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Yes, Your Highness  作者: 名無しの旅人


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第10話 奪われた光、動き出す闇 ― 後半 ―

黒い羽を握りつぶしたまま、星華は城内の作戦室へ向かった。

怒りで視界が赤く染まり、胸の中は嵐のように騒いでいる。


(雫月様……どうか……無事でいてください……)


その祈りだけが、崩れそうな心を辛うじて繋ぎとめていた。


王宮・作戦室


地図の広げられた机の前に立つと、城の騎士隊長が険しい表情で星華に言った。


「情報が出た。殿下は……帝国の影部隊《夜叉》に攫われた可能性が高い」


「…………」


星華の目の奥が静かに燃え上がる。


「敵は速やかに移動している。だが……ひとつだけ痕跡が残っていた」


騎士隊長は黒い羽を机に置く。


「これが、風向きからして東に流れ着いた。つまり……敵は東の渓谷へ向かった可能性が高い」


星華は一歩踏み出し、問う。


「隊長。騎士団はいつ出発しますか?」


「準備には時間が必要だ。装備、馬、食糧……どうしても半日は――」


「待てません」


星華の声は低いが、鋭く響いた。


「雫月様は一刻を争う状況にあります。待っている間に……危険が及ぶ可能性が高い」


「だが単独行動は危険すぎる。あの《夜叉》が相手だぞ?」


「関係ありません」


星華は迷いなく言い放った。


「俺には……雫月様を守る義務があります。――そしてそれ以上に、雫月様を救いたいという想いがある」


隊長は言葉を失った。

星華の瞳に宿るものが、ただの執事のものではなかったからだ。


「……気をつけろよ。“帰ってこい、星華”」


「必ず帰ります。雫月様を……連れて」


星華は頭を下げ、作戦室を出た。


夜叉・仮拠点(東渓谷)


雫月は薄暗い部屋に閉じ込められていた。


両手を縛られ、足元にも縄がかかっている。

窓はなく、外が昼か夜かも分からない。


だが雫月は、弱い声で呟き続けていた。


「……星華は来る……絶対に……」


その時、扉が開いた。


黒い仮面の男――星華を襲った刺客のひとりが入ってきた。


「皇女殿下。ご機嫌いかが?」


「……あなたたちが……星華を狙ってるのは分かってるわ……」


「もちろんだ。“十三番”は我々《夜叉》の最重要標的だからな」


雫月は鋭く睨む。


「どうして星華を……!」


「理由は単純だ。“十三番”は裏切った。そして――お前がその“弱点”になった」


雫月の表情が揺れる。

男は楽しげに続けた。


「十三番が揺らぐのは、いつだと思う?」


「…………」


「お前が危険に晒された時だよ」


雫月の心臓が跳ねる。


「つまり――お前を餌にすれば“十三番”は感情を乱し、元の“夜叉”に戻る」


「戻る……?」


「そうだ。皇女、お前を殺せば――十三番は完全に壊れる」


雫月の全身が震えた。


(星華……こんな……罠に……)


「あなたたち……星華を傷つけるために……私を……!」


「そうだ。お前が泣けば涙を拭う。お前が傷つけば激昂する。お前が奪われれば――十三番は完全に理性を失う」


男は雫月の顎をつかんだ。


「皇女……お前は、十三番を壊す“鍵”なんだ」


「……っ!」


雫月は歯を食いしばる。


(星華……お願い……来ないで……!ここは罠……星華を壊すための……)


「でも……星華は……来るわよ」


「……何?」


「あなたたちが何を企んでいても、星華は……私を迎えに来る」


雫月の瞳は一切揺れなかった。


それが逆に男の神経を逆撫でする。


「……反抗的な皇女だ。だが、すぐに泣き叫ぶことになるさ」


男は部屋を出て扉を閉める。


雫月は震える肩を押さえ、涙をこらえた。


「星華……ダメ……絶対来ちゃ……ダメ……」


でも。


その涙の奥には、切実な願いもある。


「……でも……本当は……来てほしい……」


雫月は自分の胸に顔を埋めた。


「星華……お願い……来て……でも、傷つかないで……」


矛盾する想いが胸を刺す。


(私……こんなに、星華を……)


泣きそうになるのを、必死で堪えた。


山の麓


星華は迷いなく渓谷へ向かっていた。

森の中を、風のように駆け抜ける。


心臓は痛いほど速く打ち、

手は何度も震えそうになる。


(雫月様……どうか無事で……)


枝を裂き、茂みを抜け、崖を駆け上がる。

普段では考えられない速度だ。


しかし。


突然、脳裏で声がした。


――十三番。


「っ……!」


――感情が乱れているぞ。

その程度のことで揺らぐとは……

“人間らしい”な?


星華の足が止まる。


(……また……声が……)


あの声だ。

かつて自分を操っていた闇の声。


――思い出せ。

お前は誰よりも冷酷だった。

泣き叫ぶ少女を追い詰めた時の快感を……

皇女の涙を見た時の震えを……


「……黙れ……」


――皇女は“弱点”だ。

救おうとするほど、お前は壊れる。


「黙れと言っている……!」


星華は髪を掻きむしり、膝をついた。


胸が焼けるように痛い。

呼吸がうまくできない。


(雫月様……俺は……あなたのそばで……笑っていたいのに……どうして……こんな……)


声がさらに響く。


――その涙は、裏切りの証。

皇女を救うために戻るたび……

お前の中の“夜叉”が目を覚ます。


「……やめろ……っ!!」


叫んだ瞬間、星華の胸から熱が爆発した。


「俺は……!!雫月様を守るために……生きると決めたんだ……!!」


その叫びが、闇の声を切り裂く。


――………………。


声はかき消えた。


星華は地面に手を付き、しばらく荒い呼吸を続けた。


そして顔を上げる。


目は、涙で潤んでいる。


「……雫月様……あなたがいない世界なんて……無意味だ」


星華の瞳が決意に染まる。


「必ず……迎えに行きます」


星華は再び走り出した。


風を裂くような速度で。

命を削るような覚悟で。


守りたい人がいる――

その強さだけが、星華を動かしていた。


夜叉・拠点


雫月は何度も縄を引きちぎろうとするが、力が足りず動けない。


「星華……星華……」


涙を滲ませながら呟く。


「あなたが……どんな姿でも……私は星華のことを……」


その瞬間、廊下から複数の足音がした。


「来たぞ! 入口の警備が一人やられた!」


「なに……? 誰が……!」


「十……十三番だッ!!」


雫月の心臓が跳ねた。


「星華……!」


涙が頬を伝う。


(来ちゃ……ダメ……でも……来て……星華……)


その矛盾が胸を刺し、雫月は震える声で呟いた。


「星華……私……あなたが来てくれて……嬉しい……」


雫月は涙を拭き、強く言う。


「星華……私はここよ!!お願い……来て……!!」


その叫びは、確かに星華の耳に届いていた。

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