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第12話 義妹の後輩は押しが強い

「こんにちはおにーさん! 栗宮紬っす! 先輩の後輩やらせてもらってます!」


 夕月と一緒にいた女の子が眩い笑顔と共に挨拶してくれた。

 先輩の後輩と言われても、情報がふわっとしすぎている。


 顔の横にピース。にかっとした快活な笑顔。長い髪は淡めの色に染められているが、かなりラフな雰囲気の子だ。


 そんな彼女の肩を夕月がぐいーっと我が家とは反対方向に押し出した。


「はい。自己紹介終わり。じゃあ紬、今日はありがと。また明日ね」

「ええっ、ひどくないすかぁ? あたしまだお話したいんですけど!」

「……今日はけっこう喋ったでしょ」

「おにーさんとですよ!」


 叫びながら夕月の押し出す力にぐぐぐぐと抵抗している。こんな必死そうな夕月を見るのは初めてで意外だ。だがその前に、改札前でそんなことをしてたら目立つからやめてほしい。


「やるならとりあえず別の場所にしないか?」

「はい! 別の場所にします!」

「ちょ……兄さん」


 ぱっと手を振り払いにこやかに頷く紬さんの後ろから、夕月に責めるような目を向けられる。

 そんな顔をされても。俺だって状況がよくわからんから困ってるんだ。

 紬さんはきらきらした笑顔で元気よく提案した。


「ファミレスとかどうっすか!」



 ◇



「ありがとーございますおにーさん! 奢ってもらえるなんて! 自分感激っす!」

「……いや、気にしなくていいよ」


 三人で近くのファミレスへと移動。そこでタイミングよく紬さんのお腹が鳴ったのでとりあえずご飯を食べることにした。紬さんは元気にチキンのステーキを切り分けている。なぜ俺は義妹の知り合いと一緒にご飯を食べてんだろう。


 夕月がスパゲッティを巻きながら紬さんにじとっとした目を向ける。


「……紬、さっきもケーキ食べたじゃん」

「自分育ち盛りなんで! 部活中は別腹っす!」


 紬さんの前には大盛りのライスも並んでいる。ボリュームとしてはそこそこあるが、これでも価格は千円を超えない。一回きりの出費ならそこまで痛いわけじゃないから、たくさん食べてくれという気持ちだ。


 それよりも気になったのは。


「部活? 夕月も入ってるのか?」

「……え! おにーさん知らなかったんすか?」


 紬さんに目を丸くされる。もちろん知らない。

 夕月がそっと目を逸らしている。


「……兄さんどうせ帰ってくるの遅いじゃん。だから言わなかっただけ」

「それは別にいいけど。何の部活なんだ?」

「……えっと……」

「料理部っすよ!」

「ちょ、紬……!」


 夕月が躊躇っているところに、ばっさり横から紬さんが言い切った。


「二人とも料理部なのか」

「その通りっす!」


 たしかに夕月はだいぶ料理が上手だ。そういう所に入っていても全然不思議じゃない。

 そう思うのに、なぜか夕月は頬を赤くしている。


「……に、似合わないでしょ」

「え?」

「……なんか私っぽくなくない? 別に笑ってもいいから」

「いや別に。むしろ料理上手いんだし、ぴったりだと思うけど」


 夕月と料理。少し前までなら驚いたかもしれないが、最近は料理を作ってもらってるのに、今更違和感を覚えることなんてない。

 夕月が困ったように目を伏せた。


「そ……そっか」

「夕月先輩のご飯美味しいっすよね。ま、部活だとだいたい作るのは甘い物ですけど~。あ~また先輩のご飯食べたいなぁ~」


 ライスを口に運び、もぐもぐと咀嚼して飲み込む。


「紬はもう自分で作れるでしょ」

「え~人に作ってもらったご飯が一番美味しいっすよ~」


 溜息を吐いた夕月に、だいぶ自堕落な人間らしいことを言っている。気持ちはわかるが。


「おにーさんは毎日先輩の料理食べてるんすか~?」

「まあ、最近はそうだな」

「羨ましすぎる~」


 紬さんがぐだっと背もたれに体を倒した。

 羨ましいと、言われてみればそうだなと思う。俺はかなりありがたい立場にいる。家に帰れば夕月がいて、食事まで用意してくれているのだ。恵まれた生活だ。しかしこの立場に甘えてしまっていいんだろうか。


「……俺も料理くらいできるようになるべきか?」

「え」

「え!」


 夕月が驚いたような声を出し、紬さんがなぜか喜ぶような声を上げた。


「おにーさんってもしかして料理できない組ですか!」

「……まったくできないな」

「お仲間じゃないすか! あたしも夕月先輩に教えてもらってやーっと最近ちょっとできるようになったんすよ!」

「すごい大変だったけどね」


 夕月がぼそっと付け加える。

 紬さんがフォークを立てながらとても明るい笑顔を浮かべた。


「料理に興味あるなら……おにーさん。あたしが教えますよ!」

「……え?」


 今度は俺の口から唖然とした声が漏れた。


「おにーさんっていつもこんくらいに帰るんすか? 残業とかは?」

「ちょ……っと待ってくれ。夕月?」


 救いを求めて夕月を見たが、諦めたように首を振られるだけだった。


「紬の押しの強さは諦めるしかないから」


 ……マジか。


「おにーさん? 明日の帰宅予定は?」

「……残業があるかもしれないから、なんとも」

「じゃあ土曜日にしましょーか!」


 嘘だろ。


「材料とかは買ってくんで! 夕月先輩もいるんで大丈夫です! あたしと一緒に料理やりましょう!」


 そうして次の土曜日、謎のお料理教室の予定が入ってしまった。

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