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第1話 無愛想な義妹と風邪ひきサラリーマン

 俺に義理の妹ができたのは、ちょうど二年ほど前だった。


 ただ、ほとんど会っていない。理由は単純で、住む家が違うからだ。

 俺は社会人で、向こうは高校生。一人暮らしの俺と実家住まいの義妹。


 義妹だって別に俺にあえて会おうとは思わないはずだ。たぶん身近な人物という感覚すら持たれていないだろう。義妹にとって、俺は急に現れた見知らぬ異性だ。


 顔合わせもしたが、すごく不愛想だった。

 愛想が悪いのは俺が言えたことではないが。


 そんな疎遠な関係だが、俺は別にこれでいいと思っている。

 俺は一人が楽だし、義妹もきっと関わりの薄い兄などいない方が過ごしやすい。


 だから義妹とは会っていなかった。

 たまに帰省した時に顔を合わせるくらいだ。

 最近は仕事も忙しいから、連休でさえ帰省してない。

 社会人、水野作馬みずのさくまは一人で毎日ぐるぐる歯車となって会社を回している。


 義妹は元気でやっているだろうか。


 たしかもう高校三年生。大学受験の時期か。

 一応、俺も家族として義妹の幸せは願っている。あまり関わることはないんだろうが。


 そんなことを思っていたら、ある日義妹がうちにやってきた。



 ◇



 その日は目覚めた瞬間に察するくらい、明らかに体調が悪かった。

 体が重い。アラームの音が頭に響く。

 いつも寝不足でだるいが、今日はそれどころじゃない。

 ベッドの上で体を転がして、アラームを止めつつ体を起こす。


「……あっつい」


 呻くように漏れた声はしゃがれていて、吐き出す全部の文字に濁点が付いているようだ。全身が熱っぽい。汗もかなりかいている。


 最近は残業が多くて不調は感じていたが、それが一気に出てしまったようだ。


(風邪でも引いたか……?)


 熱を測ろうと、我ながら危うい足取りでリビングへ向かう。

 床には服や何かのごみが散らばっていて、足の踏み場を探しながら歩く。ふらついた足にはほとんど罠だ。


(掃除してない俺が悪いんだが)


 最近は仕事が忙しいせいで、特に部屋が汚い。


 ここは就職が決まってから引っ越したマンションの一室だった。不動産屋に「大当たりな物件」と推された1LDKの広い部屋。たしかにこの広さや立地にしては驚異的な家賃で値段的には負担じゃない。


 けど一人でいるには正直持て余している。

 掃除も得意じゃないし、料理だってろくにしない。広いキッチンもリビングも宝の持ち腐れだ。


(恋人ができても安心ですよ、とか言われてもな)


 ふと不動産屋に言われたことを思い出して苦笑する。同時にげほごほと咳も出た。


 ぐちゃぐちゃの引き出しから体温計を探し当てて熱を測る。三十八度五分。流石に、出社は無理だ。上司に連絡を入れると、すぐに了承の返事が返ってきた。


 滅多にしない欠席連絡を済ませたからか、今度は眠気が襲ってくる。


「寝る前に薬……いや買ってないか……」


 できれば風邪薬が欲しかったが、うちに常備薬はほぼ無い。元々まめなタイプでもないのだ。すぐ仕事を優先して、日用品ですらよく買い忘れる。普段使わない常備薬なんて買ってるはずもなかった。


(……雪子さんに頼るか)


 幸いなことに、実家はそこまで遠くない。

 引っ越しはしたが、結局距離としては数駅程度の所に住んでいる。


 両親は困った時には頼ってくれと言っていた。できれば自分の世話は自分で済ませたかったが、この状態で出歩くわけにもいかない。


『すみません、風邪を引きました』

『よければ、風邪薬と何か飲み物を届けてくれませんか』

『もし手が空いていたらでいいんですが』


 寝室でベッドに倒れ込み、朦朧とする頭で家族のグループLINEにそれだけ投下した。

 この時間ならたぶん、義理の母である雪子さんが家にいると思う。


 八時十分。既読は一件。

 誰か見てくれている。


 それにほっとして、すぐ吸い込まれるように眠りに落ちた。



 ◇



 次に目が覚めたのは、何かごうんごうんと鳴っている音が聞こえたからだった。


 ……洗濯機? 回したっけ?


 頭にクエスチョンマークを浮かべながらゆっくり体を起こすと、今度は眩しい陽射しが目を射す。そして額から何かぬるいものが剥がれた。


 ……冷却シート?


 貼った覚えも、買った覚えもない物を手に持って、しばらくぼうっとする。いつの間にかカーテンも窓も空いていた。夏前の涼しい風が火照った体に当たって心地いい。

 少しして、ようやく気付いた。


(ああ、雪子さんが来てくれたのか)


 ごほ、と咳き込みつつ、ベッドから立ち上がった。お礼を言わないといけない。それに眠って体調もだいぶ良くはなったが、まだ完治とは程遠いようだ。

 薬を貰って、また眠ろう。


「すみません……雪子さ……」


 そう思ってリビングに出て――目を疑った。

 義理の母がいると思っていたのに、そこにいたのは全然違う、


「あ――おはよ。起きたんだ。……兄さん」


 俺を嫌ってたはずの義妹、青峰夕月あおみねゆづきが部屋の真ん中に立っていた。



お久しぶりです。新作ラブコメの連載を始めました。

少しでも続きが気になりましたら、いいねボタンや☆マークからポイントを押していただけますと幸いです。

モチベーションになりますので、どうぞよろしくお願いいたします!

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