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僕の魔法  作者: Gさん
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第二章

 三叉路に置いた焚き火を始末し、一行は出立した。行き先はバルバーレである。行路の分かれ道を東へと折れて、その『荒野と湿地と(つわもの)の国』へと足を向ける。


 バルバーレ国は、人口の面ではユルグ教国に一歩譲るものの、支配面積は大陸最大である。南北に横たわるマンジャロウ山脈の東側全てが国土なのだ。中央部に流れる大河を中心に街々が偏在し、その河口に王都がある。王都も大河も名をバルバーレという。語源はいにしえの快哉の言葉とか。

 大河は国にとっても民にとっても重要な経済基盤である。河の上流、山脈の麓では羊や山羊、馬の牧畜と茶の栽培をしている。湿地が拡がる中流域では米の水耕、下流は漁が盛んであり、また巨大な市が開かれる経済の中心でもある。流域を離れれば広大な荒れ野があり、狩猟の場となる。胡椒や珍しい果実が野生のままに自生しており、それを採取して糊口を凌ぐ民もいる。

 水耕が発達するまで狩漁中心の生活であった事もあり、人々は猛々しく、武を持って国に奉じる気風がある。またユルグ教と同根ではあるが、より自然に密着したアニミズムに近い宗教を信仰している。


 一行は緩い下り坂を軽やかに進んだ。大陸の中央線たる山脈の近くから、徐々に東の海へと近づく。

 ジョクーは時折行路から外れて森に入り、暫くして合流し、少し進んではまた森に入るのを続けている。キリムは彼が何をしたいのかさっぱり分からない。

「ねえジョクー、さっきから何してるの?」

「仕掛けた罠を外しているのさ。ほら」

 山賊は絞めた兎を掲げてみせる。

「凄いね」

「放っておいても良いのだけれど、誰も見に来ない罠で死ぬなんて、獲物にとっちゃあ最悪の死に方だろう? それに勿体ない」

「仕掛けはまだあるの?」

「いや、これで終わり」

「そう、良かった」

 今度はジョクーが少年の言動に疑問を感じた。

「良かったって、何で?」

「何でもない」

「ははあ、俺がどこかへ行ってしまうのかと心配したんだ」

「してないよっ!」

 キリムはふて腐れてしまった。図星を突かれると人はこうなる。

 どうやら男はすんなりと溶け込めたらしい。まずは重畳な結果だ。しかし、こんなお人好しばかりでは先が思いやられてしまう。


 薄暗い森が終わり、狭かった視界が一瞬のうちに開く。見渡せば、所々に灌木があり、赤土と枯れ草の荒野が拡がっている。森のしっとりとした臭いが消え失せ、荒れ野特有の乾いた土の臭いに変わる。

 ウティホは丘の頂上に立ち、皆を呼び止めた。

「さて、森を抜けたぞ。ここからが旅の本番じゃ。まだ先は長いのだし、食糧は限られておる。特に水。これを大切にせねばならん。行路脇には井戸もあるが、閑散として人通りの少なくなった南回りじゃから、枯れてしまっているやも知れん。手持ちの水袋を飲み干さぬ様にしてくれよ」

「いよっ、隊商長(おかしら)!」

 ジョクーの追従に満足して、ウティホは「うむ」と顎髭を撫でた。ついでに背負子をジョクーに渡し、清々した表情(かお)で歩み出す。渡された山賊は悄気ながらも応ずるしかない。そのやり取りを見てノンモとキリムは可笑しがった。


 一行は縦に並んで進む。先頭は少年とウティホ、それにノンモが続き、やや離れてジョクーが追う。森の中を進むのとは勝手が違う。乾季特有の強い風が吹き渡り、砂が頬に当たる。口に入る。目を細めた状態を続けていると、額に血が溜まって頭痛がしてくる。広大な景色には目も呉れず、俯いて黙々と歩を進めるしかない。


