編み込んだ導火線の長さを揃え、更に束ねて一本にしてある。見付からない様に小さく種火を作り、点火の準備をさせた。

 やがて馬蹄の響きが近づいてくる。此奴らを下敷きにしてやれば良いのだ。点火合図の手を高く挙げた。

 ふと気付く。

「待て待て!」

 点火係の兵士が慌てて種火を遠ざける。

「敵じゃない。あれは王女じゃないのか」

 全員で目を凝らす。しかし、そこまで確認できるのはジョクーだけだ。

「ほら、あの芦毛は間違いない。それに続く騎兵は我が軍のものだろう。胸当てを見れば分かる」

 バルバーレの騎馬兵は銅製の胸当てをしている。一方ユルグは革製だ。輝きが違う。

 金に輝く一団が通り過ぎ、その後を黒い大部隊が迫りつつある。今度は間違いなくユルグ騎兵だ。ジョクーは掲げた手を振り下ろした。

「点火!」

 号令と同時に兵士が種火を導火線に宛がう。

 火花を散らしながら燃え進む。全員がノンモの眠る馬車の後ろに隠れ、耳を塞いだ。やがて火花が見えなくなり、ぶすぶすと煙が上がるのみになってしまった。

「おや?」

 ジョクーは心配になって身を乗り出した。

 その時。

 三十九の火薬俵が一斉に火を噴いた。轟音が全身を揺らし、鼓膜を劈き、土砂が舞い上がる。暫く経っても土煙りが収まらない。耳鳴りも止んでくれない。

「げほげほ、皆大丈夫か!」

 ジョクーは土塗れの顔でそう叫んだ。ノンモが馬車からぬっと顔を出す。

「言っただろう。人様の寝入りを邪魔するなと」

 可哀想な事に、彼女も頭から土を被っている。

「すんません」

 ジョクーは取り敢えず謝った。それ以外に何ができようか。

 土煙はまだ収まらない。それでも下を覗いてみる。さっきまで山の一部だったものが見事に落盤している。ちょうど馬車の際まで。貿易行路は土砂の下に隠れてしまった。

 急いで移動の準備に取り掛かる。

 王女はどうなっているだろうか。間違って生き埋めになっていなければ良いのだが。


 ウティホの第一師団は婆様の第三、四師団の到着を待って王都を離れた。

 ウティホは内心焦っていた。ノンモ達は無事だろうか。それでも師団の移動速度は変えない。整然と、規律正しく行進させる。それしかできないのだ。

 丘陵地帯の行路沿いには民家が建ち並んでいる。手分けして一軒一軒を訪問し、立ち退きを命じた。民はそれに応じて行路から遠い田舎か、王都へと移って行った。説得する兵士達の真剣な様子に抗えなかったのだ。


 一団は丘陵地帯の終わり、峡谷の手前に陣取った。

 遊軍として敵の後背や横合いから攻めろと命じられたが、ウティホの隊には無理な話である。敵を待ち受け、正面から受け止め、耐える。それしか学んでいないのだ。せめて戦場予定地の整地はやっておきたいところだが、それすらできない。フォークとナイフ以外は持った事のない深窓の佳人という言葉は聞いた事があるが、剣しか持てず鋤や鍬で土いじりができない兵士なぞ笑い話にもならない。近衛兵は汚れ仕事なぞしないという信念に凝り固まっているのだ。

 ウティホはそんな状況で戦闘しなくてはならない。知恵を絞って編成を整える。

 まずは先頭に大楯を並ばせる。これを弓矢避けにして、こちらの弓隊を横一列で配置する。その後ろには鑓隊、そして最後方は剣を携える本隊を置く。彼らに言わせれば剣で戦うのが近衛の本懐なのだそうだ。本来なら彼らにも鑓を持たせたい。剣では騎馬に立ち向かえないからだ。


 ウティホは各隊に自分の位置を憶えさせ、解散させた。

 夜が近い。見張りを残し、夜営の準備を始める。行路とその周辺の草地に天幕が設置された。戦いは明日の夜であろう。第五師団索敵部隊からの情報によると、敵は峡谷の向こう側で夜営をしているらしい。ならば、敵は日中一日掛けて谷底の行路を踏破し、相見えるのは明日の夜になる計算だ。

 兵士達の食事に肉を付け、飲酒も許可した。今夜ぐらいは大きくなった腹を抱えて眠らせてやりたい。明日にはもう食事をせずともよい身体になっているかも知れぬのだから。

 就寝時間を知らせるラッパが悲しげな音をさせている。ウティホは横になったが、眠れそうもない。天幕の外では兵士達がまだ騒いでいる。いつもなら叱り付けるところだが、止めておいた。彼らとて眠れないのだろう。酒が入っても酔えない夜は確かにある。


