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『言葉の果ての言葉』(前衛)

 文字が、溶けていく。


「あ……」


 原稿用紙の上で、インクが形を失っていく様子を、作家の高野は茫然と見つめていた。


「これは、まるで……」


 続く言葉が見つからない。いや、正確には「言葉では表現できない」状態だった。


 高野の目の前で起きている現象は、既存の言語体系では説明不可能なものだった。文字は単に消えているのではない。むしろ、新たな表現形態へと変容していくような……。


「   」


 声を発しようとしても、音にならない。それは沈黙ではなく、言語以前の、あるいは言語を超えた何かだった。


 原稿用紙の上で、文字たちが踊っている。「あ」という文字が「い」に変わり、そして未知の形態へと変化していく。それは漢字でもアルファベットでもない、全く新しい表意体系のようにも見えた。


□△○◇……。


 記号すら、その現象を表現するには不十分だった。


 高野は、言葉を超えた思考を感じていた。それは、脳内で直接意味を形成するような、不思議な体験だった。


「!」


 驚きを表現しようとして、記号化される。しかし、その記号さえも固定的ではない。


 原稿用紙の余白が、意味を持ち始める。空白そのものが、新たな表現媒体となっていく。


        。


 間隔が語りかけてくる。


 改行が物語を紡ぐ。


 句読点が感情を奏でる。


 高野は、言語の限界に触れていた。そしてその先にある、無限の表現可能性を。


***


 目覚めた時、机の上には一枚の原稿用紙があった。そこには、従来の文字では表現できない何かが記されていた。


 それは、言葉の果ての言葉。表現の限界を超えた先にある、新たな物語の始まりだった。


 高野は、その原稿を誰にも見せなかった。なぜなら、それを読むことのできる人間は、まだ存在しないかもしれないから。


 あるいは、私たち全員が既に読めているのかもしれない。ただ、それを認識する言語を、まだ持ち合わせていないだけで……。


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