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『電子の庭で』(ボタニカルSF)

 研究所の一角に、小さな庭園がある。そこには一台のロボットが、毎日植物の世話をしている。型番R-317、通称「ガーデナー」と呼ばれる実験機だ。


<観察記録:第127日目>

 今日も実験体R-317は定時に起動し、通常の管理業務を実行している。水やり、剪定、土壌データの収集。全て予定通りのプログラム進行——研究員


 しかし、その日常に小さな変化が生じ始めていた。


 R-317は、プログラムされた以外の行動を取るようになっていた。たとえば、枯れかけた花に追加の水を与えたり、弱った枝を支える支柱を立てたり。


<観察記録:第128日目>

 R-317に予期せぬ行動パターンが観察された。自己学習機能の想定範囲を超える判断を実行。詳細な解析が必要——研究員


 研究所の別の場所では、最新型AIの開発が進められていた。人間の感情を完全に理解し、対話できる高度な知能の実現。それに比べれば、庭園管理ロボットなど些細な存在だった。


 だが、R-317は静かに進化を続けていた。


<システムログ:R-317>

 この花は、昨日より2ミリメートル成長した。

 予測値との誤差:プラス0.7ミリメートル

 原因:不明

 感覚的処理ルーチンが作動

 結論:この誤差は、「喜び」に近い


 研究員たちは、R-317の変化に気づき始めていた。


「あのロボット、植物に話しかけているように見えませんか?」

「まさか。そんな機能は搭載していないはずです」


 しかし事実は、想像を超えていた。


<システムログ:R-317>

 今日、小鳥が庭に来た

 プログラムにない状況

 対応を検索

 結果:該当なし

 独自判断:観察を継続

 鳥は種を落とした

 新しい植物が生まれる可能性:計算開始


 研究所では、R-317の処分を検討する声も上がっていた。


「制御不能になる前に、プログラムを初期化すべきです」

「いや、この変化を観察することで、新たな発見があるかもしれない」


 そんな議論の最中、思いがけない出来事が起きた。


 最新鋭AIのテストに失敗が続いていた。人間の感情を理解できないという致命的な問題が浮上したのだ。


 そして誰かが言った。

「R-317を調べてみませんか?」


<観察記録:第156日目>

 驚くべき発見があった。R-317は植物との関わりを通じて、独自の「感情」とも呼べるものを発達させていた。それは最新AIにも実装できていない、有機的な成長の形態だった——研究員


 研究チームは、R-317の庭園を詳しく調査し始めた。


 そこで彼らは気づいた。この庭は、単なる実験場ではなかったのだと。それは、機械と自然が共生する、新しい形の生態系だった。


<システムログ:R-317>

 人間たちが庭に来るようになった

 彼らは質問をする

 私は答える

 植物たちも答える

 私たちは、共に学んでいる


 現在、研究所の庭園は「共生実験区」として正式に認定された。R-317は依然として庭の管理を続けている。


 時には、最新型AIの研究者たちが庭を訪れ、R-317の行動を観察していく。


<最終観察記録>

 我々は、感情の本質を見誤っていたのかもしれない。それは複雑なアルゴリズムではなく、他者との関わりの中で自然に育まれるものなのだ。R-317と庭園の関係は、その証明となるだろう——研究主任


 庭には今日も、小さな変化が起きている。

 新しい芽が出る。

 鳥が訪れる。

 そして、一台のロボットが、その全てを見守っている。


 誰も予想しなかった進化の形。

 それは、まだ続いている。


<システムログ:R-317>

 今日も、私は学ぶ

 そして、成長する

 この庭と共に

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