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Yes, Your Highness  作者: 名無しの旅人


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第4話 はじめての外出 ― 前半 ―

刺客騒動から数日が過ぎ、王宮には落ち着いた空気が戻りつつあった。

雫月も星華も、以前と変わらぬ日々を過ごしていたが――

その距離は少しずつ、確かに近づいていた。


「星華、今日は外に出ましょう!」


朝食を終えた雫月が弾む声で言った。

星華は驚き、姿勢を正す。


「外……といいますと?」


「王都よ。お買い物したいの!」


「ですが、まだ危険が――」


「大丈夫よ。今日は護衛の兵士もつくし、叔父様も許可をくれたの」


雫月は満面の笑みを浮かべる。

その笑顔は、春の日差しよりも明るい。


「それに……どうしても欲しい物があるの」


「……何でしょうか?」


「それはね……ふふ、内緒!」


雫月は指を唇に当ててウインクした。

その様子があまりに愛らしく、星華は思わず息を呑んだ。


(……雫月様。そんな顔をなさっては……)


胸がじんわりと熱くなる。

星華は小さく咳払いをして気を紛らわせた。


「では、準備いたします」


「ありがとう、星華!」


雫月が走っていく姿を見送りながら、星華は思う。


(買い物……雫月様は楽しそうだ。俺も……その気持ちを守りたい)


そう思うだけで、心の奥が静かに温かくなるのだった。


午前十時。

王都レヴァリアの中央大通りに、雫月と星華が姿を現した。


春の陽気に包まれ、街には色とりどりの花が咲いている。

商人たちの声、香ばしいパンの匂い、笑い声……

王宮とは別世界のように活気に満ちていた。


「わぁ……! 星華、見て! あのマカロン屋さん、可愛い!」


「雫月様、走ると危険です」


「えぇ〜、だって気になるんだもの!」


雫月は兵士たちが慌てて追うのも気にせず、スカートを揺らして小走りする。

星華は急ぎ足でその後ろについていく。


「雫月様、転ばないように――あっ」


案の定、雫月は石畳につまずいた。


「きゃっ――」


星華は即座に腕を伸ばし、彼女を支えた。


「……っ、大丈夫ですか?」


「うん……星華、ありがとう」


雫月は星華の腕の中で、小さく恥ずかしそうにうつむいた。


「私、やっぱり走るの下手ね……」


「雫月様が怪我しては困りますから。お気をつけください」


「うん……ごめんね」


雫月は星華の胸に頭を預けるように寄りかかり、星華は支えたまま、そっと息を吐く。


(……雫月様が無事でよかった)


胸の奥がじんわりと熱くなる。

それと同時に、雫月の鼓動が腕越しに伝わってきて、星華の耳まで赤くなる。


「……そ、そろそろ歩きましょう」


「ふふっ。星華、顔が赤いわよ?」


「っ……気のせいです」


雫月は楽しそうに笑った。


その後、二人は色々な店を巡った。


焼き菓子の店

可愛い雑貨屋

ぬいぐるみ屋

花屋


どの店でも雫月は目を輝かせ、星華は微笑みながらその姿を見守った。


「星華、このブレスレットどう思う?」


「綺麗ですね。雫月様に似合うと思います」


「それ、褒めてる?」


「本気で言ってます」


雫月は嬉しそうに頬を赤らめた。


「じゃあ……星華も、同じのつける?」


「え……俺も、ですか?」


「うん! お揃いって、なんだか素敵でしょ?」


星華は返答に困り、言葉を失った。

少年のような照れが一瞬顔をのぞかせる。


「雫月様と……お揃い……」


「だめ?」


「だめではありません。ただ……俺なんかがつけていいのか……」


「星華は“俺なんか”って言っちゃだめ!」


雫月は頬を膨らませて怒る。


「星華は……私の大切な人なんだから」


その一言は、何気なく発せられたものだった。

だが星華の胸には深く刺さる。


(……大切……俺が?)


雫月は照れたように笑った。


「だから、一緒に選ぼ?」


「……はい」


星華は顔を伏せながら、初めて自分の意思で“雫月の隣”に立った。


街角にある小さな花屋に入った時のこと。


「いらっしゃいませ、殿下。お連れのお方もどうぞ」


店主は温かな笑顔で二人を迎えた。

店内には春の花が色鮮やかに並び、甘い香りが広がっている。


「星華、見て! この白い花、とっても可愛いの」


「……本当に綺麗ですね」


「名前、知ってる?」


「いえ……」


「“リリウムスター”っていうの。星の雫って意味があるんだって!」


雫月はその花を手に取り、星華の胸元に添えた。


「星華に似合うと思うの」


星華は一瞬固まる。


「……俺に?」


「うん。星華って、星みたいな瞳をしてるから」


雫月は恥ずかしそうに笑う。

星華の心臓が一気に跳ね上がった。


自分の目を誰かが綺麗だと言ったことなど、記憶にある限り一度もなかった。

その言葉は彼の胸に深く響いた。


「……ありがとうございます、雫月様」


「えへへ。じゃあね――」


雫月はその花を、星華の胸元のボタンにそっと飾った。


「今日はこれ、お守りにしてね」


星華は思わず花へ触れた。

胸元に残された温かさは、どんな武器よりも強い力を持っていた。


(……この人を……守りたい)


その想いが、星華の胸でひっそりと息を吹き返す。


「ねぇ星華。そろそろ――あっ!」


店の外へ出ようとした瞬間、雫月はまたつまずいた。

星華は反射的に抱きとめる。


「雫月様!」


「ご、ごめん……今日、二回目……」


雫月は顔を赤らめ、星華にしがみつくように身体を預けた。


星華は優しく彼女を抱き起こし、そっと言う。


「雫月様。俺のそばを、離れないでください。あなたが倒れそうになると……胸が苦しくなるので」


雫月は星華を見上げ、頬が赤くなる。


「……星華って……意外とずるいこと言うのね?」


「ず、ずるい……?」


「そんなふうに言われたら……もっとそばにいたくなるじゃない」


星華は言葉を失った。

雫月はその手を握り、笑う。


「さ、まだ行きたい場所があるの。ついてきて?」


「はい、雫月様」


二人は手をつないだまま、ゆっくりと街を歩いた。


春風が、まだ幼い二人の距離を少しずつ縮めていく。

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