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いろんなショートストーリー集  作者: 霧崎薫


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202/237

「静寂の箱庭」(ホラーヒューマンドラマ)


 **——静けさの中に、真実は隠れている。**


 


 彼女の世界は、**「音のない庭」**だった。


 


 **桐生奈緒きりゅう なお**は、都会の喧騒から逃れるように、郊外の古びた洋館へと引っ越してきた。


 


 「ここなら、静かに暮らせそうね。」


 


 屋敷の周囲には、広大な庭園が広がっていた。薔薇、紫陽花、百合……さまざまな花々が、季節の移ろいを静かに物語っていた。


 


 **——ただし、その庭には、一つの奇妙な掟があった。**


 


 **「夜明け前には、決して庭に足を踏み入れてはならない。」**


 


 


### **《無音の時間》**


 


 奈緒は、この屋敷で静寂を愛していた。


 


 昼間は、庭で読書をし、鳥のさえずりを遠くに聞きながら、心を癒していた。


 


——だが、夜になると、**「何か」**が変わるのだった。


 


 


——風が止まり、虫の声すら聞こえなくなる。


——まるで世界そのものが、音を失ったかのように。


 


 「……変ね。」


 


 


 ある夜、奈緒はふと庭を見つめていた。


 


 月明かりが降り注ぐ庭は、美しくも不気味だった。


 


 だが——


 


 **「誰か、いる……?」**


 


 暗闇の中、庭の奥に、微かな「気配」を感じたのだ。


 


### **《消えた少女》**


 翌日、奈緒は村の図書館で、この屋敷の過去を調べた。


 


 そこで彼女が見つけたのは、**20年前の新聞記事**だった。


 


 **『桐生家の娘、庭で失踪——未だ行方不明』**


 


 


 「……桐生家?」


 


 それは、自分の名字と同じだった。


 


 


 記事によれば——


 


 **桐生美咲**という少女が、ある夜、この庭で姿を消したというのだ。


 


 彼女の消息は、今も不明のままだった。


 


### **《不安の影》**


 奈緒の中で、不安が膨らんでいった。


 


 **「私は……この家で何を見ているの?」**


 


 


——夜明け前には、決して庭に足を踏み入れてはならない。


 


 その掟が、奈緒の心を苛んでいた。


 


 


 **だが、ある夜——奈緒は、その禁を破った。**


 


### **《禁じられた庭》**


 


 時計の針が、**午前4時**を指していた。


 


 奈緒は、薄闇に包まれた庭へと足を踏み入れた。


 


——そこは、まるで別世界のようだった。


 


 


——花々は、音もなく揺れ、月の光は異様な輝きを放っていた。


——そして、その奥には——


 


 **「誰か、いる……?」**


 


 


 奈緒の目の前に立っていたのは——


 


——**自分と瓜二つの少女だった。**


 


 


### **《鏡の向こうの私》**


 


 「……あなた、誰?」


 


 奈緒の声は震えていた。


 


 


 **「私は……美咲。」**


 


 


 その少女は、20年前に失踪したはずの桐生美咲だった。


 


 


 「ここは……『箱庭』よ。」


 


 美咲の声は、どこか遠くから響いているようだった。


 


 「あなたが入ってきたことで……私も、外に出られる。」


 


——奈緒は、凍りついた。


 


### **《真実の扉》**


 


 **「入れ替わる……?」**


 


 


 美咲の目が、奈緒を見つめていた。


 


 


 「ここは、**『時間が閉じ込められた場所』**なの。」


 


 


 「夜明け前に庭に足を踏み入れた者は……**『過去の影』**と入れ替わる。」


 


 


——奈緒は、震えながら後ずさった。


 


 「私……戻れるの?」


 


 美咲は、静かに首を横に振った。


 


 **「あなたがここに残れば、私が……外に戻れる。」**


 


——それは、20年前に閉じ込められた少女の、**「願い」**だった。


 


### **《選択の瞬間》**


 


 奈緒の心は、激しく揺れた。


 


——もし、自分がここに残れば、美咲は自由になれる。


——だが、その代わり、自分は永遠に「箱庭」に閉じ込められる。


 


 


 **「……私は、どうすればいいの?」**


 


 


——その答えは、夜明けとともにやってきた。


 


### **《最後の朝》**


 


 朝日が庭に差し込む瞬間——


 


 **奈緒は、美咲に手を伸ばした。**


 


 


 「……行って。」


 


 


——その瞬間、美咲の姿は、柔らかな光に包まれた。


 


 


 **奈緒は、微笑んだ。**


 


 「私は、ここに残るよ。」


 


——そして、彼女の姿は、庭の中に静かに消えていった。


 


### **《静寂の箱庭》**


 


 朝日が昇る頃、庭には、何もなかった。


 


 


——ただ、風に揺れる花々だけが、静かに語りかけていた。


 


 


 **「ありがとう……奈緒。」**


 


——そして、その静寂の中で、**美咲は新しい人生を歩み始めた。**


(了)


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