「黒薔薇の棘」(ゴシックホラー)
ロンドン郊外に、その館はあった。
霧に包まれた黒い尖塔。崩れかけた石壁。屋敷の庭には、一輪の赤い薔薇が咲いていた。
その館の主人を知る者は少ない。
ただ、彼の名を耳にしたことがある者なら、一様にこう呟くだろう。
──「悪魔の住処だ」と。
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ある雨の夜、一人の男が館の扉を叩いた。
濡れたコートをまとい、顔色の悪い男。彼の名はレオ・ブレイク。
「……ミスター・アシュフォードを訪ねてきた」
扉はゆっくりと開いた。
蝋燭の灯りが、廊下を揺らめかせる。
「お待ちしておりました」
黒衣の執事が、無表情に言った。
レオはそのまま館の奥へと導かれた。
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広間の奥に、男がいた。
漆黒のスーツを纏い、白い手袋をした優雅な男。
それが、この館の主── **エドワード・アシュフォード** だった。
「久しいな、レオ」
アシュフォードは微笑みながら、ワイングラスを傾けた。
「お前がこの館を訪れるとは。よほどのことがあったのだな?」
レオは震える指で、煙草を口にくわえる。
「俺を……匿ってくれ」
アシュフォードは目を細めた。
「ほう?」
「やばい連中に追われてる。俺を殺す気だ……」
「それは大変だ」
アシュフォードは笑った。
「……だが、見返りが必要だ」
「なんでもする」
「"黒薔薇"を、持ってこい」
レオの顔が凍りついた。
「……黒薔薇?」
「そうだ。館の裏庭に咲いている、ただ一輪の黒い薔薇。お前がそれを摘んでくれば、私はお前を匿おう」
レオはごくりと唾を飲み込んだ。
黒薔薇。
それに触れた者は、決して生きて帰れないと言われる、"呪われた花"。
しかし、レオに選択肢はなかった。
「……わかった」
彼は、ゆっくりと立ち上がった。
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庭に出ると、風が吹き荒れていた。
灰色の空。揺れる枯れ木。
その中に、ぽつんと黒い薔薇が咲いていた。
まるで、この世のものではないかのように。
レオは慎重に近づく。
そして、震える指で黒薔薇に触れた。
その瞬間、世界が暗転した。
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レオは、夢を見た。
それは、血と炎の夢だった。
彼は、刃に貫かれ、赤い海に沈んでいた。
そして、その海の向こうで、誰かが笑っていた。
──アシュフォード。
あの男が、微笑んでいた。
「おめでとう、レオ」
アシュフォードの声が響く。
「お前は、今から"私の一部"になるのだ」
レオの体が、闇に溶けていく。
彼の意識が、霧の中へ消えていく──。
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館の広間に、アシュフォードは静かに立っていた。
彼の手には、一輪の黒薔薇が握られていた。
そして、彼は微笑みながら、それを銀の花瓶に挿した。
「また一つ、増えたな」
壁に並ぶ、無数の黒薔薇。
それは、この館に足を踏み入れた者たちの"魂"だった。
アシュフォードは、そっと囁いた。
「ようこそ、"黒薔薇の館"へ」
そして、その夜も、彼はワインを嗜んだ。
次の"客"を待ちながら──。