 丘を幾つ越えただろうか。ジョクーが情けない声を上げる。

「旦那、どうか一休みにして貰えませんでしょうか」

 ウティホは何も応えない。

「将軍閣下、聞いてらっしゃいますか?」

 誰も歩みを止めない。

「旦那様、隊長、親父さん、お願いしますよ」

 ウティホは溜息混じりに後ろを向く。

「仕様がない奴だて」

 風除けに良さそうな大きな樹の側で歩みを止める。少年はジョクーのところまで戻って、背中を押してやっている。

 夫婦は根の瘤に腰を下ろした。

「あんたはどう思う? あいつはキリムにとって、丁度良い相手じゃないかね」

「そうだな、何にしろ無邪気な笑顔が戻ったのは良い事じゃろ。儂らと暮らす様になってから一度も見せなかったのだから」

 ジョクーは樹の一歩手前で倒れ込んだ。

「情けない」

 ウティホが腕を掴んで起こしてやる。

「すんません・・・・」

 この饒舌な山賊も言葉少くなっている。背負子を放り投げ、腰の水袋から水を飲んで、今度は仰向けに寝転がってしまった。

「何でこんなに重いんだ?」

「これでもかなり減らしたんじゃ。行き先も定まらん旅であったからの。少しばかり多目の支度がしてある」

「少しばかりって・・・・これでかい!」

「そうじゃ」

「旅慣れた人なら物じゃなくて金を準備すると聞いていたぞ」

「その方が良いじゃろうな。しかし金なんぞは持っておらん」

「貧乏が難いよ」

「まさしくな。金が敵の世の中じゃよ」

 ウティホが折れて、荷は順番で持つ事にしてやった。ジョクーはがばりと起き上がり、土塗れの顔でにっと笑って感謝した。


 まだ陽は高いが、ここで野営を張る。ジョクーはまたもや薪拾いに行かされる事となった。今回も褒美の前渡しとしてパンを渡されたが、釣り合わない取引であろう。森とは違ってここらで薪を集めるのは苦労しそうだ。草溜まりから枯れ草を取ってくる事は容易だが、燃え尽きるのが早くて効率が悪い。荒野は夜ともなれば森より冷える。火を絶やす事は避けねばならないし、またもや困難に直面している自称山賊である。

 近くにある枯れ木は取り尽くしてしまい、ジョクーは遠くまで行かねばならなくなった。残る三人は薪に火を付けて、近くの井戸から汲んだ水を沸かす。ノンモは手早く兎を捌いて、塩を塗り込めて炙り出している。腹の身から油が滴り、何とも香ばしい臭いが拡がる。


「ぉーぃ」

 遠くでジョクーが叫んでいる。見ると肩に大きな倒木を幾つも担いで、こちらに走ってくるではないか。

 ノンモが呆れ顔で言う。

「あら、この臭いに気付いたかのかね。誰か、お前の分は残しておくと言っておやりよ」

 少年がジョクーに手を振って応える。

 山賊は折角担いできた燃料を放り捨て、自由になった両腕を振って懸命に走り出した。

 何やら様子がおかしい。

 やがて、その姿の向こうから一頭の芦毛馬が現れた。こちらへと突進してくる。その後を二頭の黒鹿毛が追う。芦毛は見る見るジョクーを追い抜き、更にこちらへと駆け寄る。

 黒鹿毛に乗った者どもがジョクーを見付けると、芦毛の追走を後回しにして、弓で狙い出した。ジョクーは懸命に応戦している。

 見かねてキリムが飛び出してしまった。

「待たんか」

 ウティホも少年を追った。

 ジョクーはこちらにやってくるキリムを見て驚いた。助けてくれるのは有り難いが、少年の腕では役に立たない。しかし、その後にウティホが続いている。そうなれば、まずはこの二人と合流すべきだろう。ジリジリと後ろへ移動する。

