第26話 奪還の刃、魂の誓い ― 後半 ―
さらに奥。
石造の円形広間。
祭の装飾布が未使用のまま積まれ、
中央には結界陣。
その中心で――
雫月が、拘束陣に縛られていた。
「………………星……華……」
掠れた声。
星華はその姿を見た瞬間、心臓が痛むほど強く鳴った。
「雫月……!」
夜叉が挟み込むように立つ。
「再会だな。――さぁ、夜死。選べ」
夜叉の影刃が、雫月の首元に触れる。
「雫月の命を取ってでも進むか、剣を捨て、大人しく俺のもとへ戻るか」
星華は剣を構えたまま、一歩も引かない。
「……答えは……一つだ」
夜叉が目を細める。
「ほう……」
雫月は、力を振り絞って声を出した。
「星華……!」
震える声。
「……一人で、戦わないで……って……言ったよね……」
夜叉が低く笑った。
「いいことを言う。ではどうする?その約束を守るなら、剣を――」
だが雫月は、はっきりと続けた。
「星華……あなたは……私の“執事”で……“騎士”で……
――私の“答え”だから……!」
息を吸い――
「ここに来なさい。星華。」
その言葉は、皇女としての命令ではなく――
一人の少女が、想いを込めて紡いだ願いだった。
星華は、剣を握り締め、視線を雫月へ真っ直ぐ向けた。
そして――
ただ一言、はっきりと応えた。
「――Yes, Your Highness.」
静かで、揺るぎない声。
夜叉の表情が歪んだ。
「……まだ、その言葉を使うか……!」
「ええ」
星華は、踏み込む。
「それが――俺の“始まり”であり……終わりではないからです」
星華は、影刃の雨を真正面から突き破った。
刃と影がぶつかり、衝撃で結界陣の石が砕け散る。
夜叉の奥義、
《黒羽・影界牢》
空間ごと閉じる、断絶の結界。
だが星華は止まらない。
「雫月……!」
「……星華……来て……!」
星華の剣が、影界牢の“核”を穿った。
――キィィン!!
結界が悲鳴のような音を立て、ひび割れる。
夜叉が、叫ぶ。
「――馬鹿な!!それは帝国でも封印指定の術式……!」
「……守るための意志に……封印は通じない……!」
星華の剣撃が、ついに結界を砕いた。
星華は雫月を抱き寄せ、拘束陣の要石を砕く。
「――もう……大丈夫だ……」
雫月は震えながら、星華の胸に顔をうずめた。
「……ほんとに……来てくれた……」
「ええ……必ず行くと……誓ったから……」
夜叉は、数歩下がり、片目を歪ませて笑う。
「……見事だ、夜死……いや……星華」
片手を広げる。
「今日は……退こう。だが――」
声が低く落ちる。
「“終わった”と思うな。その鎖は、まだ完全には切れていない」
影とともに、夜叉の姿が溶けた。
地下通路の出口へ急ぐ星華と雫月。
雫月は星華の手を強く握りしめる。
「……星華……答えてくれて、ありがとう……」
「……あの言葉ですか?」
「うん……」
星華は、一瞬だけ照れたように視線を逸らし――
「……雫月の声が聞こえた時、返事は……他にありませんでした」
二人は、闇を抜け、夜の外気の中へ帰還する。
雫月が小さく微笑んだ。
「……ね。私たち――“主従”なんて言葉じゃ、足りないね」
星華は歩きながら、静かに答える。
「ええ。……それ以上に、“運命”ですから」




