『メモリーカプセル』(SF)
研究所の地下室は、青白い光に満ちていた。壁一面のモニターには数値が流れ、中央には円筒形のカプセルが鎮座している。私は白衣の裾を握りしめながら、最後のチェックリストを確認した。デジタル時計は午前0時を指していた。
「森下博士、準備は整いました」
助手の山口が、緊張した面持ちで報告する。彼女の手元では、青いランプが規則正しく明滅していた。
「分かりました。では、手順通りに」
私たちは黙々と作業を続けた。カプセルの中で眠る少女は、まるでビスクドールのように美しい。モニターには「被験者:No.7」という文字が浮かんでいる。
「先生……本当にこれで良いのでしょうか?」
山口の声が震えている。
「人類の記憶を永久保存する。これが私たちの使命よ」
私は答えながら、ポケットの中の写真に触れた。
「でも、彼女の意思は……」
「今更よ。もう引き返せないわ」
カプセルから微かな振動が伝わってきた。予定より早い。私は慌ててキーボードを叩く。
「異常です! 記憶転送レートが急上昇しています!」
警告音が鳴り響く中、少女の指が小刻みに震えた。
「脳波が不安定です。このままでは……」
その時、カプセルの中の少女が目を開けた。
「お母さん……どうして?」
私は凍りついた。その声は、3年前に失った娘の声そのものだった。
「記憶の同期が始まっています。止められません!」
モニターに次々とデータが流れる。少女の――いや、被験者No.7の記憶が、研究所のサーバーへと転送されていく。
「これが私たちの目的だったはず……」
私の声が虚ろに響く。
「記憶は……消えていくの?」
少女の問いかけに、私は答えられない。青いランプが激しく点滅する。
「先生! 被験者の生体反応が……」
突然、全てのモニターが真っ暗になった。そして再び点灯した時、カプセルの中の少女は静かに目を閉じていた。
「転送……完了しました」
山口の声が遠く聞こえる。デジタル時計は午前0時7分を指していた。
「お母さん、私の記憶は……永遠なの?」
サーバーから問いかけてくる音声に、私は答えることができなかった。青いランプは、もう明滅していない。




