「交錯する視線」(現代ファンタジー)
雨上がりの朝、虹が架かった。
その瞬間、五人の人生が交錯する。
### 1. 写真家の桜井
桜井は虹を見上げ、シャッターを切った。
「完璧だ」
しかし、ファインダーから目を離した瞬間、彼は違和感を覚えた。虹の色が、通常とは逆の順序で並んでいたのだ。
「まさか……」
彼は慌てて写真を確認する。そこには、確かに逆順の虹が写っていた。
### 2. 小学生の美咲
「わあ、きれい!」
美咲は虹を指さし、母親に声をかけた。しかし、母の反応は予想外だった。
「どこに虹があるの? 見えないわ」
美咲は不思議そうな顔をする母親を見て、首を傾げた。
### 3. 清掃員の田中
田中は早朝の公園を掃除していた。虹を見上げ、一瞬だけ手を止める。
「ああ、また始まるのか」
彼は深いため息をつき、掃除を再開した。周囲の景色が少しずつ歪み始めているのに、誰も気づいていない。
### 4. 会社員の佐藤
佐藤は急ぎ足で駅に向かっていた。虹なんて見ている暇はない。
そんな彼の足元で、影が揺らめいた。
「え?」
驚いて立ち止まると、自分の影が虹色に輝いているのに気がついた。
### 5. 老婦人の吉田
吉田は公園のベンチに座り、虹を眺めていた。
「あら、また来たのね」
彼女は優しく微笑む。周囲の人々が慌ただしく行き交う中、彼女だけが穏やかな表情を浮かべていた。
### 交錯
五人の視線が交差した瞬間、世界が一瞬静止する。
桜井のカメラから、光が溢れ出す。
美咲の目に映る虹が、現実世界に投影される。
田中の掃除用具が、歪んだ景色を元に戻していく。
佐藤の影が地面から浮かび上がり、彼を包み込む。
吉田は立ち上がり、まるで全てを見通すかのような眼差しを向ける。
「皆さん、気づきましたか?」
吉田の声が、不思議な力を持って響く。
「私たちは、境界線上にいるのです」
その言葉と共に、世界の輪郭がぼやける。
桜井は自分の写真が現実を変えていることに気づく。
美咲は、自分にしか見えない世界があることを理解する。
田中は、自分が世界の均衡を保つ役割を担っていたことを悟る。
佐藤は、影の中に隠された別の自分と対面する。
そして吉田は、この全てを見守る存在だったことを明かす。
「私たちは皆、現実と非現実の狭間にいるのです。そして今、その境界線が揺らいでいる」
五人は互いを見つめ合う。それぞれの目に、驚きと理解の色が浮かぶ。
「さあ、選択の時です。この世界をどうしますか?」
吉田の問いかけに、誰も即答できない。しかし、彼らの心の中で、何かが確実に変化し始めていた。
虹は依然として空に架かったまま。しかし今や、それは単なる自然現象ではなく、世界の秘密を映し出す鏡となっていた。
五人の選択が、この先の世界を決定づける。
そして、新たな物語が始まろうとしていた。




