「古城の鍵」(現代ドラマ)
古びた石造りの城壁に囲まれた中庭は、朝霧に包まれていた。石畳の隙間からは、湿った土の匂いが立ち上り、遠くで鳴る馬車の車輪の音が微かに響く。門の脇には錆びた鉄の鍵が落ちており、その表面には古い紋章が刻まれている。城の窓辺には、一羽のカラスが止まり、鋭い目で中庭を見下ろしていた。
「こんな古城に何の用があるんだ?」
中庭に立つアキラが、マントの裾を払いながら呟いた。彼の声は霧に吸い込まれるように小さく響く。
「殿下がここで何かを隠したって噂だよ。調べないわけにはいかないだろ」
石畳に膝をつけたナツメが、手に持った羊皮紙を広げた。彼女の指先には、さっき拾った小さな石が握られている。
「隠したって、何をだよ? 宝でも埋まってんのか?」
アキラが笑うと、ナツメは眉を上げて彼を見た。
「宝かどうかはわかんないけど、この鍵が何か関係してるはずだよ」
彼女が地面の鍵を拾い上げると、カラスが突然鳴き声を上げ、翼を広げて飛び去った。アキラが肩をすくめた。
「カラスくらいでビビるなよ。さあ、見つけるぞ」
二人は城の入り口へと歩き出した。
昼が近づき、霧が薄れる中、古城の内部は冷たく静まり返っていた。アキラは石壁に手を当て、ナツメは羊皮紙に記された地図を頼りに廊下を進む。鍵を手に持つ彼女の足音が、石畳にこだまする。
「この紋章、見覚えあるんだよな。昔、親父が話してた家紋に似てる」
アキラが呟くと、ナツメが立ち止まった。
「家紋ってことは、殿下の親族が絡んでるのかもね。この鍵、どこかで使えそうだよ」
彼女が鍵を掲げると、近くの扉に小さな鍵穴が目に入った。アキラが近づき、扉を叩いた。
「ここか? 開けてみようぜ」
ナツメが鍵を差し込むと、カチリと音がして扉が開いた。中には狭い部屋があり、中央に古い木箱が置かれている。箱の蓋には、同じ紋章が彫られていた。
「何!? これ、隠し部屋じゃないか?」
アキラが興奮して言うと、ナツメが慎重に箱に近づいた。
「開ける前に落ち着いて。罠があるかもしれないよ」
その時、カラスが窓から再び現れ、鋭い鳴き声を上げた。
夕暮れが迫り、古城に長い影が伸びていた。アキラとナツメは木箱の前に座り、その蓋を慎重に開けた。中には、古びた手紙と小さな石が入っている。手紙には、かすれた文字で「我が子へ」と書かれていた。
「殿下が子に宛てた手紙? でも、この石って何だよ?」
アキラが石を手に持つと、ナツメが羊皮紙を再び広げた。
「待って、この石、私が拾ったのと同じ形だよ。見て、ここに書いてある」
羊皮紙の隅に、石のスケッチと「真実の鍵」という言葉が記されていた。アキラが目を細めた。
「真実って何だ? 手紙に何か書いてあるのか?」
ナツメが手紙を読み始めると、声が震えた。
「『我が子よ、城を去る時が来た。だが、真実をこの石に託す。紋章の血を守れ』だって」
その時、カラスが再び鳴き、部屋の壁が微かに揺れた。アキラが立ち上がった。
「何か来るぞ! 早く出よう!」
だが、ナツメが石を手に持った瞬間、壁の一角が動き、隠し扉が現れた。
夜が訪れ、古城は月光に照らされていた。隠し扉の先には、狭い階段が地下へと続いている。アキラとナツメが下りると、そこには石碑が立っていた。碑には紋章と「血の継承者へ、真実を手にせよ」と刻まれている。アキラが息を呑んだ。
「これって……俺の先祖が殿下だったってことか?」
ナツメが頷き、手紙と石を彼に渡した。
「多分ね。この石が証拠だよ。殿下が子孫に遺したものなんだ」
アキラが石を握ると、石碑が光り、紋章が浮かび上がった。ナツメが微笑んだ。
「真実って、君の血筋だったんだね。私、見届けて良かったよ」
二人が階段を上がると、カラスが一鳴きして飛び去った。
朝が訪れ、古城は再び静寂に包まれていた。中庭の石畳には、錆びた鍵が落ちている。霧が晴れ、遠くで馬車の音が響き、カラスが空を舞っていた。アキラとナツメの足跡が石畳に残り、風がそれをゆっくり消していく。そして、鍵の紋章が、朝日を受けてかすかに輝いた。




