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いろんなショートストーリー集  作者: 霧崎薫


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「賢者の投資」(現代ドラマ)


 田中は、金持ちになりたかった。


 いや、「なりたかった」ではない。「なる」と決めていた。


 そこで彼は、投資の世界に飛び込むことにした。



 最初に買ったのは、話題のハイテク株だった。


 「これからはAIの時代ですよ!」と、証券会社の担当者が言ったからだ。


 数ヶ月で株価は倍になり、田中は興奮した。


 「これはチャンスだ! 今こそ、もっと買うべきだ!」


 彼は持っていた貯金をすべてつぎ込んだ。



 そして、翌月。


 株価は、半分になった。


 「おかしい……!」


 ニュースを見れば、「市場は一時的な調整」と書かれていた。


 証券会社の担当者は、「長期的に見れば問題ありません」と慰めてくれた。


 そこで田中は、もっと買い増すことにした。


 「株は、安くなったときに買うべきだ」


 そう言ったのは、伝説の投資家だった気がする。



 数ヶ月後。


 株価は、さらに半分になった。


 田中の資産も、半分の半分、つまり四分の一になった。


 「……なぜ?」


 彼は、途方に暮れた。


 **株式市場は、合理的に動くはずじゃなかったのか?**



 そこで田中は、**伝説の投資家**と呼ばれる老人を訪ねることにした。


 その老人は、古びたオフィスにいた。


 豪華な高層ビルではなく、田舎町の小さな書斎で、静かにコーラを飲んでいた。


 「先生、私は間違っていたのでしょうか?」


 老人は、ゆっくりと口を開いた。


 「君は市場のルールを知らなかっただけだ」



 「市場のルール……?」


 「市場というのは、君の思考の裏をかくものだ。人々が熱狂しているとき、それはすでに遅い。人々が絶望しているとき、それが本当のチャンスだ」


 「でも、私はニュースを見て、専門家の意見を聞いて……」


 老人は笑った。


 「君がニュースを読んだときには、もう遅い。市場はすでにその情報を織り込んでいる」



 「では、どうすれば?」


 老人は、窓の外を指さした。


 「見るんだよ」


 田中は、窓の外を見た。


 そこには、ただのスーパーがあった。


 「……何を?」


 「市場は、ここにある」


 老人は、静かに言った。


 「毎日、ここに来て、何が売れているのか、何が値上がりしているのかを観察するんだ。人々の行動こそが、本当の市場だからね」



 田中は、それから半年間、毎日スーパーに通った。


 高級品よりも、意外とシンプルな商品がよく売れていることに気づいた。


 いつの間にか、店の棚には新しいブランドの飲料が並んでいた。


 田中は、その会社の株を買った。


 そして、気づけば、その株は数年後に10倍になっていた。



 「市場は、ニュースの中にはない」


 老人は、コーラを一口飲みながら、静かに言った。


 「市場は、人々の生活の中にあるんだよ」


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