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いろんなショートストーリー集  作者: 霧崎薫


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『種を運ぶ風』(現代ファンタジー)

 私は魔法使いの見習いだった。ただし、一般的な魔法使いとは少し違う。私たちの一族は「種の魔法使い」と呼ばれ、植物の種に宿る魔力を扱う。


「桜子、今日は大切な儀式の日よ」


 師匠の言葉に、私は緊張して背筋を伸ばした。


「はい、月下さま」


 月下師匠は、私たちの村で最も優れた種の魔法使いだ。彼女の手のひらには、一粒の小さな種が載っていた。


「これは千年桜の最後の種。今夜、月の光を浴びせて、魔力を覚醒させるの」


 千年桜は、私たちの魔法の源とも言える神聖な木だった。しかし、百年前の大災害で、ほとんどが失われてしまった。


「でも、どうして今まで?」


「種には、目覚めるべき時があるの。そして、その時が来たわ」


 師匠の瞳が、夕暮れの空のように深い色を帯びた。


 儀式の準備は厳かに進められた。聖なる泉の畔に、水晶の台座が置かれ、その上に種が安置された。


「桜子、あなたにも手伝ってもらうわ」


 私は驚いて師匠を見上げた。


「私にですか? でも、私はまだ見習いで……」


「あなたには、特別な才能がある。それに、この種も、あなたを選んだのよ」


 確かに、台座の上の種が、かすかに光を放っているように見えた。


 夜になり、月が昇り始めた。私たちは種を囲んで、古い詠唱を始めた。すると、思いがけない来訪者が現れた。


「その儀式は、中止していただきます」


 現代魔法科学研究所の白衣を着た男性が、助手たちを従えて現れた。


「魔法の研究は、もはや伝統的な方法では限界です。この種は、我々の研究所で科学的に解析させていただきます」


「それは許されません」


 師匠が毅然と答えた。


「現代の魔法は、科学と融合することで進化しています。伝統に固執する必要はないのです」


 研究員の言葉に、私は複雑な思いを抱いた。確かに、科学的な魔法の研究は、多くの成果を上げている。でも……。


 その時、種が強く輝き始めた。


「あっ!」


 私の声と共に、種から光の筋が放たれた。それは月の光と交差し、美しい光の網目を空に描いた。


「これは……」


 研究員も、息を呑んで見上げている。


 光の網目は、ゆっくりと地上に降り始めた。それは、まるで目に見える風のようだった。


「桜子、種が語りかけてきたでしょう?」


 師匠の問いに、私は頷いた。確かに、心の中で小さな声が響いていた。


「種は、両方を望んでいます。伝統の力と、新しい知恵を」


 私の言葉に、研究員と師匠が驚いた顔を見合わせた。


 光の風は、大地に触れると無数の小さな光の粒となって散っていった。そして驚くべきことに、その一つ一つから、小さな芽が生まれ始めた。


「これが、千年桜の真の力……」


 師匠が感動に震える声で言った。


「科学では説明できない現象です。しかし、この過程を研究することで、新たな発見があるかもしれません」


 研究員の声には、もはや強圧的な調子はなかった。


 私は、光の粒が地面に溶け込んでいく様子を見つめながら理解した。種は、対立を望んでいなかった。新しい命は、古いものと新しいものの調和から生まれるのだと。


「月下さま、研究所の方。私たち、力を合わせませんか?」


 私の提案に、両者は少し戸惑ったように見えた。しかし、やがて二人とも静かに頷いた。


 その夜から、私たちの村は少しずつ変わり始めた。研究所の一部が村に移転し、伝統的な魔法と科学的な研究が共存することになった。


 そして春、最初の千年桜が花を咲かせた。その姿は、どこか昔のものとは違っていたが、確かに魔法の力を宿していた。


「これが、私たちの新しい伝統の始まりね」


 師匠の言葉に、私は心からの笑顔で頷いた。種は、私たちに大切なことを教えてくれたのだ。

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