 明け方、静寂を突然の轟音が引き裂いた。峡谷を抜けて、余韻が殷々と響き渡る。

 見張り役が指揮官の天幕に滑り込んだ。

「峡谷に異常発生。遠くで煙が上がっています」

 ウティホはがばりと起き上がった。

「総員起しじゃ」

 そう叫ぶや否や天幕の外に出て、見張り台まで駆け上がった。起床ラッパが喧騒を立てる。遠くには朦々と立ち登る煙が見える。そして、その中から騎馬が姿を現した。

「全員配置に付け。急げ」

 兵士達は身支度もそこそこに隊列を組み、皆して一点を凝視した。

 煙の雲に追われる様に、騎馬の一団がこちらへと突進してくる。煙の意味は分からないが、騎兵の数は数千もあろう。こちらを混乱させるには充分な数だ。

 ウティホは指揮杖を掲げた。

「弓用意。まだ撃つな。練習通り引き付けてから撃つのじゃ」

 騎馬は前進を止めない。射程距離に近づく。

「弓引けい」

 その声を聞いて弓兵がぎりぎりと弓を絞った。ウティホは頃合いを見計らっている。指揮杖を振り下ろせば数千の矢が騎馬を襲う筈だ。

 奇妙な事だが、こんな時に昔の事を思い出していた。王女と出逢った時の事だ。彼女はユルグ騎兵に追われていて、我らの野営地に突進してきた。今にして思えば風変わりな再会であった。今回も先頭は芦毛の馬だ。足先だけが灰色をした白馬。王女の馬に似ている。鞍上は長い黒髪の小兵。女だろうか?

「弓戻せ! 撃つな。王女じゃ!」

 何本かの矢が飛んでしまった。王女の馬は右に左にと矢を避ける。

 矢避けの大楯を撤去して王女達を迎え入れた。馬蹄を鳴らして数千の騎馬が雪崩れ込む。

 血と汗の臭いと共に。

 彼らは疲労の極みにある。騎兵達は馬から下りるや倒れ込んでしまった。馬とて同じだ。三本足でようやく立っているもの、敷き藁もないのに寝転がるものもいる。

「何とした事じゃ」

 ウティホは駭然たる思いでその姿を見ていた。あの揚々とした王女の隊ではない。返り血と己の血に塗れ、ろくな武器も持たず、人も馬も死んだ様な目をしている。

 王女の元へと駆け寄った。彼女も馬から降りて座り込んでいる。

「王女! お身体は・・・・」

「私は大丈夫です。どうか、私の兵士達を手当してやって・・・・」

「それはやらせておりますじゃ。お疲れだとは思うが、状況を説明して下さらぬか」

「分からないのです。昨晩、夜襲を行い、その後ここまで逃げて参りました。途中、峡谷の行路で山崩れがあって、追っ手と分断されたのが幸いでした。そうでなければ・・・・」

 第二師団の副長が王女に歩み寄る。

「殿下・・・・」

「報告を」

「はっ、ここまで辿り着けた将兵は約七千、将官一名の他、佐官十二名と六千の騎兵を失いました」

「別働隊の歩兵達は・・・・不明でしょうね」

「はい。手筈通りに逃げ切ってくれている事を祈るばかりです」

「これで我が師団も将官は私と貴方だけ・・・・いや、七千ではもう旅団並ね」

「今回の作戦、殿下は後悔なさっていますか」

「後悔すべきかどうかはまだ分からない。我々が失った将兵は一万三千、その倍以上の敵を仕留めていれば良し、そうでなければ・・・・そう言う貴方は何名の敵を?」

「さあ、十までは数えていましたが」

「ふっ、私と同じね」

 ここから王都まではもう目と鼻の先である。奇襲を仕掛ける機会はないだろう。遊軍の仕事は終わったのだ。

「帰ろう。王都バルバーレへ」

「はっ」

 そう聞かされた騎兵達はようやく笑顔を取り戻した。家族と再会して、魔物から人に戻れるのだ。未だ手に残っている人肉を刻む感覚は忘れられないとしても。


 ウティホは手持ちの騎馬を使って峡谷へと侵入させた。山崩れの様子を調べる為だ。もしその規模が大きければ、敵は進攻速度を大きく緩める事になる。この地に残る兵力を集中させ、強固な防衛線を張る事ができる可能性もあるのだ。

 同時に王都へと伝令を遣わした。この状況を司令部に伝えねばならない。

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