『監視カメラの死角』(サスペンス)
深夜のセキュリティルームは、モニターの青白い光だけが頼りだった。12台の監視カメラが映し出す映像の中で、地下駐車場だけが妙に暗い。デジタル表示は午前2時を指している。警備主任の私は、手元の警備日誌に目を落とした。
「奥山さん、交代の時間です」
若い警備員が、コーヒーを手に現れた。
「ああ、そうだな」
私は立ち上がりかけて、不意に足を止めた。モニターに映る影が、違和感を覚えさせる。
「何か問題でも?」
「いや、気のせいかもしれん」
私は座り直した。机の引き出しには、未提出の退職届が入っている。
「あれ? 地下のカメラ、おかしくないですか?」
若い警備員が指差す先で、影が不自然に揺れていた。
「巡回してくる」
私は懐中電灯を手に取った。
「でも、規則では二人体制で……」
「見張っていてくれ」
エレベーターに乗り込みながら、私は胸のポケットの中身を確認した。
「了解です。無線、つけておきます」
地下に降りると、空気が妙に重い。蛍光灯は間欠的に明滅している。
「異常なしと……」
その時、後ろで物音がした。
「誰だ!」
振り向くと、黒いスーツの男が立っていた。
「よく来てくれました」
見覚えのある声に、私は息を呑む。
「本部長……?」
「退職届は受理できません」
男は、私の方へゆっくりと歩み寄る。
「なぜなら、あなたは既に……」
「死んでいる……とでも?」
私は苦笑した。胸のポケットから、一枚の古い写真を取り出す。
「3年前の事故の記録です」
写真には、炎上する警備室が写っていた。
「私たちは、あの時……」
「ええ、私も、本部長も」
蛍光灯が、最後の光を放つ。
「だから、この建物を離れられない」
無線から、若い警備員の声が聞こえてくる。
「奥山さん? どうしました?」
私は無線のスイッチを切った。
「新人くんには、まだ早いでしょう」
本部長が頷く。私たちは監視カメラの死角へと消えていった。デジタル表示は、永遠に午前2時を指している。




