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六五話 過去との邂逅



 漫画研究部と手芸部合同の出し物を二人で体験した後は、他の色々な出し物を見て回った。


 一年生のクラスがやっていた射的では、案外俺の方が有栖よりも上手く、勝負しようと言った有栖が少し悔しがっていたり、謎解き部という珍しい部活が開催していた脱出ゲームでは、有栖がズバズバと謎を解き明かしていってそれに感激された有栖が部活に勧誘されたり、はたまた野球部が主催のストラックアウトでは、お互いに肩が強くなくて全く見当違いの方向にボールが飛んでいって二人で笑ったりと、様々な事を楽しんだ。


「色々見て回ったし、飲み物でも買って少し休憩するか」

「ん、ちょっと疲れた」


 忘れてはならないのは、有栖が病み上がりだという事だ。

 もちろん有栖の様子に気を配ってはいたが、もしかしたら無理をしているかもしれない。

 もう十分といっていいほど文化祭を楽しめたし、時間的にも休憩後にあと一つくらい回って終わりでもいいだろう。


 ドリンクを売っているクラスで、それぞれアップルジュースとオレンジジュースを購入して近くの空いていたベンチに腰掛ける。


「美味しい」

「だな、結構動き回った後に飲むといつもより美味しく感じる」

「この後どうするの?」

「後一つくらいどこか見てもいいかなとは思ってるけど……有栖の体調は大丈夫か?」


 疑っている訳ではないが、一応昨日の例がある。

 もし無理しているのを隠しているのであれば、今日はここで終了でもいいのだが……


「大丈夫、全然しんどくない」

「まあどうせそう言うと思ってたけどさ、もし本当にしんどくなったら直ぐに言うんだぞ?」

「分かってる、優佑は心配し過ぎ」

「それは昨日の有栖を思い出してから言って欲しいかな」

「……む、それを言われると勝てない」




 お昼時も過ぎてそろそろ文化祭も終わりに近づいているからか、今日の最初に比べると人は段々と減ってきている。


 廊下にぎっしりといた人も目に見えて減って視界が通りやすくなったからこそ、見つかりたくない人にも見つかってしまう事だってある。






「……あれ、もしかしてあそこの氷室じゃない?」


 少し離れた所からそんな声がしたかと思えば、金髪でピアスやネイルを付けてチャラチャラとした、いかにもギャルのような容姿をした女子二人組がこちらに向かって歩いてくる。


「うわ、やっぱり氷室じゃん」

「氷室って誰よ」

「ほら、小学校の一年生の途中から中学最後まで全く学校に来なかった奴よ」

「そういえばそんな奴居たわね。で、何でそんな奴がこんな進学校にいんのよ」


 ゲラゲラと笑いながらどんどんこちらに近づいてくる二人組。


 まさか有栖が小学校に通っていた時の友達かと一瞬思ったが、それは有栖の表情を見た瞬間直ぐに違うと分かった。

 つい先程まで楽しそうにしていた有栖とは一転、歯を食いしばって何かに怯えているような表情になっている。


 急に熱がぶり返してきて体調が悪くなったとも考えられなくは無いが、恐らくそうではなく原因はこんな事を考えている間にもこちらに近づいてきているこの二人組のせいだろう。


「ねえ、あんた氷室だよね? なんでこの学校にいんの?」

「……」

「だんまりしてないで教えてよ、それとも何? 大好きなママがいないと喋れないわけ?」

「ッ……」


「コネ使って入学してんじゃないの? それとも無駄に良い顔使ってたりして」

「うわ、なにそれ、サイテーじゃん」


 出会い頭に好き勝手言ってくるこの二人に耐えきれなくなったのか、俺の腕を握っていた有栖の右手の力が更に強くなる。


 かくいう俺も怒りを抑えられそうにない。憶測だけで有栖の事をバカにした上に、恐らく分かっていて母親の話を出してきているのはいかがなものか。


「いきなりやって来て何だ、有栖の事を何も知らない癖にバカにするのも大概にしろよ」


 自分でも思ってなかったほど低い声が出る。


「は? なにあんた、……まさかこいつの彼氏とでもいうわけ?」


 こんな奴が、と笑う二人組。


「親もいなけりゃ男を見る目も無いって事だ、こんな事でキレるし見た目も普通過ぎるやつ選ぶとか……面白すぎるでしょ」


 笑いをこらえるのに必死なのか、手で口を押えてバカにしたような目でこちらを見る二人。


 俺の事をバカにするのは結構だが、それによって有栖まで貶されるのは我慢ならない。

 反論しようともう一度口を開こうとした時、しかしそれより先に言葉を発した人によって俺の言葉は遮られた。


「……バカにするな」


 声は震えている、目尻にはうっすらと涙が溜まっている、握る手もプルプルと震え出した。

 でも、それでも有栖はもう一度声を出す。


「優佑をバカにするな!」


 今まで聞いたことが無いほど大きく、そして凛とした声が響き渡る。


 まさか有栖が反論してくるとは思って無かったのか、散々有栖をバカにしていた二人はびっくりして固まった。


「あなた達に優佑の何が分かる。優しくて、かっこよくて、私を何度だって救ってくれて――私の一番大事な人をバカにするな」


「……な、なにそんなムキになってんの」

「そ、そうそう、私達ちょっとからかってただけじゃん」


 そんな子供だましな言い訳を聞いてなお、有栖の表情は依然として冷徹な無表情のままで、しかし有無を言わせぬ凄みがあった。

 それに恐れたのか、それとも騒ぎを聞きつけて寄ってきた周囲の視線に耐えきれなくなったのか、目の前の二人は後ろを向いて逃走を図ったところで……


「お姉さん方、風紀維持のためこちらに来てくれるかな?」


 教育指導の先生と、隼人たち生徒会が駆けつけた。





「隼人、お礼を言いたいのは山々だが――」

「それ以上に大事なことがあるんだろ? さっさと行って来い」

「ありがとう」


 それだけ隼人と言葉を交わすと、すぐさま俺はさっきまでが嘘のように肩で息をしている有栖の手を取ってこの場を離れた。









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