「能力犯罪法廷」(SF)
「被告人は前へ」
裁判官の声が響く。
法廷には、異様な緊張が漂っていた。
被告人席には、黒髪の青年が立っている。彼の手首には分厚い拘束具がはめられていた。
「では、事件の詳細を確認します」
検察官が淡々と語る。
「被告人、片倉迅は、**特殊能力を使用して、一名を殺害した罪**で起訴されている」
法廷がざわつく。
「被害者は、非能力者である一般市民。これは**能力犯罪規制法第3条**に違反する重大な事件です」
被告の迅は微動だにせず、検察官を見つめていた。
「弁護人、反論は?」
弁護人の男が静かに立ち上がった。
「異議あり。この事件には重大な矛盾があります」
「矛盾?」
「そうです。被告人はたしかに能力者ですが、**彼は一度も能力を使っていない**」
法廷が再びどよめいた。
「証拠は?」
弁護人は微笑し、テーブルに置かれた資料を広げた。
「検察側の提出した証拠映像には、たしかに被害者が突如として倒れる瞬間が映っています。しかし——」
映像が再生される。
そこには、突然、被害者が苦しみ出し、血を吐いて倒れる様子が映っていた。
しかし、その場にいた迅は、**何もしていなかった。**
「被害者が倒れる直前、被告人は微動だにしていません」
裁判官が資料に目を落とす。
「では、被害者は何によって死亡したのか?」
弁護人はゆっくりと口を開いた。
「被害者は、**自らの能力で死亡した**のです」
「……何?」
弁護人は静かに語る。
「被害者である男は、**隠れ能力者**だったのです。しかし、彼は能力犯罪規制法を利用し、逆に被告人を罠にはめようとした」
「そんな馬鹿な!」
「いいえ、証拠があります」
弁護人は、新たな資料を提示する。
「被害者の遺体を調べた結果、彼のDNAには**違法な遺伝子改造の痕跡**が発見されました。つまり、彼こそが能力者だったのです」
「それでは……」
「そうです。**被告人は無罪です。むしろ、彼こそが被害者なのです。**」
法廷が静まり返る。
裁判官が重い口を開いた。
「判決を言い渡します」
全員が息をのむ。
「被告人、片倉迅——」
「無罪」
**(了)**