「春の骨」(ポストアポカリプス)
空は、薄く白い。
風が吹く。
砂が舞う。
世界は、すでに終わっていた。
***
歩いている。
裸足の足が、乾いた地面を踏む。
靴はとうに失くした。
小さな影が、ゆっくりとついてくる。
**少女**。
名は、知らない。
声も、知らない。
ただ、ついてくる。
彼女の足音だけが、風の中に響いている。
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### **1. 町**
町が見えた。
死んだ町。
崩れた建物。
黒い骨のように残った電柱。
彼は、少女を振り返る。
「待っていろ」
少女は頷く。
彼は、町へ入る。
風が吹く。
空が白い。
**静寂。**
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### **2. 骨**
町には何もない。
食べ物はない。
水もない。
彼は、瓦礫の間で小さな骨を見つける。
**人間の骨だ。**
それを拾う。
手のひらの上で転がす。
風が吹く。
骨は乾いている。
---
### **3. 春**
町を出る。
少女が、そこにいる。
待っていた。
じっと、待っていた。
「何もなかった」
彼は言う。
少女は、ただ頷く。
その手に、何かを持っている。
**小さな花だ。**
白くて、儚い。
「どこで?」
彼は問う。
少女は、静かに指さす。
町の外れ。
風が吹く。
砂が舞う。
春が、そこにあった。
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### **4. 骨と花**
彼は、骨を置く。
少女は、花を置く。
風が吹く。
骨と花が、並んでいる。
どちらも、軽い。
どちらも、壊れそうだった。
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### **5. 行く先**
歩き出す。
少女も、ついてくる。
風が吹く。
空は、薄く白い。
彼は、思う。
この世界は、もう終わった。
だが――
まだ、歩くことはできる。
骨と、花と、春の風の中を。