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六六話 思っている事



 向けられる視線から逃れるように向かった先は、文化祭中は使用禁止になっている図書館だった。

 ルール違反ではあるのは重々承知の上だが、中でご飯を食べる訳でも、物を壊したり盗んだりするわけではないのでこのくらいは大目に見て欲しい。


 幸いにも入り口には鍵がかかっておらず、そのままするりと中に入れば慣れ親しんだ本の香りが心を落ち着かせてくれる。


 ようやく溜まりこんでいた息を吐き出して胸を撫で下ろす。

 有栖も限界だったのだろう、ここに着いた途端、崩れるかのように地べたに座り込んだ。






「……ごめん」


 お互いにまず何を話していいか分からず、この場の空気が膠着状態に入ろうとしていた時、それを嫌うかのように有栖が弱々しくポツリと呟いた。


「……ごめんって、有栖が謝る事なんて何もないだろ」

「でも、私のせいで優佑がバカにされた」


「そんなの有栖のせいな訳がない!」

「ご、ごめん……」

「あ、いや、こっちこそ急に大きな声出してごめん」


 あの状況をだれがどう見てもあの二人組が十割悪いというのに、有栖が謝る理由がどこにあるというのか。

 少なくとも小学一年生の頃の話を持ち出して人を貶してくるような人のために謝るというのなら、有栖には一つくらい文句を言わなくてはならない。


「……有栖はさ、自分の事過小評価しすぎ。家族以外と全然関わってこなかったから言われ慣れてないだろうけどさ、有栖は相当凄いし魅力があるんだよ。お世辞でも、励ますために言ってる訳でもなく、俺は本心からずっとそう思ってる」

「……あぅ」

「さっきのやつらだって、自分には無いものを沢山持っている有栖を見て嫉妬したから八つ当たり紛いの事をしてきたんだ。そうでもなきゃ10年近くも前に会った人の事なんて覚えてもいないさ」

「…………」



 やはり褒められる事に慣れていないのだろう、真っ白な有栖の頬は赤く染まってきていて、それでも褒める事を辞めない俺を恨めしそうに見つめている。

 かといって、今回ばかりは俺もここでやめる気は毛頭無い。


「あのさ、この際だからはっきり言っておくけど、有栖はもっと自分の価値を理解してないとダメだからな。どうしていろんな人に目を向けられるのか、どうして有栖とお近づきになりたいって思う人が沢山いるのか、どうしてさっきみたいな人が嫌がらせをしようとしてくるのか。――ちゃんと理由分かってるか?」

「……」

「長いこと人と関わってなかったとはいえ薄々自分でも分かってるだろうけど、有栖は圧倒的って言っていいほど可愛いんだよ。それこそテレビで見るようなモデルさんや女優さんと遜色ないくらいに、そんな人がもしかしたら手が届くかもしれない距離に居たら、ほとんどの人が話してみたいと思うし嫉妬する」


 出会ってからもう半月が経とうとしている今でも見飽きる事のない容姿だと思うし、いつもドキドキさせられる。

 仲良くなってからは距離感の近さにドギマギさせられているし、無意識な可愛さに何度やられた事か。

 それは恐らく、関りが続く限りずっと変わらないと思う。


「有栖はもっと自信を持って、私は可愛いですけど何か? って心持ちで居ればいいんだよ」


 図々しくなれとまでは言わないが、有栖はそのくらいの心意気を持ってくれないと、さっきのような連中に間違いなくメンタルをやられてしまう。

 ……それに、そんな自己評価だと自身の事を安売りしてしまいそうで、なんだか嫌だ。


「…………優佑も」

「ん?」

「……優佑もそう思う?」

「そんなの当たり前だけど」

「…………そう、なんだ」


 そう言った後、有栖の顔が更に赤くなっている事に気づいたことで、ようやく自分が今まで何を言っているかの意味を理解した。


 俺は有栖の為に自身の魅力を理解して欲しくて熱弁していたが、それを本人に直接言うというのは……


(……いや、恥ずかしッ!?!?)


 恐らく今の俺は有栖と同様に顔を真っ赤にしている事だろう、体中の血液が顔に集まってきているのが分かる。


「…………こ、こほん、とにかく有栖は自分の凄さをもうちょっと理解して欲しいって話」

「……ん」

「分かってくれたらいいんだ。……ごめん、有栖が一番大変だったのに急に変な話しちゃって」

「んーん、嬉しかった、から」


 それからしばらく二人の間で無言が生まれた。

 二人しかいない図書館で隣り合った席に座って、カチ、カチ、という時計の音と、お互いの呼吸音だけが聞こえる。

 しかしそれは決して気まずいものではなく、どちらかというと赤くなった顔を落ち着かせる為の時間であった。


 そんな静寂を破ったのは、またしても有栖からだった。



「……優佑」

「なんだ?」

「今日、楽しかった」

「俺も今までで一番楽しい文化祭だったよ」


「……優佑」

「なんだ?」

「来年は二日とも一緒に回りたい」

「もちろん、俺もそうしたいなって思ってる」


「……優佑」

「なんだ?」

「好き」

「ああ、俺も有栖の事が好き…………え?」




 ……………………………………………………え?




 ………………………………………………………………………………え?






















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