STORIES 022:色彩と感覚のブルース
STORIES 022
あなたの見ている空と、僕が感じている空は…
実は全く違うのかもしれない。
.
子供たちの登校風景を眺めていると、色とりどりのランドセルに目がゆく。
僕らの頃は、2色。
男の子は黒いカバン。
女の子は赤いカバン。
制服とか校則とか、批判される場面が多いルールや習慣もあるけれど。
経済的な理由やさまざまな事情から、「みんなと同じ、限られた範囲、たくさん用意しなくて良い」ということに助けられている人たちも多い。
それはそれで、優しい側面も持っている。
でもね…
物事の選択肢が増えたり、選ぶ楽しさや迷うもどかしさがあるというのは、とても大事なことだよね。
.
十数年前、新宿伊勢丹のランドセル売場。
素材も形もデザインも、僕らの頃とは比べ物にならないほどバラエティに富んだ鞄が並ぶ。
僕の息子が選んだのは、キャメルで横長のランドセル。
面白いのを選んだね。
目立ちたい訳じゃなく、気に入ったもの。
こういうとき、親としての意見や感想は伝えるけれど、できる限り本人の意思は尊重したい。
自分の希望が通らずに手に入れたものって、その瞬間から後悔みたいなものが付きまとってしまうから。
欲しかったもののはずなのにね。
.
僕が色を選ぶとき。
小物なんかは、赤や黒を選びがち。
楽器もそうかもしれない。
洋服はモノトーンがベースだけれど、原色を差し色にすることもある。
お酒のボトルや缶は、やはり目立つ色のものを手に取る傾向がある。
.
好きな場所。
空から水平線、波打ち際まで…
さまざまな濃淡のブルーで構成された海辺。
木々と木漏れ日、せせらぎのキラキラと輝く反射に、安心感で満たされる緑深い森。
直線と曲線、照明と音。
人工的な配色で溢れた都会、つくられた世界。
月も星も見えない、数メートル先くらいまでしか視界が届かない暗闇、黒い世界。
…おそらく、徹底的に振り切れている感じがあれば、どんな景色も好きなのだろう。
.
僕は、色覚検査で必ず引っかかる。
赤いボールペンの文字が、黒く見えている時もある。
10色以上で色分けされた分布図とか、グラフとか、きちんと見分けられない時も。
それ色が違うよ、日常生活で指摘されることも、たまにね。
テストをすると、明確に結果が出るのだ。
あの、たくさんの小さくてカラフルな円が並んだカードを使って、書かれている数字を答えるというやつ。
極端に見えにくい時もあるけれど…
周りの人と違う数字が見えていることもある。
AくんとBさんは「5」が見えるという。
僕には「2」としか読めない。
色弱、と呼ばれる個性・特徴。
.
でもね…
アパレルのショップで店長をやってたこともあるし、ウェブサイトやコンテンツ作成のチーフとして10年以上働いていた実績もある。
少しの工夫をすれば、解決できる問題ってたくさんあるんだよね。
青・黄・赤の3色の信号機だって、どの交差点にあっても並び順は必ず同じだ。
世の中には、同じように色を認識する人もいれば、色のない世界で生きている人たちもいる。
視力に頼らず暮らしている人だっている。
みんな個性だ、と言い切ってしまうほど、単純な問題ではないけれど。
.
「色覚異常」は、先天的で遺伝によるものが多い。
僕の両親は、因子を持つが発現していなかった。
染色体の組み合わせにより、表面上は現れないことがある。
僕の息子は、遺伝の呪縛からは逃れた。
妻と僕から受け継いだ染色体の組み合わせから、色弱に関する因子が外れたのだ。
でも彼と結婚する相手は、わからない。
その個性を持つ人とめぐり逢ったなら、またこの問題の輪の中に引き戻されることになるのかもしれない。
もちろん、それが恋愛の障害になってはならない。
息子にも何度かその話をした。
障害ではなく個性で、ありふれたことだと。
そんな小さな問題なんて気にならないほど、素敵な相手と恋に落ちればいいんだよ。
.
あなたの見ている空と、僕が感じている空は…
実は全く違うのかもしれない。
でもさ、青い空っていいよね。