「選択肢のない世界」(SF)
目が覚めると、目の前に**選択肢**が浮かんでいた。
**▶ ベッドから出る**
**▶ もう少し寝る**
何だこれは?
私は目をこすりながら、宙に浮かぶ二つの文字列を見つめた。どちらかを選べということだろうか。
試しに「ベッドから出る」を頭の中で強く思った。
瞬間、私は何の躊躇もなく布団を蹴り、起き上がっていた。
――え?
自分の意思で動いたはずなのに、そうではないような奇妙な感覚が残る。
夢か? いや、そんなはずはない。これは現実だ。
◆
洗面所の鏡を見ると、また選択肢が現れた。
**▶ 歯を磨く**
**▶ 顔を洗う**
ぞっとした。
選択肢を選ぶまでは、私は動けない。
試しにじっとしていると、数秒後には**「時間切れ」**と表示され、自動的に「歯を磨く」が選ばれた。私は歯ブラシを手に取り、機械的に歯を磨き始める。
手の震えが止まらない。
◆
出社すると、同僚の佐々木が話しかけてきた。
「昨日のプロジェクトの件、どう思う?」
彼の言葉と同時に、また選択肢が出る。
**▶ 良いアイデアだと思う**
**▶ 問題点があると思う**
私は恐る恐る「問題点があると思う」を選んだ。すると、口が勝手に動き、私の意思とは関係なく言葉が出た。
「うーん、ちょっとリスクがあるかもね」
佐々木は頷きながら「なるほど」と答える。普通の会話のように見えるが、これは私の意思なのか?
私は試しに、**何も選ばない**ことを試みた。
……数秒後。
**「時間切れ」**
次の瞬間、私の口が勝手に開いた。
「良いアイデアだと思うよ」
違う。私はそう言うつもりではなかった。でも、私の体は私のものではないように、勝手に動く。
◆
何かがおかしい。
もしかして、これまでの人生もすべて、**選択肢の結果**に過ぎなかったのでは?
私が好きになった食べ物、進んだ学校、付き合った恋人……すべて、実は目に見えない「選択肢」に導かれていたのでは?
私は自由に生きてきたと思っていた。
でも、それはただ「選ばされた」だけなのではないか?
◆
帰宅すると、画面が変わった。
**「重要な選択肢です」**
……何だ?
文字が表示される。
**▶ この世界の真実を知る**
**▶ 何も知らずに生きる**
私は、震えながら「この世界の真実を知る」を選んだ。
◆
視界が暗転する。
どこかで、機械の音がする。
気がつくと、私は透明なカプセルの中にいた。周囲には、私と同じように眠る人々が何百人も並んでいる。
目の前に、画面が浮かび上がる。
**「あなたは、選択肢を持たない人類実験の被験者です」**
私は、実験されていた?
画面は続ける。
**「人間の意思決定プロセスを最適化し、ストレスを軽減するシステムを開発するため、あなたの選択を誘導していました」**
私は、自分で決めているつもりで、実は決めさせられていた?
それは、私だけなのか? それとも――
ふと、画面が消え、代わりに最後の選択肢が現れた。
**▶ 実験を終了し、現実世界へ戻る**
**▶ 実験を継続する**
私は、何も選ばなかった。
すると、数秒後――
**「時間切れ」**
視界が暗転し、目が覚めた。
カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。
**▶ ベッドから出る**
**▶ もう少し寝る**
私は、静かに目を閉じた。
(終)




