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「観測者の罪と罰」(SF)


### **1**


 観測することは、世界を変えることである。


 物理学において、「観測問題」は古くから議論されてきた。量子力学では、観測行為そのものが粒子の状態を決定するとされる。つまり、**私たちは世界をただ眺めているだけではなく、そのあり方を決定しているのだ。**


 だが――もしも「人間の存在」そのものが、世界のあり方を変えているのだとしたら?


---


### **2**


 2047年、東京大学理学部の研究チームは、ある画期的な実験結果を発表した。


 **「量子観測効果は、物理現象だけでなく、マクロスケールの現実世界にも影響を与える可能性がある」**


 これは、量子力学の世界に限定されていた「観測による状態決定」が、日常の世界にも適用されることを示唆するものだった。


 つまり――人が何かを「見る」ことによって、世界そのものが変化し得る、ということだ。


---


### **3**


 政府は、直ちにこの研究に秘密指定をかけた。


 もし、この現象を制御できれば、「**人間の意識によって現実を操作する技術**」が生まれる可能性があったからだ。


 国家機密のもと、極秘プロジェクトが開始された。

 コードネームは **「オブザーバー」**。


 目的は、「観測者」の選定である。


---


### **4**


 観測者として選ばれたのは、物理学者・藤堂慧とうどう・けいだった。


 彼は特殊な装置を用いて、ある対象を観測することで、その事象の状態を変化させることができるとされた。


 試験実験が行われた。


 実験室に置かれたシュレディンガーの猫――本物ではなく、生命反応を模倣する人工生命体だ――を、藤堂が観測する。


 すると、驚くべきことに、装置がランダムに生死を決定するはずの猫は、藤堂の意識に応じた結果を示すようになった。


 「観測する者の意識」が、「観測される現実」を変える。


 彼は、実験が進むにつれ、一つの疑問に囚われるようになった。


 **「では、人間を観測した場合、何が起こるのか?」**


---


### **5**


 実験は次の段階へ移行した。


 ある受刑者が、被験者として選ばれた。


 藤堂は彼を観測する。


 ――存在は、決定される。


 ――だが、もし観測しなければ?


 藤堂は、目を逸らした。


 次の瞬間、受刑者は、そこから「消えていた」。


 人間の消失。


 記録にも、データにも、彼の存在の痕跡は残っていなかった。


 まるで、最初から存在しなかったかのように。


---


### **6**


 それ以来、藤堂は恐怖に囚われるようになった。


 「見る」という行為が、人間の存在を決定する。


 ならば、逆に、「見ない」という行為が、人間の存在を消し去るのではないか?


 彼は、自分の過去を思い出そうとした。


 家族は?

 友人は?


 なぜか、記憶が曖昧だった。


 ――もしかして、自分自身も?


 藤堂は震えながら、鏡を覗き込んだ。


 **そこに映るはずの自分の姿が、徐々に薄れていくのを見た。**


---


### **エピローグ**


 観測することで、世界は決定される。


 だが、それは同時に、観測しなければ存在しない、ということを意味する。


 **我々が信じる「現実」は、本当にそこにあるのか?**


 もしも、誰もあなたのことを見ていなかったとしたら――あなたは、存在しているのだろうか?


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