鍵をかけられなかった理由
短編です
ガシャーン!!
大きな音と共に、上司の怒った顔が眼前に広がった。
「だからお前はfvべf場vfrqrchfjvbbvやrgふ!!!」
途中からほとんど聞こえない。だって内容はわかっているから。僕は鍵をかけて引きこもる。そうして嵐が去って行くのを待つだけ。
ほんの五分もすれば、上司の怒りは収まって「おら、戻っていいぞ」と言ってくれる。僕は鍵をかけたまま、へらへら笑って「すみません」とだけ言って自分の席に戻る。こんな様子は日常茶飯事だ。
子供のころからずっとそうだった。親も学校の先生も、友達だった奴らも、何故か僕を罵倒する。僕は何も悪い事してないのに。
「この子は好奇心が強すぎますね」
昔母に連れられて行った病院で、ふっくらしたおばさんがそう言った。その言葉だけは妙に覚えていて、でも後のことはほとんど覚えていなかった。病院という特殊な環境に興味を奪われていたからだ。
母には、「もう少し落ち着いて、周りの子と同じように過ごしなさい」と叱られた。だから僕は、鍵をかけた。興味が出てきそうになると、母の言う通りにすぐに鍵をかけて、普通になれるように幼少期を過ごした。
でも成長するにしたがって、興味の幅が広がっていく。
どうして綿毛は空を飛べるのか、どうして蛙はあんな変な鳴き声をしているのか、どうして人は二足歩行なのに猫や犬は四足歩行なのか、電気って何?水って何?なぜ人は食べないとお腹がすくの?なぜ水を飲まないと生きていけないの?なぜ、動物は死ぬの?
誰もこの疑問に答えをくれる人はいなかった。そしてそんな疑問を母に投げると、叱られた。だから僕は鍵をかけた。今度はもう少し大きい奴だ。昔の興味もまとめて閉じ込めておけるような大きな鍵。これで一安心だ。
そう思っていた。
この鍵は本当に役に立っていて、上司に叱られたとき、道端で知らない人に罵倒されたとき、家に帰って父に殴られたとき、母に叱られたとき、すぐに僕は鍵をかけて、難を逃れた。
でも最近、鍵がうまく作用していないような気がする。
上司の罵倒が、ちょっとずつちゃんと聞こえるようになってきた。
「お前みたいなやつをおscbsぢ亜ftったのは!俺だぞ!・bfrじゃsじぇ感謝しろよっ!」
感謝?感謝ってなんだろう。僕をこんな不安にさせて、僕をこんなに虐めるやつに、感謝しなくちゃいけないんだろうか?感謝ってそういうもの?
尽きない興味が持ち上がる。だめだ、駄目だ、鍵をかけなくちゃ。
そう思っていたのに、僕の右手は、上司の頬にヒットしていた。
呆ける上司の鼻から血が一滴流れていた。
「・・・・・・ははは」
こんなやつでも血は赤いんだ。
僕の頭にはそんな言葉しか浮かんでいなかった。
僕は会社をクビになった。なぜ僕がクビになるんだろう。不思議だなぁ。
このことを話したら父にまた怒られるかもしれないと思った。でもなんだか今日は気分が高揚していて、とにもかくにも家に帰りたい気分だった。
家について、驚いた。母が玄関で血を流して倒れていた。
興奮した様子の父と目が合った。
「・・・・・とうさ」
「お前がぁぁぁぁ」
父が僕に向かって走ってきた。僕は無我夢中で体を動かしていた。
「君!君!!」
気が付くと警察の制服を着た男たちに取り押さえられていた。父の顔がボコボコに変形していた。
不思議と右手が痛い。血が出ている。あぁ、僕にも赤い血が通ってる。
そうか、こうやって人は死ぬんだなぁ。
一つ学びを得た気がする。
——鍵をかけられなかった理由——
うーん・・・




