51-55
51イエス・キリスト
毎朝きっちりヒゲを剃る イエス・キリストが
立派な裁判官が判決を下す 自分自身に
リンゴの皮を剥くように バナナの皮を剥く
草木の花が咲くように 紙を裂く
イヤホンから流れる音楽を ぼくの耳が逆流させる
部屋の空間を ハサミが切り刻んでてバラバラにする
お風呂に入って 身体を洗わない
本を読んで 字が読めない
詩は描く 絵画は書く
ぼくの中のからっぽが ぼくの中で渋滞している
52うっかり
郵便物を出すようにいい使った
宛名をボールペンで書くべきところを
クレヨンで書き
封をしてノリテープをつけるべきところを
修正テープを引いて
切手を貼るべきとことを
何も貼らずにそのまま郵便ポストに投函する
世の中には二種類の人間がいるとされている
うっかりする人と
ぽっかりする人だ
53今日この頃
午後の紅茶は午前中飲んでも美味しいと感じる今日この頃
コンビニにバナナが一本しか売ってない今日この頃
ごろ寝しても目が冴えて眠れない今日この頃
目が冴えても何も思い浮かばず悩んでいる今日この頃
知人が知らんぷりしたまま
近くにいたらしい今日この頃
明日のこの頃が今日この頃になるとき
昨日のこの頃が押し出されて
慌てた悲鳴をあげてこぼれ落ちる
あまり違わないことなのに
54カーニバル
坊さんたちのカーニバル
般若心経を唱えながら
軽快に足を開いて
尼さんたちも恥ずかしげもなく
踊り明かす
坊さんたちの謝肉祭
木魚を叩きながら
俗世の格好に身をやつして
淫らな話をしながら楽しげに
托鉢をしに街に出る
坊さんだって尼さんだって
やることはやってるのだ
誰だって
やることにはかわりないのだ
55ステンドグラス
ステンドグラスのような
モザイク模様の
パステルカラーで彩られた
三日月を見ていると
悲しくなる
どうしてこうも望みは遠いのか
いつになったらぼくは解かれるのか
手には届かない月がやけにくそ明るい
街が影絵となっていく
風が生温かい
ぼくの身体に通り抜けていく風は
ぼくの知らないどこかへ向かっていく
ぼくの心はあるべきところにないし
どこへいったかもわからない
代わりにいるリンは一緒にいてくれるが
何も答えてくれない
今は無感情でそこにいるだけでいい
月のステンドグラスにヒビが入ったみたいな感情を保っている
音楽が小部屋をつくって
そこにぼくの居場所を用意してくれているけれど
冷たい足で大地に立っている
冷たい手で顔を覆う
黙っていると三日月の声が囁いてくる
おまえは本当の悲しみを過去の瞳の中に置いてきたと