 三人は窪地に集まり、黒鹿毛に騎乗した兵士らしき者どもと対峙する形となった。

 ジョクーは完全に息を切らしている。

「す、済まねえ。変なものを呼び込んじまった」

「いや、お前さんのせいでもなかろう。しかし此奴(こやつ)らは何者じゃ」

 大人二人は少年を背にして剣を構えている。一方、キリムは手にしていた薪を大地に突き刺し、両手の指を組んで何やらぶつぶつと唱え出した。

 その姿に追っ手は戦慄する。

「退けい!」

 馬上の一人がそう叫び、二頭の黒鹿毛は北へと戻って行った。三人はその場にぽつねんと取り残される。

「何じゃ?」

 ウティホには理解できなかった。

 ジョクーが少年に問い掛ける。

「キリムの法術が効いたんじゃないか。そうだろう?」

「真似をしてみたんだ。信じて貰えて良かったよ」

 大人二人は顔を見合わせる。

「物真似だったのか!」

「何て子じゃ」

 思わず声が揃った。そして少年の頭を撫で付けたり叩いたりして、その知謀を讃えた。


 三人は野営地に戻る。ノンモは心配のあまり真っ赤な顔をして、それでも万歳をして迎え入れた。

 その様子を遠くで見ている者がいる。芦毛馬に乗っていた人物。馬の轡を取り、近づいてくる。

「あのう・・・・もし・・・・」

 一同は声の方向に視線を向けた。

 それは少女であった。キリムより四つ五つ年上であろうか。バルバーレの民族衣装を着て、黒々とした髪を編んでいる。

「ご迷惑をお掛けしました。それに連中を追い払って頂きまして有り難うございます」

 ウティホはその声、その姿に驚いた。

「その装束・・・・ひょっとして、そなたはバルバーレの王女ではあらせられぬか?」

「はい、マウ・リサと申します」

「やはりそうか。御事がまだ幼い頃、遊んで差し上げた事がある。憶えておいでか?」

「ひょっとして、貴方様はアスマンの王弟陛下では?」

「いかにも」

「面変わりなって・・・・さぞご苦労なさったのでしょう」

「御事も変わられたぞ。背も随分と大きくなられた」

 ジョクーはすっかり置いてきぼりだ。

「ちょっと待って下さいよ旦那、あんたさんは王弟なのか?」

「うむ」

隊商(キヤラバン)の護衛やら国境警備をしていた人が王弟?」

「うむ、義理のな」

「義理の王弟・・・・って事は、国王の妹を娶って王族の籍に入ったって事ですかい?」

「相変わらず理解が早いな」

「どなたが王の妹なんで?」と恐る恐るノンモの方を見る。

「何だい? あたしが王妹(いもうと)だったら悪いのかい」

「滅相もございません。確かにこう・・・・何とも恰幅のおよろしい方だと思っておりましたとも、はい」

「もう一度言って御覧。その舌で美味しい酢漬けを拵えてやろう」

 二人が漫才をしている横で、ウティホと王女が話を続ける。

「ところで、襲ってきた奴らは何者ですかな」

「どうやらユルグ兵の様でした」

彼奴(きやつ)らが国境を越えてきているのか。にしても、どうして王女がこんな僻地に?」

「ご存じでしょうか。四年前の戦争以来、アスマン国のあった南方一帯は『呪われた地』と忌み嫌われております。足を踏み入れただけでも死に至るとか。そしてこの地域は我が国土の中で最もアスマンに近い。よって誰も統治したがらない有様でして、国王の直轄地として私が管理を任されているのです」

「ふむ。それでこうやって時折来てなさるのじゃな」

「はい、今回も従者を五人連れて視察に参りました」

「皆、殺られてしもうたのか」

「手練れをより選ってきたのですが、残念です。突如多数の敵が現れて・・・・一瞬の出来事でした。敵の中には法術を使う者も・・・・」

「そいつはまずい」

 ジョクーがノンモの口撃を振り切って会話に加わった。

「どう言う事じゃ?」

「呑気に構えている場合じゃありませんぜ。敵はちゃんとした部隊、しかも法術を使える者までいる。先程の騎兵二名は逃げたのではなく仲間を呼びに行っただけですよ。すぐに大挙して攻めてきますぜ」

「成る程、確かにまずいな」

 一同は心凍る思いで身を縮めた。森の中ならまだしも、こんなに見晴らしの良い荒野では隠れる事も逃げ出す事もできない。せめてもの対策として目立つ焚き火を始末し、身を屈めて周囲を警戒するしかない。


