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いろんなショートストーリー集  作者: 霧崎薫


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「忘れられた地球」(SF)

 船が、静かに降下していく。


 目の前に広がるのは、青く輝く惑星――**地球**。


 だが、今そこにいるのは、**地球人ではない**。



「大気は安定、重力1.0G……理論上、生命維持可能です」


 機内アナウンスが流れる。宇宙考古学者のアヤ・ハシモト博士は、緊張した面持ちで窓の外を見つめた。


「……本当に、地球なのか?」


 5000年もの間、地球は忘れ去られていた。


 歴史の記録から抹消され、誰もが存在すら疑問に思うようになった。地球に関する文献はすべて「虚構」だとされ、人類は銀河へと広がりながらも、二度とこの星を訪れなかった。


 なぜか?


 ……それは、「地球消失事件」と呼ばれる出来事のせいだった。



 5000年前、突如として地球の座標が消失した。


 銀河連邦のどの星図からも、地球の記録は削除され、すべての航行ルートから「不可侵領域」として認識された。


 しかし、なぜそんなことが起こったのか、正確に知る者はいない。


 地球を知る人類は、すでにこの宇宙には存在しないのだから。



「博士、着陸します」


 機体が静かに大気圏へ突入する。


 船窓から見下ろす地表は、緑が生い茂り、透き通るような青い海が広がっていた。


「……驚いたな」


 誰もいないはずの地球は、完璧に生きていた。


 森があり、川があり、そして――


 **人間がいた。**



「なぜ……? どうして人間が……?」


 着陸後、博士たちは現地調査を開始した。


 すると、信じられないことに、そこには原始的な集落があり、動物を狩り、火を使い、言葉を話す人々がいた。


 彼らは、5000年前に宇宙へ進出した「人類」とまったく同じDNAを持っていた。


 では、彼らはどこから来たのか?


 宇宙へ進出した人類は、地球を捨てたはずではなかったのか?



 調査を進めるうちに、博士たちはひとつの仮説に行き着く。


 それは――**地球が時間を巻き戻した**、というものだった。


 何らかの原因で、地球上の時間は5000年前にリセットされていた。


 人類が宇宙に旅立ったその瞬間、地球は「生き直し」を選び、すべてを初期化したのだ。


 だが、それは誰の意思によるものだったのか?


 自然現象か? それとも、地球自身の……?



「もしかすると、人類がこの星を捨てたとき、地球は……」


 博士は空を仰ぐ。


 風が吹き、森がざわめき、どこからか鳥の鳴き声が響く。


 ――この星は、もう一度やり直したのだ。


 人類が「未来」を選んだとき、地球は「過去」を選んだ。


 5000年の間に、人類は星々へと広がり、文明を築いた。


 だが、地球に残った者たちは、5000年前の姿のまま生きていた。


 それは、人類が「進化」の道を選び、地球が「回帰」の道を選んだということなのかもしれない。



「……博士、どうしますか?」


 調査隊のメンバーが尋ねる。


 博士は少し考え、それから静かに言った。


「ここに、何も残してはいけない」


「え?」


「地球は、我々を拒んでいる。この星に関する記録は、再び封印するべきだ」


「そんな……!」


 だが、博士の決意は揺るがなかった。


 この星は、人類が触れてはいけないものだった。



 宇宙船が地表を離れ、再び闇の中へと消えていく。


 船窓から見える青い惑星は、何も知らぬ顔をして、ただ静かに輝いていた。


 ――地球は、**自分自身を守るために時間を巻き戻した**のだ。


 それは、人類に対する最後の警告だったのかもしれない。


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