「星の欠片と僕の居場所」(青春ドラマ)
夜空に輝く星々が、いつもより近く感じられる夜だった。都会の喧騒から離れた田舎町の丘の上、僕、佐藤悠斗は寝転がって空を見上げていた。十六歳の夏休み。学校も友達も、全部が遠くに感じるこの場所で、ただぼんやりと星を数える時間が好きだった。
「悠斗、またここにいるのかよ」
背後から声がして、振り返ると幼馴染の美咲が立っていた。彼女はジーンズに白いTシャツ、手には懐中電灯。少し呆れたような笑顔を浮かべている。
「だって、ここが一番落ち着くんだもん。美咲だって来るじゃん」
「まあね。でもさ、毎晩毎晩星ばっかり見てて飽きないの?」
彼女は僕の隣に腰を下ろし、同じように空を見上げた。確かに、星を見るのは毎日の習慣だった。でも、それには理由があった。僕はずっと、自分の居場所を探していた。学校では目立たない存在で、友達はいるけど本音を話せる相手はいない。家族とも、なんとなく距離がある。そんな僕にとって、この丘と星空だけが、心を落ち着けてくれる場所だった。
美咲は少し黙ってから、ポケットから小さな石を取り出した。月明かりに照らされると、それはキラキラと光った。まるで星の欠片みたいに。
「これ、今日川で拾ったんだ。きれいでしょ?」
「うわ、すげえ! 本当に星みたいだね」
僕が目を輝かせると、美咲は得意げに笑った。彼女はいつもこうやって、僕の興味を引く何かを見つけてくる。幼い頃からずっと一緒で、彼女がいれば退屈なんてしない。でも、この夏、彼女が少し遠く感じる瞬間が増えていた。美咲は進学校を目指して勉強に励んでいる。一方、僕はまだ将来のことなんて考えられない。そんな差が、僕を不安にさせていた。
次の日、僕らは川辺でその「星の欠片」を探すことにした。美咲が言うには、あの石は特別で、もしかしたらもっとあるかもしれないって。暑い日差しの中、冷たい水に足を浸しながら、僕らは石を拾っては笑い合った。
「悠斗、こっち見て! この石、ちょっと光ってるよ!」
「マジで? やばいね、それ!」
美咲が持つ石は、確かに微かに輝いていた。僕らは夢中になって、気づけば夕方になっていた。籠には小さな光る石がいくつも入っていて、まるで宝物を集めたみたいだった。でも、その時、ふと美咲が真剣な顔で言った。
「ねえ、悠斗。高校卒業したら、私、都会に出るつもりなんだ」
その言葉に、僕は手を止めた。頭ではわかっていた。彼女が進学校に行くなら、いつかこの町を出るだろうって。でも、心のどこかで、それを聞きたくなかった。
「……そっか。すごいね、美咲」
精一杯笑顔を作ったけど、声が少し震えた。美咲は僕を見て、少し目を伏せた。
「悠斗はどうするの? ずっとここにいるの?」
「わかんない。僕、将来のこととか全然考えられなくてさ……」
本当は、彼女がいなくなったら、この町にいる意味すら見失いそうだった。でも、そんな弱音を吐く勇気はなくて、ただ黙って石を握り潰すように手に力を入れた。
それから数日、僕と美咲は少しぎこちなくなった。丘に登る回数も減って、星空を見てもどこか寂しかった。ある夜、ひとりで丘に座っていると、空に流れ星が落ちた。思わず手を伸ばして、願い事を呟いた。
「僕の居場所が、見つかりますように……」
その時、遠くから足音が聞こえてきた。美咲だった。彼女は手に籠を持って、少し息を切らしていた。
「悠斗! これ見て!」
籠の中には、僕らが集めた光る石がぎっしり。しかも、全部を紐でつないで、星座みたいに形作ってあった。オリオン座だ。僕が一番好きな星座。
「え、なにこれ……めっちゃすごいじゃん!」
「でしょ? 悠斗が星好きだからさ、作ってみたんだ。どうかな?」
美咲の笑顔を見て、胸が熱くなった。彼女は僕のことを、ちゃんと見てくれている。それだけで、ずっと抱えていた不安が少し溶けた気がした。
「ありがとう……本当に嬉しいよ」
「悠斗、私が都会に行ってもさ、こうやって会いに来るから。絶対だよ」
その言葉に、僕は初めて素直に頷けた。彼女が遠くに行っても、僕らの絆は変わらない。そう信じられる瞬間だった。
夏休みが終わる頃、僕らは丘で最後の夜を過ごした。星空の下、オリオン座の石を手に持って、未来の話をした。美咲は夢を追いかける決意を、僕は自分のペースで進む覚悟を、少しずつ語った。
星の欠片は、僕にとってただの石じゃなくなっていた。それは美咲との絆であり、僕の居場所を示す光だった。将来がどうなるかはわからない。でも、この丘と彼女がいる限り、僕は前に進める気がした。
夜空にまた流れ星が光った。僕らは同時に笑って、同じ願いを込めた。
「またここで会おうね」