 一人一人が目を凝らし、風の臭いに神経を集中させている。

 ウティホは北を見張っていたが、気になってノンモとマウ・リサをちらと見遣った。二人とも表情を硬くしている。妻の肩に手を置いて、ウティホは再度視線を上げた。見上げた先には高峯が山肌を赤く染めつつあった。


 三人はアスマン戦争から四年も隠遁生活をしていたのだ。世の動きに疎くなって当然だが、残る二国がどうなっているかすら気に留めていなかった。気鬱が情報を集める努力を妨げていたのだ。そうして、重い腰を上げて国を破る決心をするのに4年掛かってしまった。

 四年は長い。大国同士が戦端を開くには充分なくらいに。そして今、正しくその瞬間に立ち会っているのだ。


「来た!」

 遠目のジョクーが最初に気付いた。騎馬が数十頭、後方を遮断する様に南方から現れたのだ。整然と横隊を作り、徐々に詰め寄ってくる。予想以上に早い展開だ。

 山賊は初めてそれらしい表情(かお)をして、ウティホに耳打ちする。

「最初に後ろを取られたって事は、本隊は前方ですかい?」

「うむ、そんなところじゃろう」

 そう応えながら、ウティホは懸命に考えを巡らしている。現れた騎兵は五十騎余り。ユルグの遊撃隊と同じ編成ならば、歩兵はその十倍はいてもおかしくない。総勢六百、大隊規模だ。彼奴(きやつ)らの得意は騎馬による情報収集と歩兵による打撃。闇に隠れて接近し、敵の急所、要所を蹂躙し壊滅させる為の編成である。捕虜を捕らず見る敵は全て屠ると聞く。指揮官は一人とは限らず、頭を刈り取っても隊を崩す事は適わないだろう。

 

