「新しいミッション」(ミステリー)
「警察だ! 中にいるのはわかっている! 出てこい!」
男は密室の中で息を殺していた。
**最悪だ。なぜこうなった?**
記憶をたどる——。
たしかに自分は**殺した**。それは間違いない。
だが、おかしい。
何を、誰を、どうやって殺したのかが、まったく思い出せない。
この部屋に来た理由も、なぜ警察がすぐそこまで来ているのかも、すべてが曖昧だった。
「ドアを開けろ! これが最後の警告だ!」
逃げるしかない——。男は窓から身を乗り出す。
その瞬間、背後で何かが動いた。
振り向くと、**自分がいた。**
自分とまったく同じ顔、同じ服の男が、部屋の隅に座っていた。
「よう、やっと来たか」
そいつは笑った。
男は思わず後ずさる。
「お前は……?」
「俺だよ、お前」
男は混乱しながらも、状況を整理しようとする。
「待て、どういうことだ? 俺は殺したはずだ……なのに、記憶がない……」
「そうだよ、お前は殺した。いや、**殺される側だった、が正しいかもしれないな。**」
「は?」
その瞬間、男の脳に、断片的な記憶が蘇る。
——密室、銃声、倒れる自分。
——警察が来るまでのわずかな時間。
——そして、**何かをリセットするボタン。**
「……そうか」
男はようやく理解した。
これは「実験」だった。
**"殺人犯が、自分自身を殺して、自首するまでの心理プロセス"** を検証する、ある組織の実験。
この部屋に閉じ込められた人間は、自分を殺し、自分を裏切り、自分を逃がそうとし、最終的には自首するように設計されている。
すべては仕組まれていた。
「つまり、俺は次に何をすればいい?」
男は苦笑する。
「簡単さ。お前は"俺"を殺したんだろ? じゃあ、"俺"はお前になって、警察に自首しなきゃならない」
部屋の外で、警察が叫んでいる。
「お前はもう"殺人犯"だ。行けよ、ミッションを完遂しろ」
男は、深く息を吸った。
そして、ドアを開けた——。