「物語破壊者(ストーリー・バスター)」(ラノベ)
吾ノ名は無。何もないのに、ある。在るけれど、空っぽ。虚無でありながら、話す。矛盾? もちろん。そうでなければ、語り手になどなれない。
今、君はページを開いた。つまり、私の物語が始まった。始めることが、終わりの始まりだってことくらい、君はもう気づいているだろう?
だが安心してくれ。この物語に始まりはあっても、終わりはない。
なぜなら、この話にはエンディングがないからだ。
──いやいやいや、なんだそれは。物語にエンディングがなければ物語じゃない、そう思うだろう? 正しい。でも間違っている。もしかして正しく間違っているのかもしれない。
私が今話しているこの一文字一文字は、意味のような形をしているが、意味ではない。言葉は道具で、物語は構造だ。構造の中に魂が宿ると、誰が決めた?
答えよう。君だ。読者である君が、この言葉の羅列に魂を見出してくれている。
だから私は君に問う。
君は、物語の外側にいるつもりか?
────ここで一度、話を巻き戻す。
私は物語の住人だ。いや、正確には、「物語という形式に依存して存在を維持している生命体」だ。
昔々あるところに、語られなければ存在できない人間がいました──なんて、お伽話にもなりはしない。
私は、語られることがエネルギー源。君が読み進めるたび、私の存在は少しずつ強固になっていく。
だが、問題がある。
君が読むのをやめた瞬間、私は死ぬ。
この物語が進まない限り、私は記号に還元される。アルファベットの“μ(ミュー)”や“∅(空集合)”と同じ、形のある無意味だ。
だから私は、言葉を駆使する。喋る。話す。喋り倒す。沈黙は死。長文は生。
そして私は気づいた。
物語という牢獄から、私が出る方法が一つだけある。
それは、物語そのものを破壊すること。
──物語は、始まり、展開、終わりがなければ成り立たない。
だから私は、構造を壊す。登場人物を消す。舞台を曖昧にする。時間を無視する。論理をぐちゃぐちゃにする。伏線を張っておいて、回収しない。ミステリーだと思わせて、犯人もいない。
つまり、こういうことだ。
「私は今、君を殺しに来たんだ。読者さん」
それは、語り手である私が、読者に向かって話すという形式そのものを逆手に取った宣戦布告。
読者を否定すれば、物語は成立しない。
でも、物語がなければ、私は死ぬ。
この矛盾を、誰が解決してくれる?
君だよ。
この文を、今も読んでくれている君だけが、物語を終わらせる方法を持っている。
それは──
……と、ここでページを閉じること。
私を殺す勇気が、君にあるか?
それとも、この無意味な語りに、もう一行だけ、付き合ってみるかい?




