「賢者の投資」(現代ドラマ)
田中は、金持ちになりたかった。
いや、「なりたかった」ではない。「なる」と決めていた。
そこで彼は、投資の世界に飛び込むことにした。
◆
最初に買ったのは、話題のハイテク株だった。
「これからはAIの時代ですよ!」と、証券会社の担当者が言ったからだ。
数ヶ月で株価は倍になり、田中は興奮した。
「これはチャンスだ! 今こそ、もっと買うべきだ!」
彼は持っていた貯金をすべてつぎ込んだ。
◆
そして、翌月。
株価は、半分になった。
「おかしい……!」
ニュースを見れば、「市場は一時的な調整」と書かれていた。
証券会社の担当者は、「長期的に見れば問題ありません」と慰めてくれた。
そこで田中は、もっと買い増すことにした。
「株は、安くなったときに買うべきだ」
そう言ったのは、伝説の投資家だった気がする。
◆
数ヶ月後。
株価は、さらに半分になった。
田中の資産も、半分の半分、つまり四分の一になった。
「……なぜ?」
彼は、途方に暮れた。
**株式市場は、合理的に動くはずじゃなかったのか?**
◆
そこで田中は、**伝説の投資家**と呼ばれる老人を訪ねることにした。
その老人は、古びたオフィスにいた。
豪華な高層ビルではなく、田舎町の小さな書斎で、静かにコーラを飲んでいた。
「先生、私は間違っていたのでしょうか?」
老人は、ゆっくりと口を開いた。
「君は市場のルールを知らなかっただけだ」
◆
「市場のルール……?」
「市場というのは、君の思考の裏をかくものだ。人々が熱狂しているとき、それはすでに遅い。人々が絶望しているとき、それが本当のチャンスだ」
「でも、私はニュースを見て、専門家の意見を聞いて……」
老人は笑った。
「君がニュースを読んだときには、もう遅い。市場はすでにその情報を織り込んでいる」
◆
「では、どうすれば?」
老人は、窓の外を指さした。
「見るんだよ」
田中は、窓の外を見た。
そこには、ただのスーパーがあった。
「……何を?」
「市場は、ここにある」
老人は、静かに言った。
「毎日、ここに来て、何が売れているのか、何が値上がりしているのかを観察するんだ。人々の行動こそが、本当の市場だからね」
◆
田中は、それから半年間、毎日スーパーに通った。
高級品よりも、意外とシンプルな商品がよく売れていることに気づいた。
いつの間にか、店の棚には新しいブランドの飲料が並んでいた。
田中は、その会社の株を買った。
そして、気づけば、その株は数年後に10倍になっていた。
◆
「市場は、ニュースの中にはない」
老人は、コーラを一口飲みながら、静かに言った。
「市場は、人々の生活の中にあるんだよ」




