最終話 ここにある幸せ
「兄さんっっっっ!!!」
いつぞやこちらに帰って来た時と同じように、玄関の鍵が開く音とともに俺に向かって突進してくる少女が一人。
しかし学ばない俺ではない、今回は傾向と対策によってするりと横にずれる事でそれを回避しようとして……
「ぐぇっ!」
それに追従するかの如く軌道を変えたそれは、見事に俺の鳩尾にクリーンヒットした。
「ただいま兄さん!」
「……おかえり、もいいんだけどいったん離れろ!」
鳩尾に着弾した後、直ぐに両手を背中側に回して抱き着いてきた鈴音を無理矢理引きはがす。
「ぶーぶー、ちょっとくらいぎゅってしてもいいじゃん」
「せめてそれは後にしてくれ、ほらそのせいで横に目をキラキラさせちゃった人もいるから……」
「優佑、私もそれやりたい」
「……はいはい、また今度な」
本音を言うならば自分の鳩尾を守るためにも断りたいところではあるのだが……
この期待に満ちた目でこちらを見ている有栖のお願いを断るのは、俺には無理そうだ。
「ぶーぶー」
「ぶーぶー」
しかし今それをやりたかった少女たちには不満だったようで、二人して俺にブーイングを飛ばしてくる。
「ていうか父さんと母さんはどうしたんだよ」
「私途中から走って来たから多分もう少しで来ると思うよ――ほら」
そう言った時には玄関の扉がガチャリと開いていて、およそ一年ぶりの両親との再会は両側から女子に文句を言われているという何ともまぬけな状況だった。
「あー……えーっと…………おかえりなさい」
「ただいま優佑…………私達が居る前で手を出すのは止めときなさいよ」
「言われずとも出さねーよっ!?」
「出さないの……?」
「なんで鈴音の方が乗り気なんだよ」
「え……それを私に言わせるの?」
「おいこら、何でそこで照れるんだ」
家族が帰ってきて早々、先程まで静かだったこの家が一気に騒がしくなる。
「と、そんな事は一旦置いておいてまずは有栖ちゃんにご挨拶しないとよね、後でしっかりさせてもらうつもりだけれど先に自己紹介だけさせてもらうわね、初めまして。私は木戸葵、知っての通り優佑と鈴音の母親よ、そしてこの横にいる荷物持ちが父親の木戸拓真ね」
「……初めまして。私、氷室有栖といいます、お願いします」
「ええ、これからよろしくね」
鈴音が来る前からずっと緊張してソワソワしていた有栖だったが、初めて会う俺の両親にまだ緊張が解けていないようで、動きや言葉がカチカチになっている。
「お母さん、僕のその説明は流石に酷いよ……」
「あら、そうかしら? 日本に戻ってくるのが遅くなった原因さんにはピッタリの称号かと思ったのだけれど?」
母さんの雑過ぎる紹介に顔を引き攣らせながらせている父さん、有栖との初めての顔合わせで父親なのに説明が荷物持ちにされたのにはきちんと理由がある。
というのも大晦日の前日には帰ってくる予定だった三人なのだが、父さんの仕事の都合によってこちらに来るのが遅れてしまい、結局年が明けるまでに帰って来られなかったのだ。
かくいう俺は年明けの日に家で一人というのも寂しいだろうと、英一郎さんの粋な計らいで大晦日から年明けにかけて初めて有栖の家にお泊りをさせて貰っていたので、楽しく年越しを過ごせていた。
なので俺や有栖は被害を被る事なく、しかし来るのが遅れてしまった母さんと鈴音に文句を言われ、ただでさえ低い父さんの家庭内ヒエラルキーは更に下がってしまったようだった。
「それにしても、まさか優佑がこんなに可愛い子を捕まえるなんて思わなかったわ」
「思わなかったったって……いや、まあ俺もまさか有栖と付き合えるなんて思って無かったけどさ」
荷物を片付けて早々、俺と有栖をリビングのテーブルに集めた母さんは待ってましたと言わんばかりに、俺と有栖を質問に攻めし始めた。
