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「夏のあとさき」(青春)


 蝉の声がうるさいほど響いている。


 教室の窓から見える空は、どこまでも青かった。


「なあ、覚えてる?」


 隣の席の宮沢が、ふと私に話しかけた。


「何を?」


「去年の夏のこと」


 私は、手の中のシャープペンを回しながら考える。去年の夏――つまり、高校二年の夏だ。


「……何かあったっけ?」


「やっぱり覚えてないのか」


 宮沢は少し寂しそうに笑った。



 去年の夏、私は宮沢と付き合っていた。


 部活帰りにコンビニでアイスを買って、公園のベンチで溶けかけたそれを食べたり、二人で海へ行こうと計画を立てたり――。


 だけど、結局、私はその約束を果たせなかった。


 宮沢が、突然、転校したからだ。



 「夏のあとさき」という言葉がある。


 夏が終わってから、その意味を知ること。


 あの夏、私は宮沢の本当の気持ちを知らなかった。


 だから、こうして彼が目の前にいることが信じられない。



「……宮沢、なんで戻ってきたの?」


 彼は少しだけ笑って、黒板のほうを見た。


「さあ。でも、もう一度やり直せるかなって思って」


「やり直す?」


「うん。俺たちの、あの夏を」


 その言葉が、教室の中に静かに沈んでいく。


 窓の外では、蝉が鳴いていた。


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