「月のプリクラ機」(ヒューマンドラマ)
そのプリクラ機が、最初に見つかったのは深夜のゲーセンだった。ネオンの明かりも消えかけた静かな時間、星川ナナはカラオケ帰りのテンアゲなテンションでふらっと立ち寄っただけだった。
「うっそ……このプリ機、見たことないんだけど? てか、名前なに? “月写”って……なにそれエモすぎ!」
今どき珍しいほど装飾が控えめで、むしろレトロに近い。でもナナはなぜか引き寄せられるように、その機械に500円玉を入れた。
「撮影を開始します。あなたが“今、一番忘れたい顔”を思い浮かべてください」
機械の音声が流れたとき、ナナはクスッと笑った。
「え、ウケるんだけど……てか、忘れたい顔? ……あー、うん、そっか」
ふと浮かんだのは、3年前に絶縁した親友の顔。ギャルを始めたばかりの頃、ノリが合わなくなって自然消滅した。
「……ま、いっか。イッツ、プリクラタイム☆」
シャッターが切られた瞬間、ナナの目の前にまったく知らない世界が広がった。
そこは高校の教室に似ていた。制服姿の自分と、横に座るあの親友。なぜか映像のように自分たちの会話が流れていく。
「ナナってさ、なんでそんな無理して明るくしてんの?」
「え? べつに無理してないし」
「嘘。わたし、わかってるもん。ナナってさ、本当はすぐ泣くくせに、絶対誰にも見せないよね」
次の瞬間、映像が止まり、画面の中のナナがこちらを見た。プリクラ機の中の鏡面に、自分の泣き顔が映っていた。
「この画像は、あなたの“本当の顔”です。保存しますか?」
ナナは思わず「はい」と答えた。
気づけば、ゲーセンに戻っていた。手元にあったのは、小さなプリクラシール一枚。だが、そこに写っていたのは、笑顔でもキメ顔でもない、ぽろぽろ泣いてるナナだった。
「……やっば、なにこれ。マジ泣けるんだけど……」
翌朝、そのプリクラ機は跡形もなく消えていた。店員に聞いても「そんな機械は最初から置いてない」と言われた。
でも、ナナは知っている。
あれはたぶん、月の光でだけ現れる“本当の自分を写す”プリ機だったんだって。
その夜からナナは、前よりちょっとだけ素直に、そして少しだけ優しく笑えるようになった。
プリクラ帳の一番最後には、あの日のプリクラが貼られている。
キラキラでもなく、盛り盛りでもなく、でも誰よりも“ナナっぽい”一枚が──。