「有栖ちゃんは本当にこの息子でいいの?」
「は、はい、私は優佑がいいです」
「あら、そんなに優佑の事を好きになってくれるなんて嬉しいわ。それと、私に敬語なんて使わなくていいわよ、優佑や鈴音と話す時と同じようにしてくれて構わないわよ、将来の娘なんだからお義母さんって呼んでくれても……」
有栖はまだ母さんや父さんに対して緊張が解けてないようで、慣れない敬語を使って喋っている。しかし母さんは遠慮なしに話して欲しいようで……
「流石に気が早すぎるだろ」
「あら、将来の娘になる事は否定しないのね?」
「……そりゃあ、自ら手放すような事はしないけど」
「あらあら優佑がそんな事を言うようになるなんて、やっぱり愛は人を変えるのね」
更にツッコミを入れようかと思ったが、何を言っても更にニヤニヤされそうだし横にいる有栖も嬉しそうにしているので、わざわざ否定する事も無いだろう。
(……あながち間違いでもないしな)
今の自分を去年の自分に見せても偽物にしか思えないほど、状況から考え方まで変わっている。それも全て良い方に――となれば、聞いたところで嘘にしか思えない程だろう。
「有栖も嫌なら嫌っていうんだぞ? 母さんは否定しなかったらどんどんいろんな事やらせるだろうから」
「んーん、大丈夫。……お義母さんとお義父さんは凄く優しそうだから」
「あら嬉しい事言ってくれるわね! とりあえず今日の夜はお赤飯ね!」
「よし、なら僕も奮発してお昼は有栖ちゃんが何でも好きなものを食べに行こうか!」
有栖の一言に喜んだ両親が、笑顔でそんな調子の良い事を言い出した。
「良かったな有栖、お昼は父さんの奢りで何でも食べれるってさ」
「何でも?」
「ああ、値段とか気にせずに好きなもの選んでいいって事だよ」
「……優佑とお義母さんの手料理はダメ?」
「あら、お父さんに用はないですって」
「えっとそんなつもりじゃなくて……」
有栖に手料理が食べたいと言われて喜んだ母さんが父さんにマウントを取りに行った事で、有栖があたふたとしながら否定を入れる。
汚い大人のマウント合戦に有栖を巻き込むなと言いたいところだが、俺の手料理も食べたいと言ってくれたので今回ばかりは母さん側の肩を持つことになるだろう。
そんなこんなしている間にも、有栖を抱きしめ困らせている母親が一人……
「はいはい、有栖が困ってるからそこまでな」
母さんから有栖を引き離すと、母さんは大袈裟にブーブー言ってくる。
「騒がしい家族でごめんな」
「……んーん、私、今とっても楽しいの、まるでママとパパがいた時みたい」
「有栖……」
「それも全部優佑のおかげ」
そう言うと同時に有栖は勢い良く抱き着いてきた。
「わわっ」
何とか踏ん張って体勢を保ちながら少し回りをみると、幸せそうな表情で俺の胸に頬ずりをする有栖に、それを興奮した表情で写真を撮りまくる母さん。そしてそれに気付いて「ズルい!」とこちらに走りこんでくる鈴音と、微笑ましそうな表情でこちらを見ている父さん。
不思議なものだ、一年前までも幸せは周りに沢山あったのに今の幸せは格別に違う。
そんな幸せを噛み締めながら、俺はそっと有栖を抱き返した。
ここまで読んでくださった読者の皆様、本当にありがとうございました!!!
これにて『ちょっと不思議な後輩が俺の家に毎日通うようになった』を完結とさせていただきます。
なんだかんだ3日に1回の投稿が途切れず最後まで来れたのは、偏にここまで読んでくださった読者の皆様のおかげです。
改めてありがとうございます。
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またどこかのあとがきでお会いしましょう!
ありがとうございました!!!




