ep.7 キタキツネの憂鬱
「まったく……2人してデレデレしちゃって」
ちょっとだけフクザツだけど、ぜんぜん嫌な気分はしない。
むしろ2人の顔を見ていると、こっちまで、にやけてくるし。
熊田のやつ、マジで感謝しろよな。
ホントまさか何も言ってないなんて思わなかった。
フツー、ホメるでしょっ。あんなにかわいく仕上がったのにっ。
……んまぁ、あの2人、ほっといたら何年経っても進歩しなさそうではあったけど。
…でも……うちの時はあんなにあっさり言ってきたくせに……。
「やっぱ本命相手だとワケが違うってやつかぁ」
真っ赤な顔で、もじもじしっぱなしの熊田とまどかは置いといて、自分の教室にカバンを取りに戻ろうとしたら、最近聞きなれた足音が聞こえてきた。
「のぞき?」
いきなりかっ…! まだ話したことないのにっ! 距離感ない子!?
「そ。のぞき」
なんか悔しいし、余裕で返してやった。
廊下だと熊田たちの邪魔になるし…と、教室に入ったらなぜか付いてきた。
「ふふ」
変な子…。
「ツネちゃん、シローにやさしいよね」
……ツっ……やっぱ距離感ない子?
「真瀬さん…? も、熊田とはずいぶん仲良さそうだよね」
「ランちゃんでいいよ?」
……うっ……やっぱちょっと苦手かも……。
「シローは男の人なのにやさしいから」
「………………?」
……なんか…あった子なのかな……。
その瞬間、真瀬さんが目を細めた。
「ツネちゃんも、やさしいね」
「…ん? えっ…? ……ゎちょちょちょっ……!」
そう言うと、ぺたぺたと近づいて、うちの腰に抱きついてきた。
なんていうか……するっと、ひしっと、しっとりと、……みたいな感じで。
……なんか怖っ……!
……人……だよね……?
「ボク、やさしい人だいすき」
……ボクっ娘だったぁぁっ。
……ってか…なんか…かるくて、ふわふわしてて……ちょっとかわいい……かも?
まどかとは、また違った感じ……う~む。
…ん? こっちを見上げて……戻して……頭をゆらゆら……。
……また、見上げて……戻して……ゆらゆら……?
…………撫でろ、と。
……はぁ。
……んまぁ、仕草はかわいかったからね。いちお気持ち込めて撫でてあげよう。
撫でおろす手に輪唱するように、まわした腕に控えめな力がこもる。
……ちょっとヤバいかも……。
しばらく撫でていると、満足したのか、ゆっくり離れて最後指先をうちの腰から離した後、なんかもう小悪魔としか言いようのない視線を向けてから、ぺたぺたと去っていった。
……あの子、ホントに人なの?
教室には口を「×」みたいにした、うちだけが残された。
「帰ろ」
ほどよいところで、まどかを迎えにいこうかと思ってたけど、今日は2人にしてあげよう。2人とも、がんばったしね。
いや、一番がんばったのは、うちだけど。
めっちゃ、えらかったし。
きっと明日も、あいつがホメた笑顔で笑うんだ。
別にホメられたからってわけじゃないけど。
もともと天然ものだし。
「なんか変な子にも、なつかれちゃったしなぁ…」
ちょっとは…まぁ…わるくはなかったけど……?
お好み鯛、買って帰ろ。