 これは難敵だ。ウティホは打開案を模索したい。

「王女殿下、御事の馬には何人乗れますかな」

「駿馬ですが・・・・牝馬なので大人の男の方なら一人でも重がります」

「では、取り敢えず御事が騎乗なさるべきでしょうな」

「私一人が逃げる訳には参りません。皆様と共にいます」

 万事休すと断ぜねばならない状況である。彼女も短い人生の終わりを覚悟したのだろう。


 北の様子が変わる。それにキリムが目聡く気付いた。

「歩兵が身を屈めてやってくるよ」

 ウティホが目を細めて確認する。

「やはりな。五百はいるじゃろう」

 やがて最終段階とばかりに、敵の戦馬車と荷駄隊がガラガラと登場した。歩兵達は一斉に立ち上がり、奇声を上げている。長期戦を見越して大松明も設置する念の入れ様だ。

 女どもはぺたりと座り込んでしまった。


 一方、ジョクーは自棄とばかりに平然としている。

「敵さんは慎重ですねえ。こう、ぐるりと取り囲んでおきながら、ジリジリとしか輪を縮めようとしない」

 その冷静な感想にウティホが応じる。

「恐れているんじゃよ。こちらにいる術士を」

 二人は少年をじっと見詰める。

 視線を感じたキリムは、急いで掌を横に振った。

「駄目駄目。もうハッタリは通じないよ?」

「ハッタリじゃなく、本物の術は使えないのかい。ほら、ここに兎の贄がある。ちっとばかし焼き過ぎたが、これで連中を丸焦げにしてくれよ」

 ジョクーは拝む調子で懇願した。

 ウティホが続ける。

「キリムよ、お前は三国一と謳われた知恵者の血筋じゃ。母は古今東西の法術を会得した稀人(まれびと)だったではないか」

「そのせいで殺されたけれどね」

「確かにそうじゃ。お前の母を守れなかった儂らにも責任はある。じゃから、お前は母君の分も長く生きねばならんのじゃ」

 山賊も応戦する。

「その為にはこの場を切り抜けなきゃならない。違うかい?」

 少年は無茶な期待だと困惑するばかりだ。


 敵は徐々に迫る。馬車から黒い詰め襟を着た者どもが降り立ち、包囲網の前方に位置した。そして手を組んで何やら誦文らしき言葉を唱えている。

 ジョクーがウティホに聞く。

「あれが『法士』か」

「いかにも」

「連中は何をしているんだ?」

「さっぱり分からんが、こちらの術を無効化する法でも唱えているんじゃろうな」

「俺達は終わりか」

「いかにも」

「手立てはないのか」

「ないだろうの」

「無茶を承知で突進してみては?」

「六百人を相手にか? 矢に当たって頓死するか、四肢を切り落とされ苦しみながら死ぬか、そんなところじゃろうな」

「少し待って、夜陰に紛れて逃げるとか」

「この部隊は夜戦巧者で有名じゃ。夜目の利かぬ兵士なぞおらん」

「降伏しよう」

「連中は捕虜を捕らぬ」

「バルバーレの王女にアスマンの王弟が揃ってもか?」

「国王その人がいても駄目じゃろうな」

「ただの旅人を演じてみるとか」

「演じずとも儂らはただの旅人じゃ。でも、それで奴らが見逃してくれるのか?」

「確かに・・・・」


 山賊は腹を括り、その場にしゃがんだ。そして今度は少年に問いをぶつける。

「なあ、連中は何をぶつぶつと唱えているんだい?」

「お経だろうね」

「効き目があるのか?」

「ないよ。でも敵の兵士達はそう思っていない。自分を術から守ってくれていると信じている。そう言う意味では効果があるんだ」

「連中こそ、ハッタリをやっているのか」

「そう。本物の法術が使える者なんてユルグ教国にはいない。バルバーレにだって一人しかいない」

「でも、四年前の戦争では使っていたんだろう?」

「手妻だよ」

「手妻なら、どうやって生きた人から魂を抜いたり、骸を破裂させたりできたんだ?」

「麻薬と暗示、それに火薬さ」

「火薬?」

「炭に硫黄、後は硝石があれば作れる。火を付ければ轟音と共に破裂するものだよ」

「そんな武器があるのか?」

「硫黄はアスマン火山でしか採れない。硝石はバルバーレにしかない。だからもう残っていないだろうね」

「成る程、じゃあその火薬を恐れる必要はないんだな」

「多分ね」

「法術は恐ろしいものだと思っていたが、何の事はない、嘘っぱちかい」

「そうでもないよ」

「そうそう、バルバーレには使える人が一人だけいるんだっけか。でもどうやるんだ?」

 キリムは、すっくと立ち上がった。

「こうやる!」


 少年は丘の上まで駆け上がる。そして懐から小柄を取り出し、細い刀身を自分に向け、左手の掌に突き刺し、貫通させ、更には握り込んだ。そして、その手を天に掲げる。

 赤黒い血が滴り、キリムの白い腕に伝う。

「うおおおおおお」

 少年は自らの喉が許す限り叫んだ。その雄叫びは荒野に反響し、張り詰めた空気を殷々と震わせた。

 仲間達はその様を凝視している。敵も同じ。

 法士の読経が止まった。歩兵の様子が変わる。騒めき、悲鳴を上げ、逃げ出す者も現れた。


 包囲した輪が崩れる。

「今じゃ」

「おう」

 ウティホとジョクーが剣を掲げ、叫びと共に突進する。ノンモも薪を振り上げて続いた。

 行路を北へと走り抜ける五人。

 敵の歩兵達は戦いて道を譲った。連中はすっかり怯えている。這々の体で騎馬と合流し、荒野を南へと逆進して行った。

 そして狂った様に叫び走る一行だけが残った。


 最初に喉を涸らして叫べなくなったのはウティホである。

「げほげほ、皆止まれ」

「おおおおー、え?」

 山賊は状況が把握できない。

「やあー」

 ノンモはまだ元気に叫んでいる。

 馬上のマウ・リサは戸惑っていた。助け上げた少年は鞍の上でぐったりとしている。それをどうしたものか気が気ではなかった。


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